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プロローグ 逃避行

「────逃げて!」


 兄妹達の悲鳴や大人達の怒号が石造りの部屋に反響していく。


 深い森の中にあるであろうこの施設からはゴウゴウと火がでているだろう。


 ここは人体魔力実験のためのいわゆる、非合法な施設だ。


 そんな中走り惑う子供たちは被験者。そしてそんな子供たちのか細い腕を逃すまいと握り、怒号をあげるのは、黒いローブをまとった魔術士達だ。そして廊下の奥からは金属がこすれ合う音がする。恐らく王国の騎士たちが迫り来る音だろう。


(ここはもう終わったな)


 景色かすむし頭にはモヤがかかったようだ。つらい状態でも必死に私は兄や姉の声がする方へ足を動かしつつ、そんなふうに思っていた。


 これはまたとないチャンスだ。日々繰り返される実験に耐える必要はもう、ない。


(だからと言って騎士達に頼るのはダメ…)


 この非合法な実験には高位貴族が1枚噛んでいると思われる。

 以前馬車に乗って物資を持ってきた業者のマントに紋章と思われるものがあった。それがこの施設の魔術士達のマントにはない。つまり、こんな奥まった森のなか、何年も継続して物資を運べる者となったら、それ相応の力を持っている。

 それが紋章をもっているとなったら高位貴族だろう。


(騎士達はこの施設の事実をもみ消しにきたやつらかもしれない!)


 そんな最中にきた者達を信用できない。

 だから、子供たちは必死に逃げていた。


 ついに到着した騎士たちに応戦しつつも魔術士達は切り伏せられ、子供たちは捕まっていく。


 その光景を目尻に私と数人の兄妹たちは施設を抜け出して森に入った。


「このまま、奥、へ!!!」


 姉として子供たちに慕われていた少女が叫ぶ。


「待つんだ!」


 後ろから追いかけてきた騎士たちがまた1人と子供を捕まえる。


 どうしようもなく、やるせない感情にさいなまれる。しかし、ここで足を止める訳にはいかない。


 そうして森の深部に着く頃には、姉なる少女と私の2人になっていた。


「いやぁぁあ!!!」


 ついに騎士の1人に腕を掴まれた私は悲鳴をあげつつ、振り払おうともがく。しかし施設の悪辣な生活のせいで振り払う程の力は入らなかった。


「こんのっ、離せぇぇええ!!!」


 姉が横から騎士に体当たりをし、そのはずみで腕が外れた。


「逃げて!早く!逃げて!!!」



 姉と騎士がもつれあう。そんな姉からあがった声に、はじき出されるように私は走り出した。


「追え!」


 騎士達の走る音を後に置いていき、私は必死に逃げた。どうやら木で入り組んだ森の中、甲冑の重さもあり全力で走れないようだ。


「ハァ……ハァ、ふぅっ……、ふぅぁっ……!」


 しかし、なんて酷いんだ。体力が底をつきかけた時に、木の根に足を引っかけ、転んでしまう。

 それを機に1人の騎士に追いつかれた。


「落ち着いて……我々は君たちを保護しにきたんだ」


 かつてないほど心臓がバクバクとする。息がままならない。


「さぁ、こっちへ来るんだ。」


 騎士が何かを言っている。だが、逃げなければと心が叫び、恐怖心に体が縛られる。


「もう大丈夫だよ……」


 い、いやだ、捕まる!せっかく兄妹達が逃がしてくれたのに!お姉ちゃんが逃がしてくれたのに!!!


「だいじょう、」


「いやぁぁぁぁあああああああ!!!」


 騎士に腕を掴まれた瞬間、私は魔力を無理やり暴発させた。

 体が悲鳴をあげる。しかし、荒れ狂う力を外に押し流したため、騎士と私の間に爆発が起き、2人の体は引き離された。


 爆風の勢いに押され、宙を舞う。その浮遊感を感じたが、痛みのせいで体は動かない。


(──────ぁっ)


 そのまま木々を突き抜け飛び出した先は崖だった。

 なにも出来ず、私はそのまま崖から落ちた。



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