博物館 新兵器開発部
私『では続きまして新兵器開発部を紹介いたします。人類連合軍の携帯兵器、車両、人型兵器、艦船など、ありとあらゆる兵器を開発し、戦場に投入した部署です。なお業務内容が一部ながら技術部と丸被りしているせいで、よく混同されてしまいますね』
私『ああ、余談ですが特務大尉が最後期に愛用した銃は、多少新兵器開発部も関わっているとはいえ、基本的な開発・設計は民間の会社でしたので、戦争で追い詰められた人類の底力は凄まじいですね』
『へー』
私『話を戻しましょう。新兵器開発部は先程紹介した技術部の面々と普通に会話を成立させられるので、彼らもまた天才の集団という評価が相応しいでしょう。これまた一人の変人に振り回されましたが』
『あー……』
私『あくまで彼らが想定しているのは、人類が安全に使用できる兵器ですので、平均から多少逸脱しているどころか、明らかに人間ではない特務大尉は専門外も専門外。しかも専用機の開発なんていうものに駆り出されて阿鼻叫喚でした』
A『そんなにだったんだ……』
私『ご覧になっている集合写真は、誰も彼もがその道で神と称えられる専門家ですが、全員がこれ以上は無理……を合言葉にしていたくらいですからねえ』
私『少し歴史を語りましょうか。センター近郊の戦いで特務大尉がリヴァイアサンを鹵獲すると、彼の名声は不動のものになりました。そして軍上層部は特務大尉が人型機動兵器の操縦において、卓越した技量を持っていることを知ったため、旗艦級戦艦ならぬ旗艦級人型機動兵器の開発が決定されましたが……現場、新兵器開発部の受けは最悪でしたね』
『どうしてだ?』
『英雄が乗る兵器なら現場は盛り上がりそうなものだが……』
『忙しかったんじゃなーい?私はバイトで余計な仕事が増えたらうげって思うもん』
私『ははは、まさにですね。ガル星人に対抗するのにクソ忙しい中、人間が確実にぺちゃんこになる性能を要求されたのですから、無駄なものを作らせるなと思った新兵器開発部の文句も当然でしょう。丁度皆さんがいる展示品は、当時の現場がどれだけ不安を感じていたかの証拠です』
A『えーっと……本当にこれ作るの? 予算は降りてるんだよな? 英雄のミンチが出来上がるんだけど大丈夫なのか?』
『なんか悲鳴ばっかりなんだけど』
『色々とイメージが……』
『宿題をため込み過ぎてる時の私みたーい。だいぶ違うかー』
私『変に特務大尉関連を神聖視せず、当時のあるがままを残すのは素晴らしいですね。はい。大敗走期において特務大尉が搭乗した、チキンレースの名で知られる実験機のデータを基に開発、設計された旗艦級人型機動兵器バードは有機生命体の搭乗という大前提すら無視した欠陥機になり果て、誰もが単なる置物になると考えました』
『でも特務大尉は乗っちゃったと』
『うーむ流石だ』
『ねー』
A『なになに……自分の目がおかしくなったかと思った。大学は面白くないから行ってなかったけど、学生に交じって物理の勉強しようか悩んだ。バード専用の製造ライン組み立てて、専用の職人確保して、専用の整備チームも編成しましたが、ここ軍だよな?人間の能力の平均値を一人で押し上げてる……凄くいっぱい書かれてますね……』
私『ただでさえ物理学に喧嘩を売ってた人間なのに、まだ特務大尉への理解が浅かった頃ですから、新兵器開発部の衝撃は計り知れないものでした。とは言えバードのメンテナンスとアップグレードの都合上、後方の部署では最も特務大尉と関わりがあったので、すぐに慣れましたがね』
私『では功績の方を語りましょうか。一発撃ったら駄目になる特殊なレールガンなどの、最初からコンセプトが尖りきっている試作兵器もありましたが、きちんと正式採用されたものは、携行武器、人型兵器、車両、宇宙戦艦に至るまで、完璧な性能と運用を成し遂げています』
私『学生の皆さんにはピンとこないでしょうが、カタログ上のスペックはよくてもいざ実戦に投入してみると、問題だらけだった……というのはよくある話なのですよ。しかも反抗時代は、ガル星人の技術を組み込んだ、全く新しい兵器ばかりときたものです。それなのに新兵器開発部が生み出した兵器は、ありとあらゆる環境で戦い抜き、まるで何十年も培ったような信頼性の高さを発揮しました』
『お前、前になんか文句言ってたよな』
『バイト先の新しいセルフレジがエラーばっかりだったからねー』
A『叩いたら直るんじゃない?』・メモ、うっ、頭が……!
私『ご、ごほん。バードもそうです。予算を度外視の上で、人体を考慮していない芸術品や工芸品の類に仕上がったバードは、常識的に考えるとシステムエラーや想定外を引き起こし、そもそも実戦に投入できないことも十分考えられた』
私『でも実際は……まあ、バードが振り回されるという非常識こそありましたが、一から作り上げられた新兵器は反抗時代の手前には完成し、中身の無茶苦茶以外でのトラブルは起こしませんでした』
私『彼らもまた間違いなく、宇宙規模に膨れ上がった戦いに貢献した、必要不可欠の支柱なのです』
私『以上が特務大尉に最も振り回されながらも、現場の要求に正解を提供し続けた天才集団、新兵器開発部になります。なお彼らが作り出した最高傑作にして進化の袋小路、バハムートは奥に安置されていますので、その時にまた説明します』
私『では次のコーナーは……情報部やら保安部は展示していい資料がそもそもないか。おっと、特務が率いた艦隊。第一年中戦えます艦隊、略して第一艦隊のコーナーですね。大敗走時代と、リヴァイアサンを勝手に旗艦にした反抗時代共に、戦力の中心であり続けた者たちです』




