博物館 技術部
私『では続きまして、人類連合軍技術部のコーナーへようこそ。軍の基礎となる技術開発や敵技術の解析が主な仕事です。展示されているのは、集合写真のほかに彼らが携わった技術についてもありますが、皆さんには少々理解し難い内容ですね』
『軍人っていうか学者みたいな人の写真ばっかりだな』
『ああ』
『ねー』
A『きっと私達じゃ、よく分からない単語とか話が飛び交ってるんだよ』
私『仰る通り。基本的に人類の言語を話していないと思ってください。まあ、あくまで当時は。ですけど』
私『時期によって技術部というのは大きく違いましてね。戦前と戦争直後は当然、軍関係者が多い集団です。この時期なら常人とも比較的会話は成立しますが、それでも専門用語だらけなので素人はついていけません』
A『じゃあ戦時中は……』
私『写真資料の通り老若男女と軍民問わず、人間の頭脳ランキングを上から順にぶち込み、奇人変人は当たり前の闇鍋と化しました。一般の人間が言葉を理解出来たら奇跡と評していいでしょう』
A『なんか聞いちゃいけない感じの話のような……』
私『隠されてるような裏の話ではないですし、当時は当たり前だったのでぶっちゃけますが、権利とか言う前に人類の責務を果たさないと詰みますから、多少強引な引き抜きやら、人格とか考慮せず能力を重視することもあったようです』
『おい。なんか思ってたのと違うぞ』
『だな』
『ひょっとしてブラック?』
私『ドの付くブラックですが、中にいた人間達はドの付く変人ばかりでしたからねえ。頭の中でずーっと数式が浮かんでたせいで、口調まで影響されてる人間。勝手に作った独自の言語を押し付けようとした学者。あれ、これ、それ、としか話さない技術者。面倒臭いから一単語以上話そうとしない若者。そんなのが犇めいてたのは、結構有名な話ですよ』
『ええ……ヤバいだろ』
私『彼らの名誉のために言っておきますが、冗談でもなんでもなく人類最高の英知が結集してました。そりゃあ、ガル星人とは数世紀も技術格差があったのですから、それくらいの奇人変人じゃないと務まりませんよ。しかもそこに宇宙の知識が集まるとまで謳われた、マール大学の教授陣が合流したものですから、正真正銘の闇鍋です……一人の飛び抜けた変人に振り回されましたが』
A『えーっと、特務大尉ですか?』
私『特務大尉が絡んだときだけ、彼らのIQは凡人レベルに麻痺するので、常人でも会話が可能になりました。茶化してませんよ? 本当にその類の証言に事欠かないくらい、技術部は特務大尉に振り回されているのです。きっかけは勿論ご存じでしょう』
『リヴァイアサン解析だろ?』
私『ええその通り。戦争当初、人類とガル星人には笑ってしまうほどの技術格差がありました。それなのに初めて技術部が解析したのは、ガル星人ですら二番艦が建造できなかった至宝です。言葉もたどたどしい幼稚園児に、大学入試で合格しろと言ってるようなものですね。だから政府はありったけの天才と問題児を投入。替えが効かないレベルの人間が昼夜を問わない缶詰状態になりました』
私『そして彼らは成し遂げた。リヴァイアサンは解析しつくされ、得られたデータは反抗時代に作られた宇宙戦艦たちに活用されたのです。これが世間一般に認知されている技術部のスタートですね。結局、戦争終結までこの軍民一体の部署は稼働を続け、終戦と共に役割を終えました。そのため今の技術部は非常に常識的です』
『軍の部署って言えるー?』
『まるで専門の研究機関だな』
私『民兵出身で本名不明の男が事実上の全権を握ってた軍ですからねぇ。ああ、この時代を深く研究するときのコツを教えてあげましょう。細かいことを気にしてはいけない。です』
私『さて、真面目な解説をしましょうか。元々匙を投げたくなるような技術格差があり、絶えずアップデートを重ねるガル星人の足を、技術部は一度食いついたら絶対に離しませんでした』
私『ガル星人がどんな新兵器を投入しようと、必ず現物を届けてくれる男がいましたからね。分析と解体で丸裸にし、対抗技術を作り上げ、新兵器開発部がそれを形にして前線に提供し続けました』
私『客観的事実を述べると、バハムートという例外はありますが、人類がガル星人を技術的に上回ることは出来ませんでした。しかし逆に言えば大きく離されることなく、タコの二本足を掴み続けたのです。以上が人類史上最大の天才集団、人類連合技術部のお話でした』
『ほえー。地元で天才って言ったら、パン焼きの職人の話しか聞かねえから新鮮だ』
『パン関連だけは流石に誇張……ではないか』
『実際、パンの天才はいるよねー』
A『うちのお爺ちゃんもそう言われてたよ』
私『ごほん。どんな職人でも天才というのはいるのですね。ええ。はい。間違いなく。きっと。では続きまして、やはりこちらもまた天才の集団。仕事が技術部と被っていますが、新兵器開発部のコーナーになります』




