【書籍発売一か月記念】軍曹のログ
宇宙戦争掲示板の書籍が発売されて一か月になりました! 皆様本当にありがとうございまああああああああす!
それを記念してついにあのお方。
『音声日記。昨日のシチューは美味かった』
『音声日記。前回は手を抜き過ぎたが特別なことなんて起きない。メル星周辺の部隊に配属されたが長閑だ。特にメル星の地表は穏やかで、小麦農家と話をしたら時間感覚が曖昧になりそうだった。それと聞いていた通りパンが美味い。パンに違いがあるのかと言ってた連中に、黙って食ってみろと言いたい程度には美味かった』
『音声日記。いつも通り』
『音声日記。本当に長閑すぎる。正直、軍人をやめて隠居した気分だ』
『音声日記。いつも通り』
『音声日記。ちらりと聞いた話だがセンターの一部で有名な三流新聞の記者がメルに訪れたらしい。こんなことが話題になる程度に暇という証拠なんだろう』
『音声日記。パン。美味い』
『音声日記。ひま。ひま』
『音声日記。前の日記から随分サボっていた。どうもセンターから一番遠い惑星で通信障害が起こっているようだ。メルで通信障害が起こった時のことを考えたが、知人の小麦農家達はそんなことがあったのか? と言いそうだ』
『音声日記。どうもおかしい。通信障害が拡大しているようだ』
『音声日記。とんでもないことが分かった。通信障害の原因が異星人の襲撃だった。しかも各地で軍が敗退している。最悪の場合、ここも戦場になるかもしれない』
『音声日記。ここへの襲撃は間違いないようだが、戦略的価値がないから敵は小規模のようだ。それが客観的な必要戦力ではなく油断であってほしい。いや、敵の油断に賭けているだけでも話にならないが』
『音声日記。最後の音声日記にならないことを祈って』
◆
『司令部聞こえるか! 包囲されたが可能な限り引き付ける! うおおおおおおおおお!』
≪レジスタンスの部隊がそちらに向かっていとの報告があります!≫
『民兵がこんなところに来ても!? お? おお? なんだ!? 敵がどんどん減っているぞ!?』
『これを一人でやったのか。素晴らしい腕をしているな。レジスタンスに参加してほしい』
『リーダー! その人軍属っすから立場と台詞が逆っす逆ー!』
『うへえ。両手で持ってるとはいえ車両用のガトリングじゃん』
『まさかリーダーの親戚なんじゃ……』
『あ、あんたは誰だ!?』
『レジスタンスのリーダーだ。リーダーと呼んでくれ。よし、このまま周囲のタコを殲滅するぞ』
『お、おい!』
◆
『私の権限で臨時ながら特務大尉の階級を与える。なにか要望はあるか?』
『ではあちらの軍曹を副官にします』
『承知した』
『軍曹頼むぞ』
『サーイエッサー!』
『そして敵の前線司令部の位置が分かったから叩きに行く』
『え?』
『了解っすリーダー! じゃなかった特務大尉!』
『あー忙しい忙しい。軍曹よろしくお願いしますね』
◆
『邪魔をするな特務大尉! うっ……』
『特務それ上官です!』
『事態は一刻を争うのだ軍曹。さあ行くぞ』
『あ、はい』
『こういう時は慣れだよ慣れ』
『スクープ、特務大尉が反逆。は記事にできないか……』
◆
『特務、それがマール大学から運び込んだAIの機材ですか?』
『そうだ軍曹』
『ああ、貴方が軍曹ですか。そこにいるエージェントが最も素晴らしい兵士の一人だと言っていたので興味がありました。一応尋ねますが、単独で敵基地を破壊できたりしませんよね?』
『いや、特務と比べられても困る』
『ほっ。それを聞いて安心しました。なにせあのエージェントが太鼓判を押すものですから、空を飛んだりするのではないかと疑ってしまいましたよ。では原始人の分類は一人だけということで』
『付いて行くのが精一杯だ』
『あー。はい。なるほど。えー。そうですね。また違う枠を用意しておきましょう』
◆
『敵中央を突破する』
『サーイエッサー!』
◆
『崖を登るぞ』
『サーイエッサー!』
◆
『敵の司令官を仕留めてくる。指揮は軍曹に任せた』
『サーイエッサー!』
◆
『軍曹主砲を撃て』
『特務!操作方法が全く分かりません!』
『なに? そんなのは適当にやったら撃てる。例えばこれだ……言った通りだろう?』
『サーイエッサアアアアアアアア!』
◆
『久しぶりの音声日記。昇進することが決まったものの周りの連中は、俺達にとって軍曹は永遠の軍曹だからね、とか。階級が変わってもずっと友達だよ、とか学生の卒業式のノリだった。特務は昇進しなかった。俺も上官へのチョークスリーパーを段々と気にしなくなっていたが、よくよく考えると大事だった。しかし、事態は一刻を争っていたから仕方ない』
『音声日記。リヴァイアサンの解析であらゆる人員がデスマーチ中らしい。主砲の打ち方だけは知ってるぞ。なにせ隣で見てたからな』
『音声日記。特務専用機が開発されているようだが……うん……』
『音声日記。教官をしていたら新兵器開発部からコンタクトがあった。特務専用機のテストパイロットを探しているが常人では不可能なので、噂に聞く俺ならばあるいはと思ったらしい。顎が外れるかと思った。絶対にミンチになるから丁重に断ったが、ひょっとして特務にできることは俺もなんとかできると思われていないか?』
『音声日記。人類反撃』
『音声日記。連戦連勝だがあちこち忙しくなっているのに巻き込まれて飯を食う暇もなかった』
『久しぶりの音声日記。銀行強盗が特務に絞められた。被害者の会が自分の時はこうだったのかと思って首を触るだろうなあ』
『音声日記。特務がテレビ出演。絶対に戦場に戻りたがっている。一見すると真面目な顔だが間違いない。明日、急に戦場に戻っていても全くおかしくない』
『音声日記。やっぱり』
『音声日記。タコが単一のクローン生命体だということが発覚したらしい。それで戦術に柔軟性がなく、予想外の事態への対処に遅れが生じていたのかと納得した。まあ特務に対しては例外だ。誰も対処なんてできない』
『音声日記。楽観はしていないが戦争のケリがほぼ付いたかもしれない。タコは全く抗えずに敗退を重ね続けているし、特務には全く対応できていない』
『音声日記。戦争に勝利。特務がM.I.A。そんな気はしていた』
『音声日記。特務に関する情報が全て消えた。そういうことなのだろう』
『久しぶりの音声日記。記念博物館の話を聞いた。記者は写真と端末を送るらしい』
『音声日記。おかしいな裏博物館に招待されなかったぞ? 技術部に行き方を教えてもらうべきか……それはそうと、バハムートが展示されていた。スペックと戦果を見ていた若者が疑っていたが、間違いなく本当のことだろう』
『音声日記。戦後生まれが増えて特務も歴史になりつつある。それでいいのだろう。少なくとも歴史そのものが消え去るよりは。そして特務という英雄が必要とされていない時代なのだから。期間限定とも言っていたしな』
『音声日記。いつも通り』
『音声日記。いつも通り』
『音声日記。明日は何を食べようか』