周りがなーんにも分かってなかった頃に、無理矢理分からされた存在
前回のちょっとだけ出演じゃ我慢できなくなった!
それはそうと一番下に、書籍宣伝用の画像を載せときます!
『ザ・ファースト。バードはこれ以上無理なのか? 新兵器開発部からも、劇的な改善は期待しないでくれと言われた』
『おかけになった電話番号は現在使われておりません……はあ。エージェントに対する見積もりがまだ甘かったというか。頭痛を感じる機能がなくて心底よかったと思いますね』
『AIが古典的な冗談を言えるならその内に頭痛も感じるだろう』
『それこそ冗談になってないのでやめてくださいよ。自分で言うのもあれですが、エージェントのせいでおかしくなっている現状、本気で可能性があると心配してるんですから』
『それで?』
『前も言いましたが無理ですよ。何段階もすっ飛ばした素晴らしい機体がいきなり完成するのは諦めてください』
『分かった』
『ああ、そう言えば私を作った教授を覚えていますか?』
『中々話が分かる人だった』
『戦時の特例を盾にワープ船を接収されて、ポカンとしてたのを話が分かると表現するならそうでしょうとも。話を戻しますがあの教授は、私を作り出しただけあって全人類で五指には確実に入る人物です。その教授と同僚達が各部署で活躍してますよ』
『そうか』
『エージェントがマール星の教授や科学者たちを丸々保護したのは、敵総旗艦の奪取に比べると地味な評価に落ち着いています。しかし、後世があるとするなら、勝るとも劣らない功績だと絶賛されるでしょうね。なにせセンターの知識人と合わせて脳が二倍になったに等しい。まあ、今は缶詰の中で腐敗を起こしかけてる物体ですが』
『メルからの航路上にあってこれ以上なく運がよかった』
『私の運は悪かったですが。あとから確認したんですけど、エラーを吐き出してる超高性能AIを叩きますかね普通? それもエージェントの腕力で』
『どこもへこんでないだろう』
『機械なんだから大事なのは外見じゃなくて中だよ中! くそっ! マジでその内メンタルカウンセラーの世話になりそうな気がしてきた!』
『その冗談は面白いな』
『冗談じゃねえし断言できる! 本格的に反撃が開始されたら、てめえから受けたショックのメンタルカウンセリングは予約待ちだ! そんでノウハウが溜まりすぎてマニュアルだってできるだろうよ!』
『できることをしているだけだ』
『ああそうかい!』
『ふと思ったんだが』
『おっほん。なんですか?』
『急に叫ぶAIは驚かれるんじゃないか?』
『お前にだけだよ馬鹿野郎!』
『そうか』
『ああああ……もし頭痛を感じるAIが誕生すれば、それは進化と言えるのだろうか……私がそれを証明する例には絶対なりたくない……!』
『政府の動きは?』
『こ、こいつ。はあ。大統領は色々と覚悟を決めてますね。箱舟も上手くいかない可能性が高くなったので、政府の人間も全てのリソースをガル星人に割くべきだと判断しているようです』
『……箱舟?』
『ああ、エージェントは知る立場でありませんでした』
『名前からして、なにを計画していたかは大体分かる』
『ま、安直ですから……一応の確認ですが、箱型の戦艦を造る計画とか思ってませんよね?』
『オリーブ』
『なんだ。ちゃんと知ってましたか。稀に思うのですが妙なところで博識ですよね』
『タコからは逃げ切れないはずだ』
『ええ。解析は完全ではありませんが、それでもガル星人の技術力を考えるとかなりの確率で捕捉されるでしょう』
『降伏論は今もないか?』
『前も話しましたが、初手で殲滅戦を仕掛けてきた敵性宇宙人に降伏して助かろうとする人間は……まあ、少なくとも政府レベルではいませんね』
『そうか』
『ただリヴァイアサンに関しての懸念は強く残っているようで、まだ議論が続いていますね』
『ふむ』
『本当に最前線に持っていくつもりですか?』
『反対か?』
『悩んでいます。あれを防衛線の要にすれば負けることはないでしょう。そして絶対に失うことができない言葉通りの至宝です』
『だろうな』
『寒気を感じる機能がなくてよかったと心底思いましたよ。はっきり言って正気ならあんなものを作る筈がありません。防衛とか勝利ではない。全存在を完膚なきまでに破壊することしか考えていない。なにもかもを殺すという一念で生み出された芸術です。宇宙にどれほどの文明がいるかは知りませんが、それでもあれ一隻を所持したなら覇権文明と化すでしょう』
『だがタコと何百年も付き合う余力はない』
『仰る通りです。はあ……色々と手を回しておきましょう。知っての通り壊しても替えはありませんからね』
『助かる』
『ああ、それと賭けの代金はちゃんと準備中なので安心してください』
『礼を言う』
『こういう時は素直なのに、普段はどうしてああも扱いづらいのか』
『それは心の中で押し留めておけ』
『おおっと失礼。AIに心はないものでして』
『どう考えてもあるだろう』
『ま、それは置いておきましょう。他になにかありますか?』
『ない』
『それは結構。こちらもありませんので、またなにか必要があれば連絡します』
『了解した。それではな』
『ええ……ふむ。なんだかんだ上手くやり遂げられる。そんな気にさせるのは、一種の才能かもしれませんね。匙を投げて諦めたとも表現できますが』




