【ミステリ以外も味わい深い!】江戸川乱歩短編ベスト3
※注意点※
・作者(真波)は短編作品を中心に乱歩を読み進めていますので、ランキングのほとんどを短編および中編作品が占めております。悪しからず。
・ネタバレ厳禁のルールに則り、結末やトリックが判らない程度で作品を紹介しています。
江戸川乱歩の作品は、ミステリ以外にも「エログロ」の世界観で多くのファンを集めています。個人的にはそこに「幻想」というワードも入れ込みたいですが、とにかく推理もの以外にも多彩な魅力溢れるのが乱歩ワールド。
今回は、推理もの以外の乱歩作品から真波が押しに押す3作品をご紹介します。
【1位】鏡地獄
これは正直、推理ものを含めたすべての乱歩作品(まだ未読も多いですが)の中でマイ・ベスト3に入ると思われる作品です。文庫にして30ページにも満たない短編ですが、その短さの中に乱歩ワールドの魅力がギュギュギュっと凝縮されているのです。
あらすじを簡単にまとめると、Kという男がある「不幸な友だち」について語ります。その友だちは、幼少の頃からレンズや鏡など、物の姿が映るものに異常な興味を持っていました。やがてその興味が高じて、友だちは次第に「鏡」の狂気に憑りつかれていく――という具合です。
物語のラスト、「鏡」の悪夢に迷い込んだ友だちはどうなってしまうのでしょうか。
ちなみに真波も、幼少期は万華鏡を覗きこむのに夢中になったり興味半分で「合わせ鏡」を実験してみたり、「鏡」にやたら興味を持っていた時分がありました。今でも、水を入れたガラスのコップに光が当たり、その透過光が床に映って綺麗だな……と思ったりします。「鏡」は現実と非現実の境界、こちらの世界からあちらの世界に踏み込む入口のような役割を果たしているのかもしれません。
妖しくも美しい、そして悲しい「鏡」の物語を乱歩テイストでぜひご堪能ください。
【2位】芋虫
乱歩作品の中でも、特に読み手を選ぶタイプの物語です。いわゆる、乱歩作品でよく耳にする「エログロもの」の一つに該当するのではないでしょうか。
ウィキペディアによれば、乱歩先生が本作を奥さんに読ませたら「いやらしい」との評価を頂いたり、これを読んだ芸者さんたちが「ごはんがいただけない」とこぼしたりしたそうです。
私も読んでいる最中は多少しんどかったですが、それでも色々と考えさせるものがある奥深い作品としてランクインしました。
戦争で負傷し五体不満足となってしまった須永中尉と、彼の妻である時子の奇妙に歪んだ関係。その関係の果てに待つ結末とは――。
『芋虫』に関しては、ここであらすじを紹介するよりも興味があればとにかく読んでみてほしいです。ただし、読後に後悔してもそれは真波の責任ではありません。悪しからず。
真波が本作で見出したのは、「人はどこまで他人を愛することができるか」という究極のテーマでした。その答えを探し求めて、これからも『芋虫』のページを捲ることがあるかもしれません。
【3位】押絵と旅する男
乱歩の幻想世界を体験したいのなら、『押絵と旅する男』は一読すべき作品です。
主人公の「私」が、蜃気楼を見に出かけた帰りの汽車で不思議な男と同席するところから物語は幕を開けるのですが、まず「蜃気楼を見に出かける」という設定がすごい。この始まり方で、読者を一気に物語の世界に引き込むのですね。乱歩先生の手腕が光ります。もう蜃気楼の下りだけで一本の小説になりそう。
そして、主人公が汽車で相席になった男。彼は、精巧に作られた押絵を所持して旅していました。その押絵に秘められた物語を「私」は男から打ち明けられるのですが、それがまた蜃気楼を見ているような、夢幻の世界を彷徨い歩くような感覚に陥るのです。
本作の冒頭は「この話が私の夢か私の一時的狂気の幻でなかったなら、あの押絵と旅をしていた男こそ狂人であったに違いない」と始まるのですが、この書き出しが物語のすべてを集約している気がします。手を振りかざせば霧の如く儚く消え失せてしまいそうなのに、一方で「あれは幻ではない」と思える確かな感触が残っている。『押絵と旅する男』を読み終えると、「主人公が蜃気楼を見に行った」という設定がいかに作品内で生かされているかを実感できます。
本作を未読の方は、乱歩の築いた幻想世界にどっぷり浸ってほしいと思います。
それぞれの話の魅力を語り始めたら、こんな文字数では到底足りない……江戸川乱歩の世界はそれほど奥深く、味わい深いのです。ちょうど、目の前にズラリと並べられたワインを一つひとつ試飲するようなイメージでしょうか。一つとして同じ味のない乱歩作品に、ぜひ舌鼓を打ってほしいと思います。