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今夜12時、誰かが眠る。  作者: 下之森茂


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置行堀ののっぺらぼう

私と同い年ほどの警察官が、

額に深いシワを刻み、目を細めた。


「いい年してなにをやってんだか。」


警察官の言葉が反省を促しているのか、

それとも単に疑問を口にしただけなのか、

私は自分が何故今に至った理由を考えた。


私は神童と呼ばれていた。


私の出身は未だにツチノコを伝承にしている

娯楽に乏しい田舎の村だった。


ツチノコはネッシーなど

未確認生物が話題になった70年代に、

村おこしの目玉として白羽の矢が立った。


腹の中央が膨れたヘビで

目撃証言以外には大した逸話がない。


食べ過ぎたヘビと呼んでも過言ではない。


ツチノコ探し程度しか娯楽もなかったので、

私は小学低学年の時に高学年で習う漢字を

すらすらと読み、大人たちを驚かせた。


そこが人生の絶頂期だったのかもしれない。

私は天狗になっていた。


それから普通の中学校に入って

成績はクラス内で中の上、

高校では下の上だった。

もうひとつ下だったのかもしれない。


とにかく別の意味で大人たちを驚かせた。


なんとか入れた大学でひとり暮らしを始め、

なんとか卒業して都内でどうにか就職し、

なんとなく自宅と会社を往復する

平々凡々な日々が続いた。


なんとなくで会社を辞めた私は

くたびれ果てて年の暮れに田舎に帰ると、

昔懐かしい小学校のクラスメイトらの顔ぶれを

久々に見て驚きの連続だった。


クラスメイトのほとんどは

当然のように結婚していて、子どもが居て、

起業したり、家業を継いだり、

また会社ではそれなりの役職に就いていた。


気付けば小学校卒業から20年が経っていたのだ。


遠く都内で生活を過ごしていた私は

浦島太郎の気分であった。


神童などと呼ばれていたのも今は昔、

私は劣等感に(さいな)まれながら

黙って酒を(あお)った。


浴びるように酒を飲み、

醜く膨れ上がった腹鼓が、

残酷なまでに歳月を感じさせた。


いつまでも過去の栄光にすがり、

手を抜いては言い訳ばかりが上達し

仕事も後輩に追い抜かれて出世の目処もない。


そんな私はよく酒に溺れた。


酒が原因で大きな失敗をすることもあるが、

酒は私から嫌な気分を忘れさせてくれた。


酒に酔った私は勢いづいて、

昔のように人々を驚かせた。


人々たちはおおいに笑い、

私はおおいに酔って気持ちが良かった。


気が付いたら目の前に立っていたのが

地元の警察官で私の元クラスメイトだった。


再会の喜びに舞い踊った私だが、

警察官は神妙な顔つきでこう言った。


「いい年してなにをやってんだか。」


制服姿で職務中の警察官は

目を細めて、私のだらしない裸を見た。


締まりのない太鼓腹を見下ろした私は、

ツチノコを出して突っ立っていた。


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