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今夜12時、誰かが眠る。  作者: 下之森茂


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事故物件

足音がする。

破裂音がする。

女の笑い声がする。

まぶたを閉じているのに、

目の覚める閃光を時折感じる。

地震も無いのに本棚の物が落ちる。

テレビが点いてチャンネルが変わる。

それから蛇口が開いている。


鈍感な男が借りた部屋は事故物件であった。


事故や事件、または孤独死などによって

定義されて称されるが、明確な基準は無い。


中には、科学的な根拠の無いものまで

この世の中には多く存在している。


ポルターガイスト現象と呼ばれるものである。


そんなメリットと言えば家賃が少し下がる程度だ。


男は鈍感を貫いたが、

近所迷惑になるのを避けて

いくつかの対策を講じた。


まずは床に防音マットを敷いた。


厚さがあるので机の脚部がマットに沈み

椅子などのキャスターの動きが鈍るが、

エクササイズ用にも使えた。


それを機に運動を始めると冷え性を解消でき、

フローリングの冷たさも気にならなくなった。


本棚の物が床に落ちても、マットがあれば

衝撃は吸収されて壊れることもなくなった。


それからヘッドホンを買った。

ノイズキャンセル機能の付いたものだ。


マンションは繁華街に近く、周囲に夜の店も多い。


小さなライブハウスもご近所にある。

昼でも深夜でもお構いなしに若者たちが集まると、

花火を始めるなどで非常識に騒ぎ出しては

警察や救急車が来ることは少なくなかった。


雑音が減れば自宅作業にも集中でき、

夜もアイマスクを付けることで安眠出来た。


それからテレビを捨てた。


男はテレビ番組の時間に合わせて

生活することはなかったし、

テレビを点けたままの作業もしなかった。


録画は大半が映画の放送ばかりだったので、

配信主流となった今では無用の長物だった。


ついでに無駄な受信料を払わなくて済む。


蛇口の締め忘れは元々多かったのは

男自身のせいであったが、

一連の対策ついでに気にするようになった。


――ねえあなた、本当は

  私のこと見えてるんでしょ?


いつもの笑い声のあとで、

女が男に声を掛けてきた。


不法侵入ではない。

この女は男が部屋を契約する前から存在している。


女はいつも家の中をふわふわとうろつき、

無神経にも足音をどかどかと鳴らして歩き、

本棚の本を読んでは物を落として片付けず、

テレビを勝手に点けて自堕落に過ごした。


それがテレビを捨てたことで抗議に来たのだ。


だが男は目を合わせたまま返事をしない。


構って欲しがっている相手の

都合に合わせてしまっては思うつぼだ。


下手に反応して女の要求を飲めば、男は

テレビを買い直すだけで済むはずもなく、

要求がエスカレートするのは必然である。


鈍感を貫いた男は、

ずぼらな女と事故物件での同棲が続いた。


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