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今夜12時、誰かが眠る。  作者: 下之森茂


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私は憑かれている

私はオバケが苦手です。


中学校では女子たちの間で

怪談話が密かなブームだったので、

私は耳をふさいで恐怖に耐えました。


学校のトイレにある一番奥の個室、

近くの裏山にある無縁墓地の人影、

病院の地下にある霊安所のうめき声、

ヒトに姿を変えた妖怪など…。


怖い話は数多あり、勉強どころではありません。


受験が控える3年生の秋の終わり、

塾の帰りでへとへとになった夜の帰り道で

私はついにオバケに憑かれてしまったのです。


夜闇の中で目を光らせて私を呼ぶ。


耳目をふさいでも目が合った時点で

それは手遅れでした。


おどろおどろしい濁った黒色の影に

金色の瞳が脳裏に焼き付きました。


夜中には高い悲鳴のような声で呼ばれ、

私は睡眠までも奪われました。


朝になると気付かない内に腕や脚、

顔まで血まみれになっていました。


学校と塾とで勉強漬けの生活に加え、

さらにオバケによって勉強のみならず

安眠を妨害され続けると、

私は年末に倒れて入院をしました。


わずかひと晩の入院でしたが、

病院といえば怪談話を思い出してしまい

怖さに安静にするどころではありません。


取り憑いたオバケのほうが

もはや身近な存在になっていて、

感覚が麻痺していたのかもしれません。


受験前に再び入院する可能性を懸念して

塾を辞め、学校と家の往復で無理のない

生活を送るようになっても、オバケとの

憑き合いは長く続きました。


高校、大学を経て何とか入社した会社は

とても忙しくて塾の日々の再来でした。


即戦力が求められる中で、私に

専門知識が乏しかったのも問題でした。


また厳しい上司の指導の元で

任せられた作業にやりがいはありましたが、

人員不足で残業早出徹夜が当たり前でした。


そんな日々のある朝に、

オバケが私に向かって鳴きました。


金色の瞳を細め、私の目を見て

弱々しい声で鳴きました。


オバケは弱っていました。


私は自分の忙しさにかまけ

そのことに気づきませんでした。


上司にオバケの話をしましたが、

「こんな忙しい時期に馬鹿げた話で休むな!」

と罵倒を受けて、私は内心で酷く憤りました。


自分が今まで何に奉仕していたのか

考えさせられたのは、

この時だったのかもしれません。


会社を辞めて5年後、

私に取り憑いたオバケはこの世を去りました。


あの日の私になんかに取り憑いて、

ちゃんと成仏できたんでしょうか。


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