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今夜12時、誰かが眠る。  作者: 下之森茂


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死んでみた

一念発起して死んでみた。


記憶はおぼろげではあるが、

自分が自殺に及んだことを理解するのは早かった。


薄っすらとした霊体? とやらになったものの、

自分が何をすれば良いのか分からず

路上をさまようのみであったところに、

スーツ姿の男が突如目の前に現れて肝を冷やした。

この男も同じく薄っすらとした存在だった。


「あなたはここで何をされてるんですか?」


そう男に尋ねられても、自分が何をしているのか

わかっていればさまよう苦労はしない。


死ぬ時に頭でも打ったのであろうか、

意識はひどく朦朧としていた。


「死んだのですけど、何をどうすればよいやら。」


そう、おかしな相談をしてみたところ、

男のメガネが光ったようにも思えた。


「あなたはオバケになったのですね。

 最近、怪しいオバケがこの辺を

 さまよっていると通報がありました。

 私はオバケ管理局の者ですが、

 転入届けはお済みですか?」


「オバケ管理局? 転入?

 それで成仏するために

 必要な宗教か何かでしょうか?

 自分は無宗派なんですが…。」


「ははは。オバケに宗教は関係ありません。

 オバケは社会の一員ですので、きちんと

 ルールを守っていただかなければいけません。

 オバケが正しくオバケになるべく妄執の為に、

 我々オバケ管理局が目を光らせているのです。

 オバケだからと言ってヒトに取り憑いたり、

 脅かして事故を起こしてはおおごとです。

 過失または殺人容疑で裁かれてしまいます。

 いわゆる『地獄行き』というやつです。」


「オバケ社会ってそんなに厳しいんですか。」


「もちろんですとも。

 オバケには学校や会社はなく基本は自由ですが、

 自由な社会には責任が伴うことをお忘れなく。」


それから男に言われるがまま、

転入とやらの手続きを済ませると

再び路上をさまよう無為な時間を過ごした。


オバケになるとオバケとして

責任とやらを果たさなければならないが、

オバケ社会の責任においてまず

ヒトに危害を加えてはいけない。


なのでこうして路上をさまようことで、

オバケとしての務めを果たすのが

自分の仕事であるらしい。


自分はいったいどんな理由で死んで、

オバケになどなったのであろう。


頭にモヤが掛かったような気分であった。


時折生きたヒトに見つけられることもあるが、

すぐに逃げおおせてしまう。


しかし、日夜さまようだけで

オバケ足りうるのだろうか。


その上、オバケ社会においても、

オバケ税なるものが存在しており、

スーツの男が度々徴収をしに来るのである。


オバケ住民税、オバケ消費税、オバケ健康保険、

オバケ事業税、オバケ資産税、オバケ相続税…。


「いったいこの税金は

 どこに消えているんですか?」


今度はオバケ法人税を支払って、

オバケ管理局と名乗る男に尋ねてみた。


オバケに資産などそもそも無いし、

健康保険など死んだ自分に必要さえない。


すると男がまたメガネを光らせると、

ため息まじりに思わぬ返事が返ってきた。


「いまさら何を言ってるんですか、あなた。

 あなたがオバケとして妄執を失わない為に、

 我々オバケ管理局がこうして徴収に

 来ている居るんですよ。」


「俺の妄執って何なんですか?」


「そりゃあ税金の支払いですよ。」


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