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今夜12時、誰かが眠る。  作者: 下之森茂
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ぬらり暮らし

ぬらりひょんは無職であった。


かつて妖怪の総大将と呼ばれた(おきな)は、

その役職を失い現在は就職活動さえもしていない。


もとより自由気ままで堕落した生活を送る

妖怪たちに、指導を行うような時代でもない。


現代の妖怪たちの需要を考えれば当然である。


飢饉と略奪、ヘルメットと火炎瓶が飛び交う

混沌の時代はとうに過ぎた。


今日もタブレットで妖怪新聞の配信を見て、

ぬらりひょんは古い考えを改めさせられている。


冷たいタブレットに触れる度に、

温かみのあった紙とインクを懐かしむ。


記事はどれも物騒な事件ばかりだ。


アカナメは住居不法侵入で捕まり、

がしゃドクロはソシャゲにハマり自己破産した。


犬神はバーチャルタレントとして人気を博たが、

得意の蠱毒(こどく)術で界隈に混乱を招き

ネットの業火でその身を焼いて居場所を失った。


多様性を求められる生き方が重要視され、

女性の権利運動が盛んとなると

ぬらりひょんはさらに息詰まる思いがした。


生意気盛りの猫娘に苦言を呈するものならば

やれセクハラだのパワハラだのと訴えを起こし、

口裂け女からは刃物で襲われたこともある。


これこそパワハラではなかろうか。


「昔は良かった。」などと口走ろうものならば

居候先の雪女に、「また始まった…。」と

冷たいため息と共に老人のやんちゃ自慢と揶揄され

終いには老害と罵られるなど散々いびられた。


これも家庭内暴力の一種であったが、

肩身の狭いぬらりひょんはもはや黙って

耐えるほか自分に居場所はなかった。


家の中で老体を気遣ってくれるのは、

からかっていたヒトの婿(むこ)殿だけだった。


雪女はヒトと(しとね)を共にした妖怪だ。

時代の移り変わりをその身で痛感する。


今日もくたびれ潰れた万年床にもぐり、

床まで伸ばした堕落ヒモを引いて消灯する。


ぬらりひょんは百鬼夜行を懐かしんで眠る。


本シリーズは10月31日まで毎日更新予定です。

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