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時計

作者: ツディメ

やろうと思っていた短編の一つです.

もう1本短編を書くつもりでしたが,あまりモチベーションが沸かず,夏休み中には完成させることができませんでした.呪われし英雄の方もあまり登校することができず,待ってくださっている方,申し訳ございません.(今後,登校する可能性はあります.)

さて,今回は怪異が登場し,日常を侵食してくような作品が書きたいと思い,この短編を投稿しました.楽しんでもらえると幸いです.

「今日はこれで終わりだ.じゃあ日直,頼む.」

「はい!起立!気を付け!礼!」

「ありがとうございました!」

「はい,ありがとうございました.」

 亜美高校,2年2組では,いつものように生徒が勉学に励んでいた.今は6時間目が終わり,皆が部活をしに行ったり,帰路についているところだ.

「よっしゃあ!終わったあ!」

「帰りどっか寄ってく?」

「やべっ!もうこんな時間かよ…….嘘だろぉ!」

 賑やかな声が広がった後,外へとその声は出ていき,教室は静まっていく.心なしか,驚いたような声が多く聞こえたような気がしたが,気のせいだろうか.教室に残っているのは,このクラスの担任である黒井 太一だけだ.

「そういえば,もうこんな時間か.さっき6時間目が終わったばかりだった気がしたが,時間が経つのが早いな.」

 太一が時計を見ると,その針は19時過ぎを指していた.その割にはまだ空が明るいが,今は夏であり,この時間まで日が昇っていることもたまにはあるだろう.

「さて,帰るとするか.」

 こんな時間だ.妻と娘も太一の帰りを待っている頃だろう.そう考え,太一は帰路についた.太一が顧問をしているサッカー部は今日は休みであるため,顧問をしにいく必要はない.



「……もう朝かぁ.」

 目覚ましの音で目を覚ます.彼,波野 優は亜美高校に通う高校2年生であり,2組に所属している.勤勉な亜美高校の生徒の中では珍しく,彼は周囲から,主に教師から怠け者の烙印を押されている.授業中は時計ばかりを意識し,眠い時は寝る.成績は悪くないが,それは試験の直前に一夜漬けしたことによって得たものであり,勤勉な他の生徒に比べると低い.勿論,そんな怠け者の彼が部活動に励むはずもなく,帰宅部である.そんな彼だが,朝は早く出かける.彼の家は学校の近くにあり,徒歩10分ほどの距離しかない.そのため,早く学校に行くことで,遅刻するリスクを負うことなく睡眠時間を確保することができる.

そのために彼は,早く出発する.

「夏なのに何でこんな外が暗いんだ?」

 彼は一人暮らしであり,昼食を作る時間を確保しつつ早く出発するために目覚まし時計のアラームはいつも6時に設定している.今は夏であり,6時と言えばもう日が昇っていてもおかしくない時間だが,何故か窓の外は漆黒の闇に包まれている.

「まあいいか.さっさと昼飯作って出よう…….」

 いちいち気にしていても仕方ないので,いつも見ているニュース番組を見ながら昼食を作ろうとした.

「あれ?何でこんな時間に映画なんかやってんだ?」

 テレビをつけ,いつものチャンネルに切り替えると,そこではニュース番組ではなく,映画が上映されていた.内容は,寄生する能力を持つ侵略者と人間の戦いを描いたもので,かなり残酷な表現が多いもののようだ.番組表を見ると,時間は6:09と表示されていた.

「やっぱ,時間はおかしくないな…….どうなってんだ?」

 他のチャンネルの欄を見てみても,テレビショッピングや深夜アニメなど,6時にやるような番組ではないものばかり放映されている.

「わけわかんねえな…….まあ,気にしていてもしょうがねぇか…….」

 そんなことをいちいち考えていても作業が進まない.睡眠時間を奪われるだけだ.そう考え,昼食を作り,朝の支度をした後,優は出発した.



「やっぱ暗いな…….しかも,いつもいる朝練の奴らもいねぇ.マジでどうなってんのか…….」

 優が家を出た時間は7時前あたりのはずだ.にも,関わらず外は暗いままだ.しかも,この時間になると陸上部の部員たちがこの辺りを走っているのをいつも見かけるが,今日はいない.

「あいつらがサボるなんてことはありえねぇからな…….雨も降ってないし,なんか理由があって休みなのか?」

 あいにく,2年2組に陸上部はおらず,知り合いもいないため事情は分からないのだが,異常な状況が続いている以上,どうしても気になってしまう.頭を悩ませながらも前に進んでいると,目の前に見知った背中が見えた.

「お,よお!光.」

「よお,優.」

 少年は優の方に振り向き,挨拶した.彼は轟 光.優と同じ2年2組に所属しており,趣味が合うことからよく一緒に行動している.彼も家が近いため共に学校へ向かうことが多い.

「なんか,今日変じゃねえか?外も暗いし,テレビも変な感じだったし.」

「だな.さっき何人かあったんだけど,全員2年2組だったぞ.」

「本当か……?1組とか朝練ある奴結構いなかったか?」

「だよなぁ,お,着いた……ってあれ?」

 二人が校門の前まで着いた時,違和感に気付く.

「どうなってるんだ?」

 校門が閉まっており,前には何人かの生徒と,一人の教師が立っていた.疑問を浮かべていると,一人の女子生徒がこちらに振り替える.

「あ,轟くん,波野くん,おはよう!」

「あぁ,おはよう.」

 クラスメイトの女子が挨拶をしてきたので,二人は挨拶をした.

「今日,なんか変じゃない?ここにいるのも2年2組の人達だけだし…….」

 見渡してみると,確かに見知った顔の生徒しかいない.教師も担任である太一だった.

「本当だ.皆2年2組だな…….何で他のクラスの人はいないんだ……?」

「わかんない.空が暗いから皆寝てるのかな……?」

「でも,今はもう7時前だぞ……?運動部の奴らとか,来てないと殺される時間だろ…….」

「いくら空が暗かろうとあいつらは絶対来てるだろうからな…….あいつらもいないとなると……どうなってんだ?」

 結局,疑問が疑問を生むばかりだ.何も解決しない.

「お,波野,轟.お前らも来たか.」

「あ,先生.おはようございます.」

 考え込んでいると,こちらに気付いた太一が歩み寄ってきた.

「先生,今日って休みとかでしたっけ……?」

「いや,そんなことはないはずだ.……今もおかしなことがいろいろ起こっているが,そういえば昨日から色々おかしかった.波野……は一人暮らしだからわからんか.轟,金島,昨日何時に夕飯を食べた?」

「11時ですね.……そういえば,僕はいつも部活で帰りが遅いので,帰った時には夕飯が作られているのですが,昨日は作られていませんでした.飯まだ?って聞いても“何言ってるの?”みたいな顔で見られた記憶があります.」

「私も11時頃です.私も轟くんと同じで,“夕ご飯まだできてないの珍しいね“ってお母さんに言ったら,“まだ早いでしょ.”と言われました.」

「やっぱりそうか…….実は,俺もそれくらいの時間なんだ.で,その後投げかけた疑問とその答えも一緒で,嫁はまだ早いと言っていた.」

 話を聞いていた周りのクラスメイト達も頷いていた.

「違和感はそこから始まっていたのか…….そういえば,昨日時間が進むのが異様に早くなかったか?」

「確かに,6時間目が終わった後にすぐ6時になった気がしたな…….部活の顧問もやった記憶がないのにもう時間が過ぎていた.」

「明らかに何かがおかしい…….でも,今は確かに朝7時で間違いないはずだ.時計にもそう表示されているしな.」

 優が腕時計を見せる.皆,“確かに7時だ……”と呟いて頷いていた.そうしていると,右側からライトの光が近づいてきた.

「君たち,何をしているんだい?こんな時間に.」

 ライトの正体は自転車で,それには一人の男が乗っていた.制服に身を包んでおり,警察官であることが読み取れた.

「こんな時間に何で校門の前に……?まさか,学校に忍び込もうとでもしていたのかい?」

 疑い深い目をこちらに向けて男は言う.

「待ってください.この子たちは,私のクラスの生徒です.」

 太一が男の前に進み出た.

「……教師がこんな時間にクラスメイトを呼び出して,何をしようとしていたのですか?」

 表情を崩さず,男は言う.

「その……先ほどから“こんな時間”と仰っていますが,今は7時です.いつもは校門が開いている時間であるにも関わらず,校門が開いていないという事態に陥っていて…….」

「今が7時?何を言っているんだ?」

 太一が説明している途中で男は首を傾げ,疑問を投げかける.

「確かに,空が暗く,夏の朝にしてはおかしい状況ではあります.それ以外にもおかしな現象は多く起こっていますが,僕の腕時計を見てください.7時と表示されているでしょう?」

 優が腕時計を見せる.これを見せれば,男も納得するだろう……と思っていたが,帰ってきたのは予想外の返事だった.

「……どう見ても3時08分としか表示されていないが?」

「えっ!?」

 そこにいた全員から驚愕の声が上がった.そんなはずはない.皆が見て7時を示していたのだから.

「ちゃんと見てください!どう見ても7時でしょう!?」

 思わず取り乱してしまう.

「落ち着きなさい.まあ,もし時計が仮に7時を示していたとしよう.しかし,君たち自身がさっき言った通り,今を7時だと感じるのは今の状況から見てもおかしいはずだ.その時計がずれている可能性は……というか,何故そこまでその時計を信じているんだい?」

「……それは確かに.」

 正直,男が言うことは最もだ.何故ここまで時計を信用できるのかはわからない.しかし,優は,恐らくクラスメイト達も,心の底から時計が表示する時間を信じている.時計がずれているなど,絶対にありえない.この時計こそが正しい時間を刻んでいるのだ.

「しかし,この時計がずれているなんて絶対にありえません.校門が開いていないのは,絶対におかしいのです.」

「…….」

 太一が強い口調で言い切ると,男は沈黙した.そこから数秒間の沈黙が続いた後,男が口を開いた.

「分かった.ひとまず,家に帰ってくれないか.君たちは今を7時だと思っているようだが,私たちから見ると今は夜中の3時なんだ.納得がいかないとは思うが,いくら待っていても……とまでは言わないが,相当待たないと校門が開くことはないと思う.君たちの時間を基準に考えるならば……そうだな.12時くらいに学校に来てみてくれないか.もしそれで遅刻扱いにされたというなら,私が事情を説明するから,亜美警察署に来てほしい.」

「……分かりました.」

 皆納得している様子はなかったが,今の状況だとそうするしかないのかもしれない.もやもやした気持ちを胸に抱えながら,優たちは学校を後にした.



 アラームの音が響き,それを止める.10時だ.まだ少し眠気があったため優は寝ていたのだ.男はああ言っていたが,優は内心焦っていた.こんな時間に学校に行けば,遅刻間違いない.7時に学校に行った時,警察の男の指示に従ったものの,時計の時間が絶対に間違っていないという考えは変わっていない.そのため,納得しているわけではなかった.いつもとは違い昼食は既に作っているため,優は早速学校に出かけることにした.



「どうなってるんだ…….これは?」

 通学路を歩いていると,朝にはいなかったはずの陸上部の部員が道を走っていた.今は授業を行っているはずの時間なのに,部員たちは熱心に部活に取り組んでいた.

「よお,優.また会ったな.」

「おう,一体どうなってるんだ……?これ.」

「俺にもわからん…….ただ,俺たちのクラス以外の人は,俺たちと違う時間で動いてるということだな.」

「マジかよ…….一体何が起きたんだ?俺たち以外のクラスメイト以外の時間感覚が狂っちまうなんて…….」

「分からん.まあ,取り敢えず学校に行こうぜ.少し眠いけど…….」

 光の言う通り,今は学校に向かうしかない.自分たちの時間感覚が正しいのは間違いないが,今それを主張したとしても何も変わらないし,何とかする方法もわからない.



「おはよう,波野.」

  教室に着き,光と雑談をしていると,一人のクラスメイトが話しかけてきた.彼女は飯田葵.所属しているバドミントン部では全国大会に出場するなどの輝かしい功績を叩き出しており,成績も学年トップクラスという正に文武両道を体現している.朝練が終わり,彼女が教室に来る時間と優達が教室に来る時間が近く,よく話している.

「おはようって……何言ってんだよ,飯田.今は11時だぞ?」

「あんたこそ何言ってんのよ.どう見ても朝でしょ?昼にしては涼しいし…….」

「飯田,時計を見てみろ.確かに多少違和感は感じるが,11時を指しているはずだ.」

 光がそう言うと,葵は腕に着けている腕時計を見る.

「えぇ……?いや,7時だけど?」

そう言って,葵は腕時計を見せてくる.しかし,優と光には11時と表示されているようにしか見えない.

「何言ってんだ!よく見ろ!どう見ても11時だろ!」

「落ち着け,優.」

 あまりにわけのわからないことを言うので,つい取り乱してしまい,光に静められた.

「変なの.」

 そう言って葵は去ってしまった.

「くそっ……何が起こっているんだ!?」

「分からない……取り敢えず,俺たちは他の狂った人の時間に合わせて行動するしかないみたいだな.」

 内心,優はこの状況に恐怖していた.ここまでの非日常を味わったのは初めてだからだ.

しかし,今はこの状況を受け入れるしかない.そんな状況にもやもやした気持ちを抱きつつもいつものように時間を過ごしていると,HRが始まる時間になった.



「起立,気を付け!ありがとうございました!」

「ありがとうございました!」

 太一は,何事もなかったかのようにHRを進めた.

「……今日, 7時に校門の前に集まらなかった人は,この後集まってほしい.」

 教室は少しざわついた.しかし,この状況に違和感を持っている生徒と,そうでない生徒を見分けるためにこのように伝えた.もしかすると,この状況を打開する方法が分かるかもしれない.少し時間を置くと,10人ほどの生徒が教卓の前に集まってきた.……こう見ると,大体成績優秀な生徒と,いつも寝ているという報告を聞くような生徒が集まっている気がする.

「先生,先ほど言っていた意味が分からないのですが……7時に校門の前に集まる様に伝えられましたっけ?」

 前に立っていた女生徒が発言する.

「いや,そうではないんだ.ただ,気になることがあってな.お前たちは今を何時何分だと思っている?」

「え?……8時40分では?」

「8時40分だよな?」

「おう,そのはず.」

「いえ,12時40分です.」

 そこに集まっていた殆どの生徒が8時40分だと言っていたが,一人だけ違う意見を持った生徒がいた.彼は電車で通学している生徒だった.

「何言ってんの?さっき波野もそんなこと言ってたけど…….今が1時なわけないでしょ?」

「そっちこそおかしい.こっちは6時に起きて駅に行ったのに電車が通ってなかったから仕方なく今の時間に来た.何で明らかに時間がおかしいのに平然としてられるの?」

「ありがとう.もう1時間目も始まるし,授業の準備をしてくれ.」

 少し嫌な雰囲気が漂っていたのもあり,今回は解散させた.集めてみて,今この状況に違和感を感じていない生徒の傾向を掴むことはできた.あとはその共通点を考えてみることとしよう.



 6時間目が終わり,奇妙な1日が終わった.時間は既に19時となっているが,それにも関わらず外は明るい.いつもとは違う時間での生活は,優にとっては学校に行く前に睡眠を取ったのもあり,空腹感を強く感じ,ピークだった4時間目に体育があったのがかなり辛かったが,それ以外はそこまで特に変わったことはなかった.そのため,不思議とあまり違和感を感じなかったが,それでも自分たち以外が間違った時間の中で生活しているという点は変わりない.

「一応,明日も7時に来てみるか…….」

 こんな大勢の時間感覚が狂っている中,明日突然元に戻るようなことがあったら大混乱が起きそうだが,一応自分が信じている時間で行動してみることにする.



「やっぱり,そうだよな…….」

 今日も7時に学校に来てみたが,相変わらず校門は締まっている.しかし,昨日とは変わっている点が一つあった.

「何か昨日より増えてないか?」

「あぁ.3組の奴らだな.」

 2年3組のメンバーが,この校門前待機メンバーに加わっていた.そこには3組の担任の海原 康介もいた.

「何で開いてないの!?朝練がある人もいる時間なのに…….」

「そういえば,昨日5,6時間目をやった記憶がないんだよな…….急に6時前になって…….」

「部活も,グランドに出たけどやってなかった…….一体どうなってるんだ?」

 昨日優達が同じ状況に置かれたときのように,彼らも戸惑っている.

「3組の皆,聞いてほしい.」

 3組の方へ,太一が語り掛け,3組のメンバーが注目する.

「黒井先生,一体どうなってるんですか……?これは.」

 康介が太一に尋ねる.

「実は,私達も昨日同じ状況に置かれました.その時警察の方が来て,私達の時間感覚は5時間ずれていると教えられ,4時間後の11時に登校したところ,校門が開いており,生徒は登校いました.……つまり,私達以外の人々の時間感覚が,私達とずれているようです.」

「なるほど……つまり私達は,私達以外の人々の時間感覚を参照して生活しなければならない……というわけですね?」

「そういうことです.」

 それを聞き,3組からは戸惑いや落胆の声が聞こえた.

「時間感覚……?何だそれ.」

「じゃあ今来ても意味なかったってことじゃん!来て損した…….」

「まあ,そういうことらしい.……ということは,解散するしかないということか.」

 周囲の人々との時間感覚が元に戻っていなかったことに落胆しつつ,優達や3組のメンバーは家に引き返すこととなった.



 そして,昨日と同じように11時に学校に登校し,HRも終わった.

「皆,今日1度でもいいからこの教室の時計を見てほしい.特に深い意味はないが,見ておいてほしい.あと,今日校門前に集まった人は前に来てほしい.」

 このまま普通に終わるかと思いきや,太一はよくわからない指示を出した.その意図はわからなかったが,その後の言葉から何かを伝えようとしているのはわかったため,優達は教卓の前へ向かった.

「皆,分かったぞ.この状況を打開する方法が.」

「もしかして,さっきの時計がどうとかっていうのはそういう…….」

「そういうことだ.昨日,3組は体育でこのクラスが開いている間,教室を使っていた.そして,昨日集めた,朝校門の前にいなかったメンバーは,共通点がある.」

「その共通点とは……?」

「……まあ正直,無理矢理な関連付けだと思われてもおかしくないかもしれない.だが,これしか考えられないんだ.」

 少し困ったような顔をした後,太一は言う.

「昨日集めた生徒は,大体成績優秀な者と,授業中いつも寝ているような報告を受けるような者に分かれていた.この二種類の生徒に共通すること……それは,あまり時計を見ないことだ.」

 集まった生徒全員が微妙な表情をしていた.

「そんな顔をしないでくれ…….でも,お前たちからしてもそれくらいしか思いつかないだろう?」

「まぁ……確かに.」

 一応誰が昨日集まったのか大体見当はついているが,実際誰が集まったのか知らない以上共通点を推測することはできず,確かにそれしか思いつかない.

「つまり,時計を見ることがこの狂った時間感覚から脱する方法だと俺は考えたわけだ.だから,俺は時計を見ろと言った.」

「あの伝え方は怪しい気がしますけどね…….」

「……まぁ,意味が分からなかったとしても時計を見てくれることを祈ろう.」

 それから解散し,各々授業の準備に移った.



 太一は1時間目の授業がなかったため,職員室に向かい,溜まっている仕事を行うことにした.そのために自分のデスクに着こうとすると,教頭がこちらへ向かってきた.

「黒井くん……君,一昨日無断で早退したよね?あれは何でなの?」

「何でって……あっ.」

 一昨日,授業が終わった後,その後の記憶がなかったにも関わらず19時になっていた.あの時点で既に自分達以外の時間感覚はおかしくなっていたのだろう.そう考えると,あの時間は他の人々にとっては15時過ぎであり,帰宅するには早すぎる時間だったのだ.

「……教頭先生.申し訳ないのですが後で2年2組の教室に来ていただけますか?そこで詳しくお話しします.」

「……何故,無断の早退の理由を説明するのに私が教室に行く必要があるんだ?」

「すいません.そうしないと説明がつかないのです.」

 教頭は何か考えているような顔をしながら沈黙し,数秒後に口を開いた.

「まあ,分かったよ.じゃあ,放課後に行ってもいいかな?」

「はい.よろしくお願いします.」

 教頭は怪訝な顔をしながらも去って言った.

「あの……何か悩みがあるのであれば,相談に乗りましょうか?」

 隣にいた同僚が声をかけてきた.恐らく,早退の原因が教室にあるということから,何か生徒によって精神的苦痛を与えられているのではないか?と考え,心配してくれたのだろう.

「いえ,大丈夫です.ありがとうございます.」

「そうですか…….」

 同僚はそう答えるとそのまま仕事に戻った.そして,特に何事もなく時が過ぎ,6時間目が終了する時間となった.



「……どういうことだ?まだ仕事をする予定があったはずなのに,その時間の記憶がない.」

「先生は,間違った時間間隔に囚われていたのです.」

「……一体,何を言っているんだ?」

 太一は,終わりのHRがあると言って自分のクラスの生徒を集め,その前で教頭に時計を見るように言った.教頭は何が何だかわからないという顔で,生徒の方を見ている.

「今,その時計を見て,“時間が急に進んでいる”,“その間の記憶がない”.そう感じたのではないですか?」

「あぁ.確かにそうだ.」

「それは時間が進んでいるのではなく,先生が今まで間違った時間を信じて生活していたということなのです.それによって,今15時だと思っていた時間が,19時に塗り替えられたことで,時間が急に進んだと感じていたのです.」

「なるほどな…….つまり,私達以外の人々は,未だ間違った時間で動き続けているということなのか.」

 驚いたような表情を浮かべた後,納得したような顔で教頭は言う.

「そういえば教頭先生,明日って朝会がありましたよね?」

 発言したのは,教卓の前の席に座っていた葵だった.

「ああ,そうだな.……この時計を全ての教員と生徒に見せられるいい機会じゃないか.明日,これを使って亜美校全員の時間感覚を元に戻そう.」

 教室は拍手の音で満たされた.ついに,元の生活に戻ることができる.今まで違う時間に囚われていた人達を,学校内の人だけでも解放できる.そんな喜びに満ち溢れた拍手だ.

「先生!これって時計の写真でも効果があるのでしょうか?」

「確かに,それは気になるな.もしできたらもっと多くの人を解放できる…….」

「じゃあ,スマホで撮って親に見せてみます!」

 教室は歓声で満たされた.その後,皆が列を作り,順にスマホで時計の写真を撮っていく.これで,一人でも多くの人が解放されるといい……そう思いながら,太一はその光景を見ていた.



 次の日,朝会は彼らにとっての“間違った時間”での8時20分から行われた.表彰が行われた後,校長が体育館の代の前に経った.そして,校長は例の時計を机の上に立て,言った.

「この場にいる皆さん,こちらを見てください.」

 全員が時計に注目する.時計を見た後,教員や生徒達は様々な表情を浮かべており,驚きの表情,焦っているような表情を浮かべる者が多かった.その後,校長により時間に関する説明がなされた.その際,体育館内はざわついていたが,“静かにしろ”という教師もなかった.状況が状況だけに,ざわつくのもやむなしと思ったのだろう.

「このような状況であるため,今日は授業を正しい時間で行うためにこの朝会の後,1時20分から5時間目を開始します.」

 その後,生徒たちは解散し,彼らにとっての“正しい時間”に沿って一日が過ぎて言った.






「ああ,学校だるいな…….」

 気怠そうにベッドから起き上がった彼は,酷い風邪に見舞われ,数日間登校できなかった亜美高の1年生だ.なぜか夜中に少し家の外が騒がしかったこともあり,あまり深い眠りに着けていなかたった.

「まあ,行くしかないか…….」

 そう言って,朝食を食べ,朝の支度をして彼は家を出た.彼の家は学校のすぐ近くにあり,徒歩20分ほどで着くことができる.彼はいつも7時半頃に着くように学校に通っており,それなりに早めに出発しているのだが,ある違和感を感じていた.

「いっつも練習してる陸上部がいないな…….誰も登校してる人いないし…….」

 この時間,いつもは陸上部や野球部などの運動部が練習としてこの辺りを走っているのだが,今日はいない.彼らは休みがあまりないイメージなので,平日に走っていないのは少し違和感を感じる.また,この時間だと登校している人は何人かはいるはずだが,誰もいない.

「まあ,そこまで変に思うことでもないか.」

 自分以外のことをいちいち気にしてもしょうがない.ひとまず学校に向かおう.



「……どうなってるんだ?これ.」

 亜美高校の校門をくぐると,すぐそこにグラウンドが見える.もしかしたらそこで運動部が練習しているのかもしれない……と思ったが,そこには予想外の光景が広がっていた.そこでは生徒達が野球をしていた.これだけ聞くと野球部なのではないか?と思うかもしれないが,彼らが着ているのはユニフォームではなく,体操服だ.そして,陸上部の顧問である体育教師が近くで見ている.

「何でこの時間にもう授業をやっているんだ……?陸上部の先生もいるし…….」

 腕時計を見る.そこには確かに7時28分という数字が表示されていた.寝坊した可能性はない.

「まあ,教室に行くか…….」

 なぜか嫌な予感がしたが,取り敢えず教室へ向かうことにした.



「あれ……君,欠席だったんじゃ……?」

「え?そんな連絡をした覚えはありませんが…….」

 彼が所属している1年1組に入ると,何故か授業が行われていた.中にいたクラスメイト達や教師にとっては授業中,突然教室に入ってきたと考えられる彼を全員が見つめている.

「もう3時間目だけど…….職員室行った?」

「3時間目……?今は7時30分ですよ?」

「ああ,そういうことか.」

 困惑していると,一人のクラスメイトが席を立った.

「ちょっと,この画面を見てくれよ.」


ここまで読んでくださり,ありがとうございました.

早く投稿したかったがために最後の方の展開が駆け足になってしまい,申し訳ございません.

もし人気が出たら,完全版や続編を出すかもしれません.

今後も,ツディメを応援してくださると幸いです.

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