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087 手島祐治の脱出③

「藤堂大地が島を脱出したのは知っているか?」


 手島が尋ねると、安岡たちは頷いた。

 ラインは削除されたがスマホ自体は使用できる。

 なので、ニュースサイトはしっかり確認していた。


「お前達は知らないと思うが、あいつは詳細な脱出計画をグループラインに残していた。これだ」


 手島が懐から折りたたまれた一枚の印刷紙を取り出す。

 そこには藤堂大地の脱出に関する発言のログが印刷されていた。


「これを見てどうしろって言うんだ?」


 安岡は敵意のこもった目で手島を睨む。

 彼だけは、重村帝国の影の支配者が手島だと気づいていた。

 重村に彼女を奪われたことや、里桜を巡る恋愛競争で手島に負けたことを思うと胸糞悪くてたまらない。

 本当なら今すぐに殴り掛かりたいが、そうもいかなかった。

 此処から脱出できるかもしれないし、何より殴り掛かっても負けは必至だ。

 手島の頬に拳が届くよりも先に、彼の隣に立つ武藤に腕をへし折られるだろう。


「藤堂と同じように脱出してもらいたい。同等の設備や資金を提供するから、それを使って脱出に挑んでくれ」


「つまり俺達は人柱ってことかよ、お前らが脱出する為の」


「そういうことだ」


 手島は隠そうともしなかった。

 安岡と共に集められた陰キャラたちの顔が不安に染まる。


「人数は藤堂と同じで、資金や設備も同じ。しかも藤堂の時とは違い、お前達は全員が男だ。特に安岡、お前は普段から女より男のほうが全てにおいて勝っていると主張していたよな? なら問題ないだろう」


 安岡に反論の言葉は浮かばない。

 それに反論する気はなかった。


 この話、安岡にとっては非常に美味しい。

 クソみたいな島を出られる可能性があるからだ。

 それに、人柱といえども、既に同じ方法で脱出した先駆者がいる。

 決して分の悪い博打とは思えなかった。


「俺は引き受けるぜ。その代わり仲間の数を」


「駄目だ」


 安岡の言葉を手島が遮る。


「人数は変更しない。5人で挑んでもらう。方法も藤堂と全く同じ方法だ。そうでなければ有意義なデータを得られない」


 安岡は舌打ちした後、「分かったよ」と承諾した。


「お前達はどうだ?」


 手島が他の4人に尋ねる。

 その内の3人は渋々ながら承諾した。

 だが、最後の1人だけは頷く前に質問する。


「こ、断ったら、どうなるの?」


「別にどうにもならないよ。元に戻るだけだ」


「じゃ、じゃあ、僕は怖いからやめておくよ。ここでも日本でも底辺なのは変わりないし、ここなら最低限の生活は保証されてるから」


「馬鹿かお前」


 安岡が鼻で笑う。


「手島の言う『元に戻る』ってのは、重村帝国から追放されることを指すんだぞ」


「えっ」


「重村に指示を出しているのは手島なんだよ。階級制度とかを考えたのもどうせコイツだ。ここで断って重村の拠点で過ごせるわけない。俺と違ってお前は無能だからFランクになったクチだろ。最低ラインの上納金すら稼ぐのがやっとのカスは追放されるに決まってる」


「本当に?」


 男子生徒が手島を見る。


「さぁ?」


 手島は笑いながらとぼけた。

 男子生徒はその様を肯定と捉えた。


「じゃ、じゃあ、僕も参加するよ……。この脱出計画」


「考え直してくれたか、ありがとう」


 手島はニッコリ微笑み、「決まりだな」と手を叩いた。

 そして、速やかに島を脱出するための準備を始める。

 高級クルーザーを購入・召喚し、船内に燃料や武器を設置する。


「藤堂のプランだと、嵐で転覆した際に備えて同じ船を買えるだけのお金を用意していたんだよな?」


 安岡が言う。

 彼の言葉は、要約すると「俺に金をよこせ」である。

 手島は「ふっ」と笑った。


「金はあとで渡す。石コロを1億で20個出品しろ。一定の距離まで進むごとに1個ずつ買っていく。それで十分だろう」


「そんな面倒なことをせずに最初からくれよ」


「金を持ってトンズラされても困るからな。お前は信用ならない」


「チッ」


 安岡にトンズラする気などなかった。

 それは手島も分かっている。

 ただ嫌味を言いたかっただけだ。

 もはや安岡に嫌悪感を隠す必要がないから。


「これで準備は完了だ。あとは各自でライフジャケットやらの装備を購入して着替えてくれ。着替えが済んだら出発するように」


 手島と武藤が森に向かって歩きだす。

 しかし、森のすぐ手前で立ち止まり、振り返った。


「言い忘れていたが、そのクルーザーは藤堂大地の物とは少し違う。多数のカメラと発信器を備えている。航海の様子はしっかり監視させてもらうから、そのことを忘れないでくれ」


 ◇


 拠点に戻った手島は、その足で自室に向かう。

 彼の部屋はこの数日で大きく拡張されていた。


 今では寝室の他にモニタリングルームが存在する。

 モニタリングルームには大量のモニターが壁一面に並んでいた。

 モニターには安岡たちの乗るクルーザーの様子が映っている。


「安岡の奴、必死に怒りを堪えていたな」


 手島が笑いながらモニターの手前にある席に座った。

 目の前にある横長のテーブルに組んだ両脚をのせる。

 彼の左右にある席に里桜と武藤が腰を下ろす。


「殴り掛かってくるかと思ったが、そうはならなかったな」と武藤。


「えー、祐治と安岡ってそんなに仲悪かったっけ?」


「里桜は鈍感だからな」


「ぶー、そんなことないもん」


「いやいや、鈍感さ」


 手島は「それより」と話を変えた。


「俺達の為にも無事に脱出できるといいな、あいつら」


 安岡たちの様子を確認して問題がないかを把握する。

 もし問題なければ、手島も同じ方法で脱出するつもりでいた。


 だが、しばらくして問題が発生するのだった。


書籍版は12月25日に発売します。

単巻完結、全面的に改稿、書き下ろしエピソードあり。

よろしければ、是非……!

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