085 手島祐治の脱出①
30日目。
手島は気が気でならなかった。
昼から夜にかけて、食事は喉を通らなかった。
「どうした、なぜ何も発言しない……!」
ベッドに寝そべり、スマホをひたすらに確認する。
藤堂大地の発言を待っていた。
「もしかして死んだのか?」
藤堂は今日、仲間と島を出た。
そのことは手島も知っている。
藤堂がグループラインで脱出を試みると言っていたからだ。
しかし、島を発ってから何の発言もない。
『成功か失敗かがはっきりしたら改めてグループラインで知らせるよ』
そう言ったきり、藤堂やその仲間は沈黙を貫いていた。
色々な人間が呼びかけているが、一切の応答がないままだ。
「祐治、大丈夫ー?」
里桜が部屋に入ってくる。
扉をノックしたかどうか、手島には分からなかった。
スマホに釘付けだったからだ。
故に「ノックぐらいしろよ」と言えなかった。
「俺は大丈夫だけど、藤堂達はどうなったかな」
「今はまだ大丈夫なんじゃない? たしか明日からでしょ? 本番は」
うつ伏せの手島に跨がる里桜。
彼の凝り固まった肩や背中をマッサージする。
「そうだけど気になって仕方ないよ」
藤堂の脱出計画については大まかに把握している。
今日は安全な場所で夜を明かして、それから悪天候を突破する。
だから里桜の言った通り、現時点ではまだ山場を迎えていない。
「藤堂の挑戦は他人事じゃないからな」
藤堂が脱出に成功した場合、手島はしばらく島で待機するつもりだ。
救助要請が期待できるから。
これは藤堂が自分から言ったことであり、手島も賛成だった。
逆に藤堂が脱出に失敗した場合、対応が変わってくる。
失敗しても生還したのならば、詳細を聞いて対策を練ることが可能だ。
しかし水野と同じように死んでいたら、そういうわけにはいかない。
失敗の理由が分からない為、自分達でどうにかする必要があった。
「息抜きがてらゲーセンにでも行かない?」
手島は別の拠点をゲームセンターに改造していた。
重村グループの面々にストレス発散の場を与える為だ。
メダル落としからスロットまで、ありとあらゆるゲームが揃っている。
「ゲームって気分じゃないな。それより何か食べて風呂に入るよ。藤堂のことを気にするあまり体調を崩したんじゃ里桜に嫉妬されるからな」
「よく分かってるじゃん!」
里桜はニヤリと笑い、手島の脇腹をくすぐった。
「すぐに作るから待っててね!」
「暇だから俺も手伝おう」
2人は部屋を出てキッチンに向かうのだった。
◇
手島が安堵の息を吐いたのは翌日の夜だった。
「あいつら……無事に脱出できたんだな」
ネットの話題は藤堂たちの帰還で持ちきりだった。
テレビでは失踪していた生徒が突如として小笠原諸島に現れたと報じられている。
全てのチャンネルでその話が繰り返し報じられていた。
ニュースサイトでも大々的に報じられており、SNSも大盛り上がりだ。
「祐治! テレビテレビー!」
手島の部屋に里桜が飛び込んでくる。
彼女は許可無く壁掛けのテレビを設置した。
「ほら! 藤堂たちが帰還したって!」
「知ってるよ」
「ぎょえー!? そっか! スマホで見たんだ! それにしてもやったね!」
里桜の声が弾みまくっている。
手島の顔も笑みで満ちていた。
「あとは藤堂が救助を呼んでくれたら終了だ。俺達も帰れるぞ!」
「帰ったらデートだねー! デート!」
「それもいいが、他にもすることはたくさんあるぞ」
手島と里桜は、帰還した後のことを考えてニヤける。
2人は既に脱出を成功させた気でいた。
救助が来ないとは知らずに――。
◇
それから1週間が経過した。
「どういうことだ」
ダイニングで、手島は頭を抱えていた。
どれだけ待ってもいっこうに救助が来ない。
「藤堂は俺達を見捨てたのか?」
そう自問した後、「ありえない」と即答で結論づけた。
藤堂は島を発つ前、脱出に成功したら救助を要請すると言っていた。
帰還した後にその考えが変わるとは思えない。
「この島の座標が本当はまるで違うところなんじゃないか」
向かいの席に座っている武藤が言う。
さらに彼は、「俺は詳しくないが」と前置きして続けた。
「位置情報というのは偽装可能なんだろ? マップを使ったソシャゲでそういう不正が横行していると聞いたことがある。それと同じで、この島も座標がバグっているんじゃないか。北緯約27度、東経約139度というのは偽データなんだ」
「いや、それもありえない。藤堂たちはマップアプリを頼りに小笠原諸島を目指し、そして無事に到着した。つまり、この島から東に行けば小笠原諸島に着くわけだ。もし真の言う通り座標がバグっているとすれば、そうはならない」
「それもそうだな……。じゃあ、どういうことだ」
「おそらく一方通行なのだろう」
それが手島の予想だった。
「一方通行とは?」
「そのままさ。この島から出ることはできても、入ることはできないんだ。理由は分からないが、そう考えるのが自然だろう。でなければ、今頃は救助が来ている。他の連中はともかく、俺は手島重工の跡取りだからな。現政府とウチは蜜月関係にあるし、藤堂が生還した日に動いてもおかしくない」
「すると救助は期待できないわけか」
「そういうことだ。そんなわけだから、俺達も自力で脱出するとしよう」
手島はスマホを取り出した。
ラインを開き、ある人物にメッセージを送る。
「重村か?」
武藤が尋ねると、手島は頷いた。
「ついに重村から恩を返してもらう時がやってきた」













