084 藤堂大地 17日目
俺が栽培の情報を公開してから数日が経つ。
その間に、グループラインの雰囲気はがらりと変わった。
全体的に穏やかなものとなり、不毛な言い争いを見かけなくなった。
まさに金持ち喧嘩せずということわざの通りだ。
また、金銭面に余裕ができたことで、意識の変化が生じていた。
島からの脱出に消極的な者がぽつぽつと現れ始めたのだ。
この島にいれば欲しい物の大半が手に入る。
栽培を駆使すればそこらの大富豪と遜色ない生活が可能だ。
その生活を捨てたくないのだろう。
気持ちは理解できる。
拠点があって金に困らない状況だと、この島での生活は実に快適だ。
前の日常で微妙だった俺のような奴ほど、この島で過ごしたいと思うもの。
重村グループを除く約50人の内、過半数が脱出に消極的だった。
最初は大半が脱出したがっていたのに、今では脱出したい者こそ少数派だ。
それでも、俺は島の脱出に関する情報を発信した。
水野の死や彼の残した音声メモをグループラインで共有する。
島から出るのが過酷であることを教えた後で、俺達は島を出る気だと告げた。
「おっ」
17日目の夜。
自室でくつろいでいると、個別ラインで話しかけられた。
相手は――手島祐治。
同じクラスで、出席番号は俺の1つ前。
手島重工の御曹司として、学校では有名人だ。
武藤とかいう寡黙な大男と一緒にいることが多い。
手島の最初の発言は「島を出る件についてだが」だった。
それを見た俺の感想は「コイツ生きていたのか」だった。
彼がグループラインで発言しているのを見たことがなかったのだ。
当然ながら、手島と俺の間には何の関係もない。
同じクラスで出席番号が近いから何度か話したことはある。
だがそれも社交辞令のようなもので、友達に発展するものではなかった。
おそらく向こうは会話としてカウントしていないはずだ。
だからこそ、このタイミングで手島が話しかけてきたことには驚いた。
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手島:島を出る件についてだが
手島:どうやって悪天候を突破するつもりなんだ?
大地:高級クルーザーを使おうかと思っている
手島:もっと大きな物のほうがよくないか? 巨大客船みたいな
大地:たしかにそのほうがいいけど、大型船は操縦できる気がしないから
手島:俺は操縦できるよ。手伝わせてくれ。俺も脱出したいんだ
大地:すまないがそれは無理だ。俺は仲間内だけで挑戦する
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手島はてっきり食い下がると思っていた。
そこをどうにか、と。
ところが彼の返事は「そうか、分かった」だった。
驚くほどあっさり引き下がったので拍子抜けだ。
しかし会話はまだ終わらない。
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手島:脱出はいつ挑戦する予定だ?
大地:たぶん来週か再来週あたりかな
手島:早いな。既に準備が最終段階ということか
大地:まぁね
手島:流石だ。応援しているよ
大地:ありがとう
手島:こちらこそ、栽培とか色々とありがとう。参考になったよ
大地:それはよかった
手島:それと、水野の面倒をみてくれてありがとう
大地:水野と友達なのか?
手島:いや、ただの知り合いだ。この島でハンモックの作り方を教わった
大地:そうだったのか
手島:お礼をしたいと思っていたが、死んでしまって残念だ
大地:俺の責任だ
手島:そんなことない。彼の意思を継いで脱出を成功させてくれ
大地:頑張るよ
手島:藤堂より後になるだろうが、俺もいずれ脱出する
手島:その時は一緒にメシでも食おう。奢らせてくれ
大地:分かった。互いに頑張ろう
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やり取りが終わった時、手島に対する印象が変わっていた。
今までの俺は、手島に対して悪いイメージをもっていた。
その理由は見た目がチャラ男ぽいから。
加えて彼の友人である安岡のことが嫌いだった。
(手島か……。思ったよりも良い奴なのかもしれないな)
手島にメシを奢ってもらう日を想像する。
必死に頭を働かせてもまるでイメージできなかった。
大企業の御曹司でも吉松家の牛丼とか食べるのだろうか。
機会があったら訊いてみよう。
「大地君、お風呂だよ」
扉がノックされて、千草の声が聞こえる。
「りょーかーい」
ゆるい口調で答えると、俺は浴室に向かった。













