083 手島祐治 10~16日目
「よし! やったぞ!」
珍しく喜びを前面に押し出す手島。
それは夕食を食べている最中のことだった。
「重村のこと?」
彼の向かいで食事中の里桜が尋ねる。
「そうだ。拠点を確保した上に20人近い部下を確保しやがった!」
「20人……多いな」
手島の隣に座っている武藤が言う。
「たしかに想定より多いが問題ないだろう。支配階級として君臨することに部下達も賛成しているようだからな」
手島はスマホを懐にしまうと、席を立ってダイニングを離れる。
その足で洞窟の出入口に近づき、外で降りしきる雨を眺めた。
「まさに恵みの雨だな」
重村の拠点には既に多くの生徒が集まってきている。
雨の中で野宿したい者など誰もいない。
「これでシステムは整った。後は計画を練ってこの島を脱出するだけだ」
手島はニヤリと笑った。
◇
翌日、重村が上納金システムを発表した。
その数時間後にはメンバー全員のラインを削除させた。
全員の中には彼の部下も含まれている。
情報を制限することにより支配しやすくする考えだ。
全て手島が事前に指示しておいたもの。
「これは……盲点だったな」
夕方、手島は自分の部屋で呟いた。
彼の視線はスマホの画面――グループラインに釘付けだ。
藤堂大地が栽培について発表していた。
「おっ?」
藤堂が栽培を発表した数分後、重村から個別ラインが届いた。
ウチでも栽培を導入するべきだろうか、という質問だ。
重村のグループの収入源は川での漁で、栽培に比べて稼げない。
手島はすかさず返事を送った。
回答は――栽培は絶対にさせてはならない。
重村や彼の部下が潤う分には問題ない。
だが、下々の庶民が潤いすぎると反乱のリスクが高まる。
上納金の額を上げることで調整することは可能だ。
しかし、絞りすぎるとそれはそれで反感を買ってしまう。
庶民は貧乏なくらいでちょうどいい、と手島は考えていた。
それになにより、栽培なら自分達ですることが可能だ。
大した労力をかけずに大金を稼げるだろう。
手島は明日にでも栽培を始めるつもりでいた。
◇
14日目。
朝、起きてすぐに手島は洞窟の外へ出た。
藤堂大地の発言を参考に作ったトマト畑を確認する為だ。
「本当に実ってる……!」
トマト畑には大量のトマトが顔を覗かせていた。
試しに一つを収穫してみる。
藤堂の言っていた通り500ptを獲得することができた。
「うわー! すっごい数のトマト!」
洞窟から里桜が出てくる。
少し遅れて武藤も現れた。
「これだけの数のトマトを収穫するのは大変そうだな」
「それについて藤堂は何か言ってなかったっけ? 茎ごと切る的なの」
里桜の言葉に、「言っていたよ」と手島が返す。
「ただ、それでも面倒なことに変わりはない」
「なら私がやろっか? 漁に比べたら楽だし」
「その必要はないと思う」
手島はスマホを取りだし、〈ガラパゴ〉で買い物を行う。
「収穫作業はロボットにやらせるさ」
そう言って彼が召喚したのは、自走式のロボットアームだ。
手島重工が作っている農作業用の万能ロボットである。
当たり前のように〈ガラパゴ〉で売られていた。
「大丈夫なのか? どう見ても普通のトマトとは違うが」と武藤。
「最初は失敗するだろう。でも問題はない。プログラムを弄ってやれば調整することができる。この〈テジマジックハンド〉は優秀な代物なのさ」
「久々に祐治が手島重工の御曹司らしいことをした!」
里桜が茶化す。
手島は「まぁな」と笑った。
「俺はロボットの調整を行う。里桜と真はビニールハウスの作成だ。雨で地面がぬかるむとロボットの作業に影響が出てしまう。だから耕地をビニールハウスで覆う」
「任せろ。湿度とかの調整は必要か?」
「不要だ。ここで使うビニールハウスは雨風を避ける為の存在でしかない」
「分かった」
◇
16日目。
手島はスマホから鳴る「チャリーン」の音で目が覚めた。
「よし、成功だ」
スマホを眺めてにんまりする手島。
寝ている間に所持金が倍増していた。
ロボットが自動で作業を済ませたのだ。
手島は栽培に関する全ての作業をロボットに丸投げしていた。
種蒔きから収穫まで、テジマジックハンドが勝手に行う。
それによって発生したお金は、ロボットを買った手島の物になった。
「あとは拡大するだけだな」
手島の拠点では、現在、15ブロックの土地がトマト畑になっている。
収穫するトマトの数は1ブロックにつき3万5000個。
これは藤堂大地の畑――1ブロック4万個――よりも遥かに少ない。
自走ロボットが走るスペースを確保する為にゆとりをもたせているからだ。
15ブロックの合計収益は約2億5000万pt。
これが、現在の手島が3日間で得る金額だ。
しかし手島はこの程度で満足するつもりはない。
稼いだお金で更に土地を増やし、畑を拡張していく。
最終的には100ブロックまで拡大したいと考えていた。
「金の問題はもうないとして、残るは……」
手島がグループラインを開く。
藤堂大地が島の脱出について説明していた。