表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

81/91

081 重村良文 10日目①

 10日目――。

 この日も重村たち狼煙のグループはボスと戦うことにした。

 しかし昨日とは違って、念入りに計画を練る。


「誰かが囮になって、その間に他が背後から攻撃するってのはどうだ?」


「それだと囮になる奴が死ぬかもしれない」


「それに皆で襲い掛かると誤って同士討ちしかねない」


 20人の男子が、川辺で焚き火を囲みながらああだこうだと言い合う。

 重村は無言でその様子を眺めていた。


「やっぱり囮作戦が手堅いんじゃないか」


 斉藤が話をまとめる。


「たしかに」「そうだな」「賛成」


 誰かを囮にして戦う方向で話が進む。

 問題は誰が囮になるか。


「公平にじゃんけんで決めよう」


 誰かが言った。

 異論が出なくて、じゃんけんをすることになる。


(囮になるのは1人。21人の内の1人なら大丈夫だろう)


 重村もじゃんけんに前向きだった。


「最初はグー、じゃんけん――!」


 その後、何度となくじゃんけんが行われていく。

 少しずつ勝ち抜けしていく者の数が増えていき、そして――。


「重村ちゃん、無理のない範囲で頑張ってなー!」


「は、はい……」


 最後まで勝てなかった重村が囮になるのだった。


 ◇


(俺が囮だと計画が狂いかねないなぁ)


 木にもたれる格好で座りながら、重村はぼんやりと思った。

 視界には必死に槍の素振りをする斉藤達の姿が映っている。

 昨日の戦いで負傷したメンバーは既に回復していた。


(それにしても、あんな素振りに意味あるのかな)


 斉藤たちの訓練が効果的とは思えない。

 だからといって、「ボスは機械的な動きをする」とは言えなかった。

 それを言うと、簡単にボスを倒されるリスクが生じるからだ。

 加えて、無意味に思える訓練が自分の為に行われているのも大きい。


『重村ちゃんが命を張って囮になってくれるんだ。だから手を抜くことは絶対に許さない。全員が無事でいられるようにベストを尽くそう』


 そう言って斉藤は皆を鼓舞していた。


(斉藤さん、いい人だよなぁ。それに拠点を獲得した後の方針が俺と一緒だし、死なせるのは駄目だな)


 重村は当初、ボスとの戦闘で斉藤を死なせるつもりでいた。

 事故を装って斉藤の足を掛けて、ボスに顔面を強打させる。

 その後で自身がボスを倒し、チームを掌握するという考えだ。


 この考えにほころびが生じていた。


 仲間の死とそこからの覚醒、そして力のある演説。

 それこそが手島の教えであり、重村の計画でもあった。

 しかし、今の重村に、その計画を遂行するのは難しい。


(別の奴に死んでもらうか)


 死ぬのは斉藤でなくてもかまわない。

 2~3人死んで悲壮感が漂えばそれでどうにかなる。


(誰が死ぬかは運になるな……)


 重村はボスの挙動を把握している。

 ボスの狙いを自分から他に背けさせる術も心得ていた。

 だが、背けた後に誰を狙うかは分からない。


「よし、連携は完璧だな! 重村ちゃん、ボスを倒しに行こう!」


 斉藤が重村に向かって笑顔で手を振る。

 重村は頭をペコリとして立ち上がり、皆のもとへ駆け寄る。


「俺達は準備万端だ。重村ちゃんも覚悟は決まったかい?」


「大丈夫。俺はずっと前から覚悟を決めていますから」


 ◇


 拠点の付近に着くと、斉藤は改めて作戦会議を始めた。


「最初に重村ちゃんがボスに近づく。で、俺達は反対側から襲い掛かる。重村ちゃんはあっちから攻める。これで問題ないよな?」


「問題ないと思うぜ、俺は」


 国定が頷く。


「僕も大丈夫だと思うよ」


 西別府も続いた。

 他のメンバーも口々に同じようなセリフを言う。

 最後に重村も「大丈夫」と頷いた。


「もうじき日が暮れる。サクッと決めよう!」


「「「「おおー!」」」」


 重村が向かって右側に進んでいく。

 斉藤達は反対側へとぞろぞろ移動する。


「始めるよ、斉藤さん」


「はいよ!」


 重村は槍を召喚した。

 剣もタップ1回で召喚できる状態にしておく。


(手島さん、決めてくるぜ、俺)


 重村は深呼吸すると紫ゴリラに突っ込んだ。


「ウホオオオオオオ!」


 紫ゴリラも重村に向かって突っ込む。

 それに合わせて、紫ゴリラの背後から斉藤達が突撃。


「ヒィー、ヤラレルゥ」


 重村は棒読みのセリフを吐きながらその場で止まる。

 紫ゴリラが突っ込んでくると、攻撃を回避しながらじわじわ後退。

 頃合いを見計らって敵の縄張りから離脱するつもりだ。

 そうすれば、狙いが他の者へ向かう。


「重村ちゃん、頑張れ!」


 斉藤が励ましの言葉を掛けながらゴリラに攻撃を仕掛ける。

 だが、紫ゴリラの皮膚は槍を受け付けなかった。


(その攻撃は効かないんだよなぁ……)


 紫ゴリラの皮膚は特殊な装甲をしている。

 最初に正面からダメージを与える必要があるのだ。

 そうしなければ、背後からの攻撃はどうやっても効かない。

 つまり、このままだと囮作戦はどうやっても成功しないのだ。


 だから重村は囮作戦に肯定的な姿勢でいた。

 他の誰かにボスを倒される可能性が限り無く低いので安心できる。


「クソッ、なんで効かないんだよ!」


 皆が必死にボスの背中を攻撃する。

 それらの攻撃は例外なく弾かれていく。

 戦闘開始から数分で、斉藤達の石槍はボロボロになった。


(そろそろだな)


 重村は体感で分かった。

 あと2~3歩の後退で縄張りから出ると。


「斉藤さん、これを使って下さい!」


 重村は持っていた槍を投げ、それと同時に後ろへ跳んだ。

 彼の思った通り、その後退によって縄張りから出る。


「ウホッ?」


 重村が縄張りから外れたことで、紫ゴリラが一瞬だけ止まる。

 そして次の瞬間、くるりと体を翻し、全力で吠えた。


「ウホォオオオオオオオオオオオオオ!」


 いよいよ大詰めだ。

絢乃です。

活動報告にも書いたのですが、書籍版の情報が公開されました。

発売日は今年の12月25日で、担当イラストレーターはあれっくす先生です。


書籍版には、大幅に改稿した本編が丸ごと収録されており、

さらに書き下ろしエピソード「後日談」も含まれています。


印税や商業面の都合を完全に度外視して、

1冊のクオリティをどこまでも重視させていただいているので、

ウェブ版の読者様も大満足で楽しめる作品だと信じています。


特典SSの詳細につきましても、

情報が公開され次第、活動報告等でお知らせいたします。


それでは、引き続きよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ