081 重村良文 10日目①
10日目――。
この日も重村たち狼煙のグループはボスと戦うことにした。
しかし昨日とは違って、念入りに計画を練る。
「誰かが囮になって、その間に他が背後から攻撃するってのはどうだ?」
「それだと囮になる奴が死ぬかもしれない」
「それに皆で襲い掛かると誤って同士討ちしかねない」
20人の男子が、川辺で焚き火を囲みながらああだこうだと言い合う。
重村は無言でその様子を眺めていた。
「やっぱり囮作戦が手堅いんじゃないか」
斉藤が話をまとめる。
「たしかに」「そうだな」「賛成」
誰かを囮にして戦う方向で話が進む。
問題は誰が囮になるか。
「公平にじゃんけんで決めよう」
誰かが言った。
異論が出なくて、じゃんけんをすることになる。
(囮になるのは1人。21人の内の1人なら大丈夫だろう)
重村もじゃんけんに前向きだった。
「最初はグー、じゃんけん――!」
その後、何度となくじゃんけんが行われていく。
少しずつ勝ち抜けしていく者の数が増えていき、そして――。
「重村ちゃん、無理のない範囲で頑張ってなー!」
「は、はい……」
最後まで勝てなかった重村が囮になるのだった。
◇
(俺が囮だと計画が狂いかねないなぁ)
木にもたれる格好で座りながら、重村はぼんやりと思った。
視界には必死に槍の素振りをする斉藤達の姿が映っている。
昨日の戦いで負傷したメンバーは既に回復していた。
(それにしても、あんな素振りに意味あるのかな)
斉藤たちの訓練が効果的とは思えない。
だからといって、「ボスは機械的な動きをする」とは言えなかった。
それを言うと、簡単にボスを倒されるリスクが生じるからだ。
加えて、無意味に思える訓練が自分の為に行われているのも大きい。
『重村ちゃんが命を張って囮になってくれるんだ。だから手を抜くことは絶対に許さない。全員が無事でいられるようにベストを尽くそう』
そう言って斉藤は皆を鼓舞していた。
(斉藤さん、いい人だよなぁ。それに拠点を獲得した後の方針が俺と一緒だし、死なせるのは駄目だな)
重村は当初、ボスとの戦闘で斉藤を死なせるつもりでいた。
事故を装って斉藤の足を掛けて、ボスに顔面を強打させる。
その後で自身がボスを倒し、チームを掌握するという考えだ。
この考えにほころびが生じていた。
仲間の死とそこからの覚醒、そして力のある演説。
それこそが手島の教えであり、重村の計画でもあった。
しかし、今の重村に、その計画を遂行するのは難しい。
(別の奴に死んでもらうか)
死ぬのは斉藤でなくてもかまわない。
2~3人死んで悲壮感が漂えばそれでどうにかなる。
(誰が死ぬかは運になるな……)
重村はボスの挙動を把握している。
ボスの狙いを自分から他に背けさせる術も心得ていた。
だが、背けた後に誰を狙うかは分からない。
「よし、連携は完璧だな! 重村ちゃん、ボスを倒しに行こう!」
斉藤が重村に向かって笑顔で手を振る。
重村は頭をペコリとして立ち上がり、皆のもとへ駆け寄る。
「俺達は準備万端だ。重村ちゃんも覚悟は決まったかい?」
「大丈夫。俺はずっと前から覚悟を決めていますから」
◇
拠点の付近に着くと、斉藤は改めて作戦会議を始めた。
「最初に重村ちゃんがボスに近づく。で、俺達は反対側から襲い掛かる。重村ちゃんはあっちから攻める。これで問題ないよな?」
「問題ないと思うぜ、俺は」
国定が頷く。
「僕も大丈夫だと思うよ」
西別府も続いた。
他のメンバーも口々に同じようなセリフを言う。
最後に重村も「大丈夫」と頷いた。
「もうじき日が暮れる。サクッと決めよう!」
「「「「おおー!」」」」
重村が向かって右側に進んでいく。
斉藤達は反対側へとぞろぞろ移動する。
「始めるよ、斉藤さん」
「はいよ!」
重村は槍を召喚した。
剣もタップ1回で召喚できる状態にしておく。
(手島さん、決めてくるぜ、俺)
重村は深呼吸すると紫ゴリラに突っ込んだ。
「ウホオオオオオオ!」
紫ゴリラも重村に向かって突っ込む。
それに合わせて、紫ゴリラの背後から斉藤達が突撃。
「ヒィー、ヤラレルゥ」
重村は棒読みのセリフを吐きながらその場で止まる。
紫ゴリラが突っ込んでくると、攻撃を回避しながらじわじわ後退。
頃合いを見計らって敵の縄張りから離脱するつもりだ。
そうすれば、狙いが他の者へ向かう。
「重村ちゃん、頑張れ!」
斉藤が励ましの言葉を掛けながらゴリラに攻撃を仕掛ける。
だが、紫ゴリラの皮膚は槍を受け付けなかった。
(その攻撃は効かないんだよなぁ……)
紫ゴリラの皮膚は特殊な装甲をしている。
最初に正面からダメージを与える必要があるのだ。
そうしなければ、背後からの攻撃はどうやっても効かない。
つまり、このままだと囮作戦はどうやっても成功しないのだ。
だから重村は囮作戦に肯定的な姿勢でいた。
他の誰かにボスを倒される可能性が限り無く低いので安心できる。
「クソッ、なんで効かないんだよ!」
皆が必死にボスの背中を攻撃する。
それらの攻撃は例外なく弾かれていく。
戦闘開始から数分で、斉藤達の石槍はボロボロになった。
(そろそろだな)
重村は体感で分かった。
あと2~3歩の後退で縄張りから出ると。
「斉藤さん、これを使って下さい!」
重村は持っていた槍を投げ、それと同時に後ろへ跳んだ。
彼の思った通り、その後退によって縄張りから出る。
「ウホッ?」
重村が縄張りから外れたことで、紫ゴリラが一瞬だけ止まる。
そして次の瞬間、くるりと体を翻し、全力で吠えた。
「ウホォオオオオオオオオオオオオオ!」
いよいよ大詰めだ。
絢乃です。
活動報告にも書いたのですが、書籍版の情報が公開されました。
発売日は今年の12月25日で、担当イラストレーターはあれっくす先生です。
書籍版には、大幅に改稿した本編が丸ごと収録されており、
さらに書き下ろしエピソード「後日談」も含まれています。
印税や商業面の都合を完全に度外視して、
1冊のクオリティをどこまでも重視させていただいているので、
ウェブ版の読者様も大満足で楽しめる作品だと信じています。
特典SSの詳細につきましても、
情報が公開され次第、活動報告等でお知らせいたします。
それでは、引き続きよろしくお願いいたします。