078 重村良文 8日目①
8日目の朝。
「もう行くのか? もう少しゆっくりでもいいが」
「いや、のんびりして下手を打ちたくない。手島さん、ありがとな」
朝食後、重村は手島達の拠点から発つことを決めた。
すぐそこまで見えている支配者の座が欲しくてたまらない。
しかしそれ以上に、手島の期待に応えたいと思っていた。
「気合が入っているのはいいことだが、此処を離れたらまずは寝床の確保に努めろよ。使っていないウチの拠点で寝るのは禁止だぞ。他人に見られる可能性がある。樹上にハンモックでも作るといい。上手くいけば使わずに済むが念を入れておけ」
「了解。じゃ、行ってくる。期待しといてくれ」
重村は、手島、武藤、里桜に感謝の言葉を伝え、拠点を後にした。
◇
「この辺にするか」
谷から少し離れたところで、重村は寝床作りを始めた。
手島の助言に従い、樹上にハンモックをこしらえる。
作業が終わると、重村はマップを開いた。
現在地をピン止めしておく。
マップ上では相変わらず海の上にいることになっていた。
それでもマップ自体は機能しているので使うことはできる。
どうせ衛星写真が見えても緑しかないし一緒だ、と重村は思った。
「あとは有望そうな連中と合流するだけだ」
重村が支配者となるにあたって必要なことがある。
それは、「皆で拠点を獲得しよう」という呼びかけだ。
自分一人で拠点を獲得しても意味はない。
その為にも、彼は3年の男子グループに混ざりたかった。
これについて、重村はおおよその目星をつけている。
谷で狼煙を上げている連中だ。
正確には谷から少し離れた場所から狼煙が上がっていた。
谷の拠点は今、安岡とその取り巻きが入口を封鎖している。
そんな中でも狼煙が上がり続けている。
つまりこの連中、谷のグループの主催者とは別のグループなのだ。
「いや、やめて、誰か、助けてぇ!」
重村が狼煙を目指して歩いていると、近くから女子の声が聞こえてきた。
声のする方向に顔を向ける。
そこには、2人組の男子に襲われている女子がいた。
片方の男子が女子を羽交い締めにしている。
もう片方は女子のスカートに手を突っ込んでいた。
「あいつらが例の暴徒か」
暴徒が増えつつある、と手島が言っていた。
(助けたいな……)
度重なるボスとの戦いによって、重村は自信がついている。
2人がかりで女子を襲うようなカスに負ける気はしない。
それに、助けたら惚れられるかも、と思った。
「…………」
棒立ちの状態で悩む重村。
その間にも女子に対する蛮行がエスカレートしていく。
「俺は王になるんだ……!」
そう呟くと、重村は狼煙に向かった。
女子を見捨てることにしたのだ。
ここで余計な行動をするわけにはいかない、と判断した。
「やめて、やめてえぇえええ!」
女子の悲鳴が重村の耳に突き刺さる。
それでも重村は振り返らなかった。
◇
狼煙の発生元が見えた時、重村は複雑な気持ちになった。
そこにいたのは20人の男子グループ。
これ自体は彼の思惑通りだ。
しかし、連中は明らかに動きそうな気配がなかった。
すぐ近くの木にハンモックをこしらえ、目の前の川で釣りをしている。
重村まで届く談笑の声は、まるで自らこの場に来たかのようだった。
これは思惑から大きく外れている。
もっと悲壮感を漂わせ、疲労に満ちた顔をしていてほしかった。
その方が楽に計画を遂行できる。
(どうする? あいつらは動く気配がなさそうだが……)
重村は声を掛けるか悩んだ。
(あいつらを動かすなら俺が扇動する必要があるけど……)
連中の顔を見ていく。
陰キャラとは無縁の明るい雰囲気をした者が多い。
馴染めるかどうか不安になってくる。
(この規模のグループはそうそう見つからないし……行くか)
悩んだ結果、重村は近づくことに決めた。
心臓をバクバクさせながら、ゆっくりと連中に近づく。
重村の接近に一人が気づく。
それによって他のメンバーも気づいた。
皆は一瞬だけ警戒感を強めたが、すぐに気を緩める。
重村の風貌を見て、襲われることはないと判断したからだ。
「ウチになにか御用かい?」
カラフルな髪のチャラい男が重村の前に立った。
「俺、2年の重村って言います。俺も仲間に混ぜてもらえないでしょうか」
勇気を振り絞って言う重村。
彼にとって、ここが最大の関門と言ってもいい。
ここで拒まれたら、その後の計画が大きく難航する。
「いいよー、じゃあ今から仲間ねー」
あっさり承諾された。
重村は心の中で「軽ッ!」と突っ込んだ。
勝手に緊張して馬鹿みたいだ、とも思った。
「一応だけど、このグループのリーダーやらせてもらってる斉藤龍斗だよ。俺のことは『神様』とか『イケメン』って呼んでくれよな」
「え、あ、はい」
「嘘に決まってんじゃーん! 重村ちゃんマジメかよ! 好きに呼んでくれていいよ! ほな、よろしくぅー!」
斉藤は会話を切り上げ、釣りを再開する。
他のメンバーも各々の作業を再開させた。
重村に対してまるで興味を抱いていない。
(あとはこいつらをどう動かすかだな……)
重村は今後のことを考えながら、全員に挨拶して回るのだった。
絢乃です。
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