表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

75/91

075 手島祐治 5日目②

 重村は勘違いしていた。

 手島は何かしらの策を弄して拠点のボスを倒すのだ、と。

 だから驚いた。


「えっ、真っ向勝負で倒すの?」


 手島は策など考えていなかったのだ。

 ローションを撒くでもガソリンをかけるでもない。

 真正面から挑んで倒すつもりだ。

 重村と2人で。


「大丈夫さ」


 涼しい顔で言う手島。

 重村は思わず「大丈夫なわけあるかよ」と突っ込んだ。


「いくら手島さんでも無茶だって。あんたの強みは頭脳だろ。力じゃない。それなのに正面突破なんて無茶だ。武藤さんですら苦戦していたんだ。俺達みたいな人間が戦うなら数十人規模の戦力がいるだろ」


「たしかに今は大丈夫じゃない。だが、大丈夫になる必要がある。この島の支配者になるには、ここ一番の戦いで絶対に拠点を得なければならない。だから、これから大丈夫になっていくんだよ」


「どうやってさ」


「考えはある」


 手島は重村を引き連れて谷の近くにある洞窟へやってきた。

 マウンテンバイクで一直線に向かったので1時間も経たずに到着だ。


「情報に感謝だな」


 彼らが洞窟を見つけられたのはグループラインのおかげだ。

 少し前から、色々な生徒が座標付きで洞窟の場所を公開していた。


 誰か拠点を確保してくれ、と頼む為だ。

 怪我をしたくないので自ら動こうとはしない。

 自ら動けるような人間は既に拠点を確保済みだというのに……。


「本当に真っ向勝負で挑むのか? 切り札とかないの?」


「切り札はある」


 手島は断言する。

 重村の目に希望の光が宿った。

 ――が、直後の発言でその光は消える。


「あるにはあるが、今回は使わない」


「じゃあ、マジのマジで正面対決かよ」


「そういうことだ」


 手島はマウンテンバイクから降り、紫ゴリラに近づいていく。

 重村はビクビクしながら追従する。


「ウホオオオオオオオオ!」


 縄張りに入った瞬間、紫ゴリラが動き出す。

 それに合わせて手島はさっと縄張りの外へ避難。

 紫ゴリラがピタリと止まった。


「な、なにをしているんだ?」


 首を傾げる重村。


「見ての通りゴリラの動きは機械的だ。それは戦闘になってからも変わらない。だから、時間をかけてゴリラの動きを把握する。それからじっくり攻略していくわけだ。重村、お前、ゲームは好きか?」


「まぁ、そこそこやるけど」


「ならゲームで喩えてやろう。いわゆる覚えゲーとか死にゲーと呼ばれるやつだ。ブレステのモンスターハンツァーのボスと同じだよ」


「モンハンのボスと同じ……」


「そうさ。ただ、ゲームと違って俺達は死ねない。だから縄張りの近くでチビチビ戦って動きを覚える。理解できたら戦うぞ。武器を出せ」


 手島が〈ガラパゴ〉の販売リストから武器を召喚する。

 他人から買った石器ではなく、自分で作った鉄の剣だ。

 重量に考慮して刃は薄く加工してある。


 この剣を作るのはそれほど難しくなかった。

 購入時の加工で大まかな形を作ったら、後は刃を研ぐだけだ。

 研ぎ方はネットで簡単に分かるし、そもそも手島は方法を知っていた。


 手島に続いて重村も武器を召喚。

 手島と同じ剣だ。


「間違って俺を斬るなよ?」


「わ、分かってるよ」


 重村の脚はガクブルと震えている。

 手島は「大丈夫だ」と言い、左手で重村の背中をさする。


「落ち着くまでそこで見ていろ」


 そう言うと、手島は単独で縄張りに侵入した。


「ウホオオオオオオ!」


 咆哮と同時に突っ込んでくる紫ゴリラ。

 手島は剣を構えることなくその場で立ち尽くす。

 そしてゴリラが腕を上げた瞬間、スッと後ろに下がった。


「右だな」


 縄張りから出ると同時に呟く手島。


「えっ?」


 重村が反応するが、手島はそれを無視。

 またしてもゴリラの縄張りに足を踏み入れた。

 ――で、先程と同じく、ゴリラが腕を上げた瞬間に後退。


「右だな」


「えっ?」


 同じやり取りだ。

 重村にはなにが「右」なのか分からなかった。


 その後も、手島は同じことを10回ほど行った。

 縄張りに侵入し、ゴリラが近づき攻撃態勢に入ると後退。

 それらが終わると例のセリフを言う。――右だな。


「手島さん、なにをやっているんだ?」


 耐えかねて重村が尋ねた。


「分からなかったのか? ゴリラの腕を見ていたんだよ」


「ゴリラの腕?」


「あいつは毎回同じ速度で迫ってきて、同じ角度に右腕を振り上げる。モーションも、角度も、振りかざす腕も同じだ」


 そう言って、手島が再び縄張りに侵入。

 まるでリプレイのように、紫ゴリラが同じ動きで迫る。


「次にこいつは俺の前で立ち止まり、右腕を上げる」


 手島が行動を先読みする。

 実際、その通りになった。


 紫ゴリラが右腕を振り上げる。

 しかし、ここからの展開は違っていた。


「だから俺は――」


 手島は後退しない。

 剣を握る手に力を込め、体の向きを横にする。

 フェイシングのような構えで、ゴリラに右肩を向けた。


「――がら空きの胸部を攻撃する!」


 手島の剣がゴリラの右の胸部に突き刺さる。


「ウホオオオオオオオオオオオオオオ!」


 ゴリラは悲鳴のような声を上げて後退。

 武藤と戦った時とは違い、背中を向けて逃げている。

 本気の逃げだ。


「背中が剥き出しになったな。いただくとしよう」


 手島は追いかけて大振りの攻撃を加える。

 ゴリラの背中に斜め十字の傷痕ができた。


「ウホォオオオオ! ウホォオオオ! ウホォオオオ!」


 その場で崩落して転がり回るゴリラ。

 もはや虫の息だ。

 手島はこのチャンスを逃さない。


「あとはトドメだ」


 手島は一瞬の躊躇もなくゴリラの顔面に剣を突き刺した。

 するとゴリラは消えて、手島のスマホからファンファーレが鳴る。


「こんな感じだ。動きを覚えれば簡単に倒せる」


「…………」


 重村は声を出せなかった。

 口がポカンと開いて、体がカチコチに固まっている。


 信じられなかった。

 あの紫ゴリラがあっさり倒されたことに。

 しかも倒したのは、自分と大差ない体格の人間だ。


 武藤が倒したのならまだ理解できる。

 彼は190を超える長身で、しかも筋肉質。

 さらに空手の達人だ。


 しかし手島は違う。

 戦闘技術など当然ながら持ち合わせていない。

 頭脳と度胸だけで紫ゴリラを倒したのだ。


「すげぇ……すげぇ……凄すぎだよ……すげぇ……」


 重村はそれしか言えなかった。


「褒めてくれるのは嬉しいが、俺はお前に同じ動きを求めているんだぜ」


 手島は微笑むと、剣を販売リストに戻して拠点を購入する。


「重村、お前は度胸がある。俺や真を前にしても物怖じせず交渉を繰り広げた男なんだ。機械的な動きをするザコにビビる必要なんてない。俺が勝てるようにしてやるから任せておけ」


「分かったよ! 手島さん!」


 重村の心は、手島祐治という男に平伏していた。


なろうで新作の連載を開始しました!

「家を追い出されたニート、冒険者+配信者で成り上がる」

という作品で、YOTUBEを駆使する冒険者の物語となります。

下のリンクから飛べますので、よろしければ是非……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ