074 手島祐治 5日目①
手島達の5日目が幕を開ける。
昨日の死亡者は2名。
これで生存者の数は440人になった。
ダイニングにて。
スマホを確認しながら朝食をとる手島達。
食事中のスマホ操作について、里桜は何も言わなくなっていた。
言うだけ無駄と判断したからだ。
それどころか、今では彼女もスマホを片手に食事している。
「ようやく死亡者の数が落ち着いてきたね」
重村が切り出した。
「喜ばしいな。人が死ぬのは良い気がしない」
隣に座っている武藤は同意し、焼き魚を頬張る。
「このまま誰も死なない日が来るといいねー!」
武藤の向かいに座っている里桜が言う。
彼女の視線は隣の手島に注がれている。
「近日中に死亡者数0人を達成できるとしたら、明日だろうな」
「明後日以降は駄目なの?」
「駄目というか厳しいと思う」
「なんでー?」
「谷のグループが既に崩壊寸前だからな。数日中に解散するだろうし、そうなったらまた死者が増え始めるさ」
手島はスマホをテーブルに置き、全員の顔を見渡す。
「谷のグループが解散したら勝負をかける。それまでの数日になにをするかによって今後の運命が決まる。ハードスケジュールになるが気張っていくぞ」
「「「おう!」」」
◇
朝食が済むなり、手島達は次の行動に移った。
食器を洗うだとか、服を洗濯するだとか、そんな家庭的なことはしない。
一目散に海へ移動した。
移動はマウンテンバイクで行う。
いちいち徒歩で移動するのは時間の無駄だ。
どこまでも効率を優先する。
「サクッと着替えて作業を始めるぞ」
海に到着しても止まらない。
ノンストップで水着に着替える。
だが、その足で海に入ろうとはしない。
ストレッチをして体を慣らしておく。
焦りはしない。
「行くぞ!」
手島の合図で全員が海に駆け込んだ。
昨日と同じで、二人一組に分かれて箱網に向かう。
到着すると、水揚げの前に箱網の中を確認。
「うわー! たくさん入ってる!」
里桜が声を弾ませた。
重村も「良い感じだ」と笑みを浮かべる。
箱網の中には大量の魚が入っていた。
正確な数は分からないが、明らかに昨日の数倍以上だ。
(最低でも1000はあってほしいな)
定置網は3箇所に設置している。
それで得られる合計報酬について、手島は1200万ptと想定していた。
1000万ptを超えていれば及第点だ。
目視だけでは及第点を満たしているか分からない。
だから今は、想定通りの結果を期待しながら作業を進めるだけだ。
「まずは1件目!」
昨日と同じ要領で箱網を陸に揚げる。
網の中の魚が消えて、膨らんでいた網が萎んだ。
それと同時に報酬が発生する。
「500万か」
重村が呟いた。
報酬額は約500万pt。
「600万に100万も足りないじゃーん!」
里桜が残念そうに言う。
「いや、問題ない。これだけあれば十分だ」
一方の手島は満足気。
他の網も同程度の漁獲なら万々歳だ。
「休憩したら次の箱網を回収しよう」
手島は〈ガラパゴ〉を起動し、砂浜に焚き火を作った。
◇
その後の作業も順調に進んだ。
特に問題なく第2第3の箱網の水揚げが完了した。
手島達は砂浜に腰を下ろして体力を回復させる。
「さて、どうなったかな」
手島はスマホを取り出した。
報酬がいくらなのかを確認する為だ。
最初の箱網以来となる確認である。
第2と第3の箱網は同時に回収したから。
慣れると網の回収は2人でも十分だった。
「これは……!」
3つの箱網から得られた報酬額の合計を見て、手島は驚いた。
「大成功じゃないか手島さん!」
重村が嬉しそうに言う。
手島もにんまりと笑った。
定置網漁業の収入は――約1500万pt。
これは手島の想定する最低ラインよりも遥かに多い。
手島が予想していた1200万ptすらも上回っていた。
大成功だ。
「でも、私はもうヘトヘトだよ。網を設置する気力がないんだけど」
里桜は疲労を訴えている。
「たしかに。明日は筋肉痛になるかもしれん」
武藤ですら疲れていた。
「さすがに三箇所は欲張りすぎたかもな。だが、そんな苦労もあと数日だ」
「ほんとにー?」
「上手くいけば重村がこの島の支配者になる。そうなれば、あとは下っ端に働かせたらいい。俺達はなにもしないでお金を得られるわけだ」
「その言葉、信じてるからねー?」
「だってさ、重村」
「が、頑張るよ。でも俺、本当にボスを倒せるのかなぁ」
重村は後頭部を掻いた。
「倒せてもらわないと困る。だからこの後は特訓だ」
「特訓?」
「俺と2人で拠点の獲得に行くぞ」
「えっ? 2人で!?」
驚く重村。
「祐治、それは無茶が過ぎるぞ」と武藤。
「大丈夫。戦うのは紫ゴリラだけさ。奴の動きなら把握している」
「それだったら俺が重村を……」
「いや、真は里桜と箱網の設置を頼む。縄張りの外でトラブルに巻き込まれるとしたら、狙われるのは里桜だ。しっかり守ってやってくれ。それに、真にも拠点の獲得をお願いしたい。作業が終わって時間とスタミナが余っていればの話だが」
「任せろ」
武藤は食い下がらずに承諾した。
「祐治……」
里桜が心配そうに手島を見る。
「そんな顔をするな。真が一緒なら問題ない」
「分かってるよ。私はあんた達の心配をしているの」
「俺達なら余裕さ」
手島はにやりと笑い、里桜に言う。
「手島祐治に失敗はない。そうだろ?」
意味不明な発言だったが、妙に説得力があった。
その言葉によって、3人は強く安心するのだった。