表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

74/91

074 手島祐治 5日目①

 手島達の5日目が幕を開ける。

 昨日の死亡者は2名。

 これで生存者の数は440人になった。


 ダイニングにて。

 スマホを確認しながら朝食をとる手島達。

 食事中のスマホ操作について、里桜は何も言わなくなっていた。

 言うだけ無駄と判断したからだ。

 それどころか、今では彼女もスマホを片手に食事している。


「ようやく死亡者の数が落ち着いてきたね」


 重村が切り出した。


「喜ばしいな。人が死ぬのは良い気がしない」


 隣に座っている武藤は同意し、焼き魚を頬張る。


「このまま誰も死なない日が来るといいねー!」


 武藤の向かいに座っている里桜が言う。

 彼女の視線は隣の手島に注がれている。


「近日中に死亡者数0人を達成できるとしたら、明日だろうな」


「明後日以降は駄目なの?」


「駄目というか厳しいと思う」


「なんでー?」


「谷のグループが既に崩壊寸前だからな。数日中に解散するだろうし、そうなったらまた死者が増え始めるさ」


 手島はスマホをテーブルに置き、全員の顔を見渡す。


「谷のグループが解散したら勝負をかける。それまでの数日になにをするかによって今後の運命が決まる。ハードスケジュールになるが気張っていくぞ」


「「「おう!」」」


 ◇


 朝食が済むなり、手島達は次の行動に移った。

 食器を洗うだとか、服を洗濯するだとか、そんな家庭的なことはしない。

 一目散に海へ移動した。


 移動はマウンテンバイクで行う。

 いちいち徒歩で移動するのは時間の無駄だ。

 どこまでも効率を優先する。


「サクッと着替えて作業を始めるぞ」


 海に到着しても止まらない。

 ノンストップで水着に着替える。

 だが、その足で海に入ろうとはしない。

 ストレッチをして体を慣らしておく。

 焦りはしない。


「行くぞ!」


 手島の合図で全員が海に駆け込んだ。

 昨日と同じで、二人一組に分かれて箱網に向かう。

 到着すると、水揚げの前に箱網の中を確認。


「うわー! たくさん入ってる!」


 里桜が声を弾ませた。

 重村も「良い感じだ」と笑みを浮かべる。


 箱網の中には大量の魚が入っていた。

 正確な数は分からないが、明らかに昨日の数倍以上だ。


(最低でも1000はあってほしいな)


 定置網は3箇所に設置している。

 それで得られる合計報酬について、手島は1200万ptと想定していた。

 1000万ptを超えていれば及第点だ。


 目視だけでは及第点を満たしているか分からない。

 だから今は、想定通りの結果を期待しながら作業を進めるだけだ。


「まずは1件目!」


 昨日と同じ要領で箱網を陸に揚げる。

 網の中の魚が消えて、膨らんでいた網が萎んだ。

 それと同時に報酬が発生する。


「500万か」


 重村が呟いた。

 報酬額は約500万pt。


「600万に100万も足りないじゃーん!」


 里桜が残念そうに言う。


「いや、問題ない。これだけあれば十分だ」


 一方の手島は満足気。

 他の網も同程度の漁獲なら万々歳だ。


「休憩したら次の箱網を回収しよう」


 手島は〈ガラパゴ〉を起動し、砂浜に焚き火を作った。


 ◇


 その後の作業も順調に進んだ。

 特に問題なく第2第3の箱網の水揚げが完了した。

 手島達は砂浜に腰を下ろして体力を回復させる。


「さて、どうなったかな」


 手島はスマホを取り出した。

 報酬がいくらなのかを確認する為だ。


 最初の箱網以来となる確認である。

 第2と第3の箱網は同時に回収したから。

 慣れると網の回収は2人でも十分だった。


「これは……!」


 3つの箱網から得られた報酬額の合計を見て、手島は驚いた。


「大成功じゃないか手島さん!」


 重村が嬉しそうに言う。

 手島もにんまりと笑った。


 定置網漁業の収入は――約1500万pt。

 これは手島の想定する最低ラインよりも遥かに多い。

 手島が予想していた1200万ptすらも上回っていた。

 大成功だ。


「でも、私はもうヘトヘトだよ。網を設置する気力がないんだけど」


 里桜は疲労を訴えている。


「たしかに。明日は筋肉痛になるかもしれん」


 武藤ですら疲れていた。


「さすがに三箇所は欲張りすぎたかもな。だが、そんな苦労もあと数日だ」


「ほんとにー?」


「上手くいけば重村がこの島の支配者になる。そうなれば、あとは下っ端に働かせたらいい。俺達はなにもしないでお金を得られるわけだ」


「その言葉、信じてるからねー?」


「だってさ、重村」


「が、頑張るよ。でも俺、本当にボスを倒せるのかなぁ」


 重村は後頭部を掻いた。


「倒せてもらわないと困る。だからこの後は特訓だ」


「特訓?」


「俺と2人で拠点の獲得に行くぞ」


「えっ? 2人で!?」


 驚く重村。


「祐治、それは無茶が過ぎるぞ」と武藤。


「大丈夫。戦うのは紫ゴリラだけさ。奴の動きなら把握している」


「それだったら俺が重村を……」


「いや、真は里桜と箱網の設置を頼む。縄張りの外でトラブルに巻き込まれるとしたら、狙われるのは里桜だ。しっかり守ってやってくれ。それに、真にも拠点の獲得をお願いしたい。作業が終わって時間とスタミナが余っていればの話だが」


「任せろ」


 武藤は食い下がらずに承諾した。


「祐治……」


 里桜が心配そうに手島を見る。


「そんな顔をするな。真が一緒なら問題ない」


「分かってるよ。私はあんた達の心配をしているの」


「俺達なら余裕さ」


 手島はにやりと笑い、里桜に言う。


「手島祐治に失敗はない。そうだろ?」


 意味不明な発言だったが、妙に説得力があった。

 その言葉によって、3人は強く安心するのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ