073 手島祐治 4日目④
手島達は定置網の設置数を増やした。
新たに設置した数は2つ。
計3箇所に定置網が設置されたことになる。
これによって、想定される収益は日に約1800万となった。
しかしこれは単純計算で考えた場合の話。
日に1200万も稼げたら上出来だろう、と手島は考えていた。
楽観視はしない。
◇
拠点に戻ると、手島は土地を購入した。
拠点を出てすぐの1ブロックが手島の領土になる。
「更地にすることもできるのか」
土地に関する項目を眺めながら呟く手島。
これを活かして何かできないものかと考えていた。
買ったばかりの土地の上を行ったり来たりする。
「悪だくみかい?」
拠点から重村が出てきた。
「悪だくみってなんだよ。俺は別に悪党じゃないぞ」
「分かっているさ」
手島は重村の顔を見た後、空を見上げた。
日が暮れている。
「夕食の準備ができたのか?」
夕食の準備は里桜が行う。
武藤や重村はそれを手伝わされていた。
「うん。手島さんを呼んでこいって言われてね」
「わざわざ呼びに来なくてもラインを飛ばしてくれたらいいのに」
「送ったけど反応ないから来たんだよ」
「まじか」
手島は〈ガラパゴ〉を閉じてラインを開いた。
たしかに重村からチャットが届いている。
「悪い悪い、気づかなかった」
「俺はかまわないけど、桜井さんは知らないぞ」
「ま、大丈夫だろう。あと2分くらいなら」
手島は体を拠点に向けるも、歩かずにラインを確認。
グループラインのログを読んで「やはり」と呟いた。
「なにが『やはり』なんだ?」
「谷のグループの動向さ。いよいよ不穏な雰囲気が漂い始めている」
「ほう」
グループラインでは、谷に集まっている生徒達が愚痴をこぼしていた。
「どうやら拠点があるにもかかわらず、大半は拠点の外――つまり野宿をしいられているようだ」
「どうして拠点に入れないんだ? 今なら王になれるだろ」
「下手に選別しようとしたせいで問題がこじれたようだ」
「選別?」
「安岡達は覚えているよな? 前に遭遇した連中だ」
「もちろん」
「ああいう奴らだけを排除したい、と谷のグループのリーダーは考えているわけだ」
「気持ちは分かる。俺も自分が必死に獲得した拠点をあんなチャラ男共に使わせるのは嫌だ」
「だから問題が起きる。元々の目的は皆で救援が来るまで耐え凌ごうってものだ。それなのに個人の好き嫌いで人を選ぼうとするのだから、不満が爆発しても仕方ない。結局、谷のリーダーは拠点の中に引きこもったままというわけだ。怯えて外に出てこないからフレンド登録すらままならないってオチさ」
「拠点を盾に強気な態度で毅然と振る舞えばいいのにな」
「傍から言うには楽だが、実際にやってみると難しいものさ」
手島はスマホをポケットに戻した。
「この様子だと谷のグループはもって数日だ。この島の支配者になるなら、これからの数日間が勝負になる。気を引き締めていくぞ」
堂々とした足取りで拠点に向かう手島。
重村は無邪気な笑みを浮かべてその後に続いた。
◇
夜。
皆が寝静まった頃、手島はむくりと起き上がった。
「さすがにこのまま出歩くのはまずいか」
パンツ一丁はよろしくない。
自室の明かりをつけてから制服を着た。
スマホを確認する。
時刻は午前2時になる寸前だった。
「そろそろ出る頃か」
午前2時から4時の間に現れる謎の猛獣。
手島はそいつの姿を見たいと思っていた。
この時間に起きたのもその為だ。
スマホを操作して拠点内の照明をオンにする。
もちろん仲間の部屋だけはオフのままだ。
「祐治、お前もか」
そう言ったのは武藤だ。
彼も謎の猛獣を拝むべく部屋から出たところだった。
「拠点の中なら安全だしな。真、お前は戦うつもりか?」
「うむ。強さを把握しておきたくてな」
手島達はゆっくりと拠点の外に向かう。
そして、洞窟から出る直前で足を止めた。
「此処で待機しよう」と手島。
「どうしてだ? 土地を1ブロック買ったのだろ?」
「念の為さ。拠点の中が安全なことは俺達が生きているから確定しているが、土地の上まで安全とは限らない。謎の猛獣とやらが土地の上を自由に移動できるかもしれない」
「なるほど、用心深いな」
そうこうしている間に午前2時になった。
その瞬間、どこからともなく謎の猛獣――徘徊者が現れる。
数十体の徘徊者が手島の持つスマホの明かりに群がった。
「祐治、どうやら土地の上でも問題ないようだぞ」
「そのようだ」
徘徊者達は土地の周辺で引っかかった。
見えない壁に阻まれて土地に足を踏み入れられないのだ。
「異様に頭の大きな人型……前に真が言っていた通りだな」
手島が拠点内から徘徊者を観察する。
安全が確保されているので恐怖はなかった。
「祐治、かまわないか?」
武藤が戦闘の許可を求める。
「怪我をしなければ好きにしてくれていい」
「分かった」
武藤がスマホを操作して武器を召喚する。
事前に作っておいた金属製の武器――ナックルダスターだ。
それを両手の拳に装着すると拠点から出た。
「フンッ!」
まずは安全な土地から徘徊者を殴り飛ばす。
巨大な顔面に一撃を加えただけで、徘徊者はあっさり死んだ。
チャリーン♪
武藤のスマホが鳴る。
だが、彼は内容を確認することなく次の徘徊者へ。
その調子で何体か倒すと、思い切って土地から出た。
「グォオオオオオオオ!」
待っていましたとばかりに武藤を襲う徘徊者。
武藤は軽快なカウンターでことごとく蹴散らしていく。
だが、次第に形勢が悪くなってきた。
「埒があかないな」
倒しても倒しても次の徘徊者が現れる。
「真、その辺にしておけ。どうやらこいつらは報酬が発生しない」
「そうなのか?」
「お前は既に10体以上の敵を倒しているが、スマホから音が鳴ったのは最初の1回だけだ。おそらくクエスト報酬が発生しただけで討伐報酬は発生していない。これ以上は時間と体力の無駄だ」
「分かった」
武藤は土地に逃げ込み、ナックルダスターを外した。
大量の徘徊者を殴ったというのに、ナックルは新品同様の綺麗さだ。
「たしかにクエスト報酬だけだな。どうやらこいつらは徘徊者というらしい」
「徘徊者か。金にならないならどうだっていいな。戻って寝よう」
「うむ」
手島と武藤は自分達の部屋に戻り、再度の眠りに就くのだった。













