069 手島祐治 3日目④
重村をこの島の王にする。
これは手島にとっても都合の良い話だった。
最大の理由は自分の手を汚さずに済むこと。
愚衆のヘイトは全て重村に集中し、自分には向かない。
島を出る際に予期せぬ妨害を受けるリスクを減らせるわけだ。
加えて、自由に動きやすい。
王という立場では何かと行動が制限されるだろう。
下々の動向に目を向ける必要があるから。
どうしてもフットワークが重くなるわけだ。
重村をこの島の王に据えて、自分はそれを影から操る。
これが手島の理想であり、重村からしても美味しい話だ。
まさにwin-winの関係である。
(思ったより生物が多いな。こいつらも金になるといいが……)
手島は買ったばかりの海パンを穿いて海に潜っていた。
ゴーグルを着けて海中の様子を確認している。
一方、重村は砂辺を散策していた。
海沿いに歩いて何かないかと探っている。
――が、これといった発見はなかった。
(これなら大丈夫そうだな)
手島は海から上がると、タオルを買って体を拭く。
海水なので、体を拭いてもベトつきがとれなかった。
「重村、戻るぞ」
制服を着ると、手島は帰還の指示を出す。
重村は「分かった」と答え、駆け足で手島に近寄った。
「どうだった? 手島さん」
「試してみないことには分からないが、たぶん大丈夫だろう」
海での活動を終え、手島と重村は拠点に戻った。
◇
「そんなに稼いだのか」
「私も頑張ったけど、真に比べるとダメダメだなー」
「いやいや、里桜も大したものさ。よくやったな」
「えへへっ」
嬉しい報告が手島を待っていた。
里桜と武藤の稼ぎが想定を遥かに上回っていたのだ。
里桜は販売だけで10万ptほど稼いでいた。
販売する武器の種類を増やしたのが奏功したようだ。
武藤にいたっては単独で約300万ptも稼いでいた。
拠点の周囲に棲息している動物を狩ったことが大きい。
特にヘビの報酬が高かった。
種類にもよるけれど、1匹あたり数十万は確実だ。
「これだけお金あるんだし、そろそろ串焼きはやめようよ!」
夕食の献立に意見する里桜。
「そうだな」
手島も頬を緩めて同意する。
「拠点内にダイニングを作って、そこに食器を並べて食うとしよう。何を食うかは里桜と真に任せるよ。俺と重村は海まで歩いて行っただけだからな」
「やったー! 真、ステーキにしようよ!」
「串焼きと大差なくないか?」と苦笑いの武藤。
「たしかに……。じゃあコロッケ!」
その日の夕食は、今までで最もほんわかしていた。
◇
武藤達が稼いだお金を使って、手島は拠点を拡張した。
全員分の個室に加えて、トイレと浴室を作る。
稼いだお金を惜しみなく使い、設備をしっかり整えた。
「案の定といったところか」
夜、自室で布団に寝そべり、ラインを眺めながら手島は呟いた。
谷のグループに綻びが生じつつあったのだ。
表向きはまだ上手くいっているが、それも今の間だけだろう。
手島は谷のグループが近いうちに崩壊すると睨んでいた。
リーダーの男は学校だとカーストの底辺にいた出来損ないだからだ。
そういった人間に、安岡のような連中を抑えることはできない。
法と秩序のない島で他人を支配するには力が必要だ。
有無を言わせない絶対的な力が。
それに計画が甘すぎるとも思った。
質問に対して理想論もいいところの回答を連発していた。
「この様子だと思っていたよりも早くその時がくるかもな」
手島は既に先の展開を考えている。
重村を王にする為のロードマップを何通りも構築していた。
トントン。
考え事をしていると扉がノックされた。
手島は「どうぞ」と入室を促す。
「ちょっといいか」
入ってきたのは重村だった。
「別にいいけど、見ての通りなにもない部屋だぜ」
手島が部屋を見渡す。
彼の部屋には布団が敷いているだけで、他には何もなかった。
あとは照明と空調のみ。
家具を買うだけの余裕はなかった。
「かまわないさ」
重村は適当な場所に腰を下ろす。
ズボン越しに岩肌の冷たさが感じられた。
「海での話だけどさ」
「お前を王にするってことか?」
「そう。具体的にはどうするつもりなんだ?」
重村は興味があった。
手島がどんな風に考えているのか。
「この後の展開によって変わってくるが――」
そう前置きしてから手島は答える。
「俺の予想だと、谷のグループは数日中に崩壊する。お前が王になるのはその時だ。他の連中と一緒に拠点を獲得する。獲得した後は管理者権限をちらつかせて服従させれば支配者――つまり王の誕生だ」
「そんな簡単にいかないだろ」
「まぁな。拠点を獲得するにはお前がボスにトドメを刺す必要がある。ここが最初の関門だ。しかし、これはおそらく問題ない。次は他に拠点を獲得して仕切る奴が出た場合だ。だがこれも問題ない」
「なんで問題ない? 何か秘策があるのか?」
「トドメを刺せるかどうかは運要素が絡むが、他に拠点を獲得して仕切る奴云々については事前に対策しておけばいい。対策方法は簡単だ。谷の周辺にある拠点を占領しておく。お前が王になる為の拠点を除いてな」
「それだったら俺が仕切る拠点も含めて、全て占領しておけばいいんじゃないか? で、谷のグループが解散したら、拠点に入れてやる代わりに服従しろと言えばいい。そうすればトドメを刺す際の運要素が消える」
重村の言うことはもっともだ。
だが、手島は「それじゃダメなんだよ」と首を振った。
「それだとお前の王政は上手くいかないんだ」
「どうして」
「部下がいないからだよ」
「部下?」
「どれだけお前に管理者権限があるからといって、たった一人で数百人を従えさせるのは無理だ。いずれ俺や里桜はこの島を出るのだから、お前は別の協力者――部下を作っておく必要がある」
「その部下を作るのに戦う必要があるの?」
「そうだ。お前の部下は、お前と一緒にボスと戦った者達だ。こいつらは命懸けで拠点を獲得した同志ということで、ちょっとやそっとではお前を裏切らない。お前だって命懸けで手に入れた拠点に他の連中を受け入れるなら、相応の見返りがあっても当然だと思うだろ? 他の奴だって同じさ。だから、好きな女を侍らす権利でも付けてやれば、喜んで部下になってくれるだろう」
「そこまで考えているとは……! なんという読みの深さ……!」
重村の頭が自然と垂れる。
手島の慧眼に感服した。
【お知らせ】
皆様の応援のおかげでにより書籍化が決定しました。
活動報告にも書いているのですが、1巻に本編を丸ごと収録する予定です。
発売日や担当イラストレーター様など、詳細は改めてお知らせいたします。
今後もどうぞよろしくお願いいたします。













