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068 手島祐治 3日目③

「いや、会ってないな。俺達はさっきまで海にいたけど、里桜と武藤は見かけていないぜ。だよな?」


 安岡が尋ねると、他のメンバーが頷いた。


「そうか……」


 手島はいかにも残念そうに言うと、「それで」と続けた。


「そっちはどこへ向かっているんだ?」


「俺達は谷を目指しているんだ」


「谷? なんだそれ」


 またしてもとぼける手島。

 無言で立ち尽くす重村は、手島の考えが読めずに困惑している。


「パシリちゃんが谷に集まろうって呼びかけてただろ。知らないのか?」


「里桜との合流を優先していたから気づかなかったな。そんなのがあるのか」


「陰キャのくせにここではリーダー気取りだぜ。だからちょっと混ぜてもらおうと思ってな」


「はは、あわよくばリーダーにのし上がろうって考えか」


「そこまでは思っちゃいないが、パシリちゃんが偉そうに仕切るのは気に食わないだろ。だからちょっと優しくしてやるだけさ」


 安岡が下卑た笑みを浮かべる。

 手島は「そうかそうか」と軽く流した。


「良いことを教えてくれてありがとう」


「おうよ」


 安岡は笑顔で頷く。


「なんだったら一緒に谷へ向かうか?」


「いや、念の為に海へ行ってからにするよ。里桜達は海に到着しているみたいだからな。今から谷に変えようなんて言ったら後が大変だ」


「相変わらず里桜には頭が上がらずか。手島重工の御曹司ともあろう男が尻に敷かれてやがるな」


「恋愛は惚れたほうが負けとはよく言ったものだ」


「違いねぇ!」


 安岡は豪快に笑うと、「じゃあな」と言って歩き始めた。


「ふぅ」


 安岡達の後ろ姿が遠のいたのを確認すると、手島は安堵の息を吐いた。


「なんだ、手島さんの友達だったのか」


「そんなわけないだろ」


 重村の言葉を、手島は躊躇うことなく否定する。


「学校ではそれなりに話していたけど、別に仲良しってわけじゃないさ。それに安岡は俺のことを快くは思っていない」


「そうなの?」


「あいつは里桜が好きだったからな。だが里桜は俺を選んだ。今では別の女と付き合ってるようだが、あいつが未だに里桜を狙っていることは明白だ」


「でもあんたをグループに誘っていたよ?」


「でもじゃない。だから誘ったんだ。里桜が合流したら、グループのリーダーは自分だと里桜にアピールできるからな。此処では自分のほうが上の立場だって誇示する為に誘ったに過ぎない」


「そういうものなの?」


「なら逆に訊くが、親しい人間に嘘をつくと思うか? お前も気づいていただろ。俺があいつらに嘘のオンパレードで答えていたことに」


「たしかに」


「余計なトラブルを避けるには、さっきのような付き合いも大事なのさ」


 手島は再び歩きだす。


「それより重村、お前、安岡や一緒にいた奴等を見てどう思った?」


「どうって?」


「率直な感想でいい。言ってみろ」


 重村は質問の意味が分からなかった。

 だが、手島に訊かれたので答える。


「安岡はなんかチャラ男だなって思った」


「他は?」


「他の男は安岡の取り巻きなのかなって感じ」


「たしかにそうだな。学校でも安岡がリーダーであとの3人は取り巻きだった」


「あと、女は可愛い奴ばっかだった。羨ましく思ったよ。ほら、俺には縁がないからさ」


「なるほどな」


 移動を再開してから20分もしない内に海が見えてきた。


「海だ! 海だよ、手島さん!」


 声を弾ませる重村。

 一方、手島は今までとまるで変わらない表情。

 嬉しそうにするわけでも、悲しそうにするわけでもない。


「どうしたんだよ、手島さん。嬉しくないのか? 海だよ」


「いや、嬉しいさ。でも、その前に確認しておきたいことがある」


「確認?」


「俺や真、それに里桜はこの島を脱出したい。だが重村、お前はどうだ? 前の日常に戻りたいか?」


「それは戻りたいよ。だってこのままだと俺、童貞どころか彼女すらできたことないまま終わっちまうんだぜ」


「なら安岡と一緒にいたような女を侍らせられるならどうだ?」


「それはどういう意味だ?」


「前の日常に戻るか、それともこの島で王として君臨するかってことだ。王になったら多くの生徒を従えさせる。そいつらはお前の言いなりだ。お前が働けと言えば働くし、裸になれと言えば服を脱ぐ。さっきお前が可愛いと言った女達ですら、お前が命令すればお前に侍る。そんな環境になるとしたらどうだ?」


「それだったらこの島がいいよ。俺は手島さんと違って学校じゃ落ちこぼれだからな」


「そうか」


 手島はニヤリと笑った。


「なら重村、お前を王にしてやるよ」


「えっ」


「お前をこの島の王にしてやる、そう言ったんだ」


「おいおい、そんなことできるわけ」


「できるさ」


 手島は力強い口調で言う。


「たしかに断言はできない。だが、俺の読みでは――できる」


「本当かよ」


「そこは俺を信じてくれとしか言いようがないけどな」


 重村が手島の目を見る。

 冗談を言っているようには見えなかった。


「信じるよ。手島さん、俺はあんたを信じる」


「なら今後は俺の部下として尽くしてもらうぞ。といっても、基本的には今となにも変わりないけどな」


「分かった」


 手島が手を差し出す。

 重村はそれに応じて握手を交わした。


「一緒にこの島の支配者になるぞ、重村」

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