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066 手島祐治 3日目①

 手島は拠点を3フロア拡張した。


 まずは奥行きに1フロア。

 次に拡張したフロアの左右に1フロアずつ。


 左右のフロアには空調と照明を設置。

 それらのフロアは、男子と女子で分かれて使うことにした。

 つまり片方は里桜の独占状態だ。


 拠点の管理者権限はボスを倒した手島にある。

 ただ、残りの3人も共同管理者なので、拠点の拡張が可能だ。


 その頃、グループラインでは谷に集まる動きが加速していた――。


 ◇


 3日目が始まった。

 37人が死亡し、残った生存者は458人に。

 大して気にすることもなく、手島達は拠点の前で朝食を行う。


 この日も串焼きだ。

 最初のおにぎりを除くと、串焼きしか食べていない。


 誰もが串焼きに対して嫌気が差している。

 調味料を変えているとはいえ、流石に飽き始めていた。

 それでも、コストパフォーマンスの面から我慢している。

 食事が楽しむものからただの作業になりつつあった。


「私達はしなくていいの?」


 里桜が手島に尋ねる。


「なにをだ?」


「アレ」


 里桜が南西の空を指す。

 強烈な黒い煙が舞っていた。

 狼煙だ。


「ああ、アレのことか」


 狼煙は昨日から上がり始めている。

 救助用の狼煙を上げよう、と誰かが言い出したのだ。

 それに賛同した連中がそこら中で狼煙を上げていた。


「あんなのする必要ないよ」


「どうして? 他の人がしてくれるから?」


「無駄だからさ」


「無駄なの?」


「狼煙で気づくくらいなら、昨日か一昨日に救援が来ているよ。知ってるだろ? 俺のスマホは特別製なんだ。世界のどこにいても居場所を特定できる。それこそ水深数百メートルの深海にいたって問題ない」


 手島のスマホには特殊な装置が内蔵されている。

 手島重工の御曹司なので、拉致や誘拐に巻き込まれる恐れがあるからだ。

 この装置によって、手島の居場所を瞬時に特定することができる。

 スマホ本体の充電が切れていても関係なく動作する代物だ。


「いまだに救援がこないのだから、わざわざ狼煙を上げたって無駄さ。体力の無駄であり、時間の無駄であり、何より金の無駄だ」


「そっかぁ」


「そんなしょうもないことに耽るくらいなら、水野みたいにこの世界を満喫するべきだな」


 手島がラインを見ながら呟く。

 グループラインで水野が樹上生活の様子を紹介していた。

 ハンモックの作り方や生活風景を写真付きで語っている。


「ツリーハウスの完成が近づいているらしいな」と武藤。


「大したもんだよ。それに情報を積極的に発信しているのも良い。絵に描いたような聖人だな、アイツは」


 水野の発言を見ていると、手島の頬が自然と緩んだ。

 こいつが仲間なら面白くなっていただろうな、と思った。


「でも、俺はどうかと思うな」


 そう言ったのは重村だ。


「水野はいい奴だけど、グループラインの連中なんて大半がカスみたいなもんだろ。そんな奴等に有益な情報を発信してどうするんだ。見返りなんか期待できないし、むしろ不要なリスクを招くだけじゃないのか。自分の居場所まで教えちゃってさ、俺からすると馬鹿にしか見えないが」


「重村って冷酷ぅー!」


 里桜が茶化す。

 重村は「だってそうじゃないか」と言い返す。


「その言い分はごもっともだし、俺も同じ考えだ」


 手島は最後の肉を飲み込むと、「だが」と続けた。


「こういう無条件で奉仕しようって善人に心を動かされる人間もいるものさ。俺にしたってそうだ。水野のことは馬鹿だと思うけれど、困っていたら助けるだろう。奴の行動はたしかにリスクとリターンの収支が合わない。それでも、完全に無駄な行動とも言えないさ」


「そういうものなのか」


 重村は釈然としない様子だった。

 しかし、手島が言うならそうなのだろう、と思った。

 重村は既に、手島祐治という男に心酔している。


「さて、メシも終わったことだし、今日の作業を決めようか」


 手島が立ち上がると、他の3人も立ち上がった。


「里桜、お前は拠点の中に篭もって物作りに取り組んでもらう」


「えー、引きこもり!?」


「だったらこの緑しかない外を歩くか?」


「遠慮します……。で、私は何をすればいいの?」


「武器の製造と販売だ」


「私、祐治と違って鉄砲の作り方とか知らないんだけど」


「えっ、手島さん、銃を作れるの!?」


 驚く重村。


「作れないよ。仕組みは分かるから作ろうと思えば作れそうだけど」


「すごいな……」


「そんなことより、里桜に作ってもらうのは銃じゃなくてコレだ」


 手島は拠点の壁に立てかけてある槍を手に取った。


「この槍と似たようなのを量産して販売しよう。どこの誰か分からないが、今はおそらく同じ人間が独占的に供給している。俺達も一枚噛ませてもらうとしよう」


「それだったら大丈夫そう! 〈ガラパゴ〉の加工を駆使して作っていいんだよね?」


「もちろんだ。価格は同業者より少しだけ安くしておこう。あと、商品名は丸被りでいけ」


「えーパクるの?」


「何の差別化も図らずに参入しようとしているんだから、多少はダーティーに攻めないとな。もし商品名のパクリがシステム的に無理なら、商品名の横に作った時間を入れておけばいい。人は新しい物を好む」


「了解!」


「真は昨日と同じで果物の乱獲を頼む。それが終わったら拠点の周辺で動物を狩っておいてくれ。俺の警護をする必要はない」


「分かった」


「里桜のこと、よろしく頼むぞ」


「任せておけ」


 手島は頷くと、視線を重村に向けた。


「重村、お前は俺と一緒に行動するぞ」


「俺と手島さんの二人きりってこと?」


「そうだ。問題あるか?」


「いや、特に」


 重村の心中はただならぬ状態だった。

 手島が何を考えているのかが分からないからだ。


「では作業開始だ。重村、行くぞ」


 手島は槍を二つ持ち、一つを重村に渡す。

 重村は黙って手島に続く。


 その様子を、武藤と里桜は心配そうに見ていた。

 二人も手島の考えが読めていないのだ。


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