065 手島祐治 2日目⑧
手島が買った物。
それは――網だ。
サイズを最重視した大きな代物。
その一方で、耐久度は軽視して価格を抑えている。
その為、値段は2000pt程だった。
「こいつを木の周辺に張ればいい。マンション等によくある転落防止用のネットと同じ考え方だ。これで果物が地面に落ちるのを防げる」
「そっか! 地面に当てなければ消えないもんね!」
里桜は手を叩き「名案じゃん!」と声を弾ませる。
「上手くいくかは分からないが、まぁ大丈夫だろう。ダメなら別の方法を試すまでだ」
手島の指示のもと、皆で作業に取りかかる。
複数の木を支柱の代わりにして網を張っていった。
網を張り終えると、新たに同様の網を購入。
1つの網だとカバーできる範囲が限られているからだ。
こうして全方位に網を張り巡らせた。
網は約2メートルの高さに設置。
武藤の頭がギリギリ当たらない程度の高さである。
「もう少し低くしないと収穫が大変だよー」
と里桜は言ったが、手島はその要望を却下した。
複数の木で効率的に乱獲したいからだ。
その為には、木々の間を自由に移動できることが望ましい。
網の位置が低すぎる場合、迂回する等の手間が生じてしまう。
「これで完成だ」
1時間ほどかけて網を張り終える。
「真、へし折らない程度に頼むぜ」
「任せろ」
武藤は果物が大量に実っている木の前で深呼吸。
そして、ひと思いに正拳突きを繰り出す。
ドサァァァァ!
果物が降り注ぐ。
レモンのようなシルエットをした紫色の果実が特徴的だ。
実に不味そうで、誰一人として食べたいとは思わなかった。
それらは地面に落ちることなく、網にキャッチされる。
「よし、思惑どお――!」
網の上を転がる果物を見ながら手島が勝利を確信しかけた時。
果物がパッと消えた。
網に当たり、少し転がった後、忽然と姿を消したのだ。
「ちょー!? 消えたんだけど!?」
悲鳴に似た叫び声を上げる里桜。
「手島さん、これって失敗なんじゃないか?」
重村が残念そうな顔をする。
だが、その顔は次の瞬間、驚きに変わった。
チャリーン♪
全員のスマホから報酬が発生した時の音が鳴ったのだ。
「「「「もしかして……!」」」」
4人が一斉にスマホを確認する。
「お金が振り込まれてるー!」
「それも大量だ。全ての果物が収穫扱いになってる」
里桜と重村の頬が緩む。
「祐治、報酬額がおかしいぞ。1個あたり125ptしかない」
武藤は険しい表情。
「おそらく4等分されているのだろう。1人で収穫したら500ptだが、4人で協力したので4等分されて125ptというわけだ」
「ふむ」
「この仮説が正しいかどうかは、全員の履歴を確認すれば分かることだ。全員が同じ額の報酬を獲得しているなら、4等分されていたことになる。ちなみに俺は6000ptを獲得していた。報酬の発生回数は48回だ」
「俺もそうだな」と重村。
里桜と武藤も「同じく」と続いた。
「これで確定だな」
手島は他の木に目を向けた。
「他の木も同じような数の果物が実っている。今後は真がサクッと木を殴るだけで、全員に金が入るということだ」
「凄っ! これならお金に困らないじゃん!」
「流石は手島さんだな」
里桜と重村の声に「ふっ」と笑う手島。
それから手島は武藤に尋ねた。
「真、無理のない範囲だと毎日何発くらい正拳突きを打ち込める?」
「20発くらいなら平気だが」
「20発!?」
里桜がぶったまげた。
「1回6000の20発って12万じゃん!」
「いや、そんなに頑張る必要はない」
手島は手を横に振った。
「半分の10発を1日の目安にしよう。なので今日は、あと3発ほど頼む。パワー不足で果物の一部が落ちなかった場合は、無視して次の木にいくといい」
「分かった」
「手島さん、どうして10発に留めておくんだ? 果物は1日経つと自動的に復活するって水野が言っていたじゃないか。限界まで収穫するほうが賢いと思うが」
重村が尋ねる。
手島の方針に異論があるわけではない。
ただ純粋に手島の考えが知りたかった。
「真には常に余力を残しておいてもらいたいんだ。それも少しの余力ではなく、まだまだ動けるレベルでの余力だ。なぜなら此処が安全だと断言できないからだ。有事の際は真の力が頼みの綱になる。だからさ」
「なるほど。未知のリスクに備えるってことか」
「そういうことだ。金を稼ぐ効率は落ちるが、安全性は高まる。此処での暮らしは持久走みたいなものだから、長い目で見た行動が大事だと俺は考えている」
「参考になったよ」
重村は満足気に微笑んだ。
改めて、流石は手島さんだ、と思っていた。
「フンッ! フンッ! フンッ!」
その後、武藤はサクッと正拳突きを三連発。
15時になるよりも前に作業が終了した。
「お疲れ、真。助かったよ」
武藤に労いの言葉をかけた後、手島は次の指示を出した。
「ハンモックの布団を回収に行ったら、今日の作業はそれでおしまいだ。戻ったら拠点を軽く拡張してメシを食う。それでいいかな?」
全員が首を縦に振った。
「決まりだな」
手島達はハンモックに向かって歩き始めた。
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