064 手島祐治 2日目⑦
「俺はあんたみたいに彼女がいなくてさ。昔から女とは縁がなかったんだ。でもさ、周りは当たり前のように恋愛をして、青春を謳歌しているだろ」
重村の言葉に対し、手島は適当に相槌を打つ。
「俺も普段は『彼女なんていらねーし』みたいに強がってるけどさ、実は彼女がほしくてしかたないんだ。ほら、男ってそういうもんだろ?」
恥ずかしさから、なかなか本題に入ろうとしない重村。
「分かっているさ。で、それが水野とどう繋がるんだ?」
手島がサクッと本題へ入るように促す。
「だからさ、どうにか彼女を作ろうとして、俺、手を出したんだ――マッチングアプリに」
重村は目をキュッと閉じる。
思いっきり嘲笑されると思ったからだ。
高校生がマッチングアプリとか馬鹿じゃねーの、と。
しかし、手島達の反応は違っていた。
「ほう、それで?」
手島は相変わらずの表情。
「いいじゃん! 努力してる! えらい!」
里桜は前のめりで頷く。
「恋愛は難しいよな。俺も失敗ばかりだ」
武藤は重村に同情する。
(馬鹿にしないんだ……)
そのことに驚きつつ、重村は続けた。
「それで、俺は一人の女と出会ったんだ。年は俺より少し上、女子大生だ」
「年上か。いいじゃん。顔は? よかったのか?」
「写真では最高だった」
「「「おおー!」」」
重村の顔がさらに赤くなる。
当時のことを思い出して恥ずかしさが強まってきていた。
「で、水野はどこで出るの? 水野は!」
里桜は今すぐにでも結論を知りたい様子。
「かいつまんで言うと、その女子大生と会うことになったんだ。話が弾んでさ、向こうから会いたいって言ってきた」
「ついに来るのか水野が」
手島が言うと、重村が頷いた。
「そうなんだよ。水野が来たんだ。女子大生の指定した場所に」
「えっ? じゃあ、水野が女子大生に扮していたってこと?」
里桜が首を傾げる。
「そんな奴には見えなかったが」と武藤。
「違う。そうじゃない」
重村は首を振った。
「俺と水野は釣られたんだよ、その女に。本当に女だったのかも分からないが、とにかくそいつは、俺と水野を釣って、同じ日時に同じ場所へ集めたんだ。俺達以外にも同じような奴らが周りにはいてさ」
「あー釣りにかかったのか」
手島が納得する。
「ひっど!」
「鬼畜の所業だな」
里桜と武藤は眉間に皺を寄せた。
「これが水野に関する恥ずかしい経験さ。俺と水野は互いにマッチングアプリに手を出し、そして同じ奴に釣られた。今まで誰にも話したことのない秘密だ」
「それはたしかに恥ずかしいな。でも、傍から聞いている限りだと、恥ずかしいと言うより可哀想だな」
「だよねー、私もそう思った! 重村、女にも良い奴はいるから諦めるなよ!」
重村は力なく「はは」と笑う。
手島は脈絡なく「なるほどなぁ」と呟くと、立ち上がった。
3人は「なにがなるほどなんだ?」と思いつつ手島を見る。
「メシも終わったことだし作業を始めるか」
手島は足で砂を掛けて焚き火を消すと、近くの木に移動した。
その木を見上げて、大量の果物が実っていることを確認する。
「真、今こそ本気の正拳突きで果物を乱獲する時だ」
「任せろ」
武藤は買ったばかりの軍手を装着し、木の前に立った。
腰を落として精神を集中させる。
目を瞑って何度か深呼吸すると、一気に開眼。
「ハアッ!」
紫ゴリラ戦とは比較にならない速度の正拳突きが繰り出される。
手島達には、武藤の拳が木に当たったことを確認できなかった。
それほどまでに凄まじい速度だったのだ。
だが、たしかに武藤の拳は命中していた。
ワサワサァ。
木が激しく揺れる。
果物が今にも枝から落ちそうだが、落ちはしなかった。
武藤の力加減が少し弱すぎたせいだ。
「真、もう一発だ」
「おう」
武藤は精神統一して再度の正拳突きを放つ。
枝にしがみついていた果物達は、今度の攻撃には耐えられなかった。
ドバッと全ての果物が木から落ちて、地面に降り注ぐ。
「乱獲の時間だ!」
手島達は降ってくる果物を手分けしてキャッチする。
彼らが掴んだ果物は即座に姿を消した。
同時に、採取報酬が彼らのスマホにチャージされる。
「殆ど取れなかったがまぁいい。あとは地面に落ちているのを回収して――って、あれ?」
ここでトラブルが発生した。
「取り損ねた果物はどこだ?」
地面に転がっているはずの果物が見当たらない。
「誰か見ていないか?」
手島が尋ねる。
3人は首を横に振った。
無理もない。
誰もが上を見るのに必死だった。
「もしかすると取り損ねた果物は消えるのかもしれないな」
手島が仮説を立てる。
「別の木で証明するか」と武藤。
「そうだな。次は取らないで様子を見るとしよう。真、いけそうか?」
「問題ない」
武藤は違う木に正拳突きをぶちかます。
今度は一発で果物が降り注いだ。
それらは地面に当たると、パッと消えた。
もちろん報酬は発生しない。
「やはり」
手島は納得した。
「えー、これだとまとめて回収するの無理じゃん! 木に登って1個1個収穫していくとか大変すぎなんだけど」
里桜が不満そうに頬を膨らます。
武藤と重村も冴えない表情をしている。
しかし、手島だけは違っていた。
可能性の一つとして、この展開を予想していたのだ。
「大丈夫。そうはならない。対策は考えてある。任せとけ」
そう言うと、手島は〈ガラパゴ〉である物を買った。
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