063 手島祐治 2日目⑥
更新間隔が【週1回】に変更となります。
次回の更新日は【6月25日】です。
手島達は獲得した拠点の前で昼食をとることにした
手軽さとコストパフォーマンスの面から、今回も串焼きだ。
里桜と重村が食事の準備を行う。
手島と武藤は、拠点に設置した蛇口で体を洗い流して着替える。
制服が異様に安かった為、2人は迷わずに新しい制服を購入した。
「桜井……さん」
作業中、重村が話しかけた。
里桜は素っ気なく「ん?」と返す。
「このグループに入れてもらう前、会ったばかりの時、不快にさせてしまったことを謝るよ。ごめん。悪気があったわけじゃないんだ。許してほしい」
この言葉に里桜が驚く。
着替えを終えたばかりの手島と武藤も驚いていた。
「べ、別に謝る必要なんかないわよ」
里桜が顔を赤くしながら言う。
「食ってかかったのは私なわけなんだし。むしろ私こそごめん。それに、陰キャ陰キャって言い続けてごめんね、重村」
手島と武藤が静かに微笑む。
彼らに背を向けた状態で里桜は言う。
「後ろの2人、笑ってるんじゃないよ!」
「「悪い悪い」」
手島はニヤニヤしながら里桜の隣に腰を下ろした。
武藤は手島と重村の間に座った。
全員で焚き火を囲むと、手島が武藤に言う。
「真、金はいくら余ってる?」
「さっき里桜に食費を回したから6万ちょっとだな」
「ならその金で装備を買おう」
「装備?」
「靴と軍手だ。靴は5000pt、軍手は2000ptのにしよう。あと、俺と里桜に追加で金を回してくれ。それぞれ1万ずつ。装備に使う」
「分かった」
武藤がスマホを操作する。
手島と里桜が事前に売りに出している石を購入した。
「重村、お前も靴を購入しておけ。上履きのままだと足を痛める」
「了解」
そうこうしている間に串焼きが完成。
「そろそろ調味料を使って味に変化をつけていこうか」
手島は靴を買った余りのお金で塩胡椒と醤油を購入した。
醤油をかけて焼くと、食欲をそそる香りが場を包んだ。
「手島さん」
重村が話しかける。
「別に呼び捨てでいいよ。俺だけでなく、真や里桜のことも」
「いや、さん付けで呼ばせてもらうよ」
「そうか。で、どうした?」
「この後はどうする予定なの?」
重村がマジマジと手島を見つめる。
キラキラと輝くその目を見ていて手島は思った。
(重村の奴、俺を崇拝し始めているな)
その読みは正しい。
現に重村は、手島に対して尊敬の念を抱いていた。
拠点のボスをいとも容易く倒した手腕を評価している。
そして、自分の誘い方など、これまでの流れも評価していた。
「この後は果物の収穫を軽くしてから布団の回収だ。俺達は昨日、木の上にハンモックを作って過ごしたのだが、そのハンモックに布団を敷いてある」
「ハンモック……水野みたいだ」
「まさにその水野を参考にしたのだ。重村、水野のことを知っているのか?」
「奴とは」
そこまで言って重村の言葉が止まった。
すっと目を逸らす。
「いや、なんでもない」
「おいおい、途中まで話したら最後まで言えよ」
「個人的なことさ」
「何か恥ずかしい経験をしたわけだな?」
「……まぁ、そうだ。だからあまり話したくない」
「そういうネタこそ話してくれよ。距離を縮めようぜ」
「だ、だったら、あんたから先に恥ずかしい経験を話してくれよ」
「たしかにそれもそうだな。こちらも言わないとフェアじゃない」
手島が串焼きを頬張りながら考える。
「ここだけの話なんだがな」
そう前置きしてから手島は言った。
「実は数日前、おねしょをしたんだ」
「おねしょ? マジで?」
「酷かったぜ。起きたらさ、ベッドがビショ濡れだ。その時な、俺の家にはとある人物が泊まりに来ていてさ、一緒に寝ていたんだ。そいつがさ、起きた時に言ったんだ『ちょっとこれ、どういうこと!?』って」
里桜の眉がピクッと反応した。
重村は静かに耳を傾けている。
「俺は自覚があったんだよ、自分がお漏らしをしてしまったって。でもな、一緒に寝ていた奴は分からなかったんだよ。自分が漏らしたのか、それとも俺が漏らしたのか」
「ほう」
「だから俺は言ってやったんだ。『おい里桜、お漏らしするってどういうことだ。このベッドはクソ高いんだぞ』ってな」
「ちょー! あれって私じゃなかったの!? ていうかその話、真や重村に言わないでくれる!? 漏らしたのが私じゃなくても恥ずかしいんだけど!」
重村が「ぷっ」と吹き出す。
「これが俺の恥ずかしい経験さ。高校生……それも3年になったのにおねしょをしたんだ。他の奴には口が裂けても言えないよ」
「そいつはたしかに恥ずかしい経験だ」
「だろ。次は重村、お前の番だ」
「そうだな……」
重村は恥ずかしそうに顔を赤くしながらポツポツと話し始めた。
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