061 手島祐治 2日目④
新メンバーの重村に案内され、手島達は洞窟へやってきた。
洞窟は手島達のハンモックからそれほど遠くないところにあった。
「あれがボスか」
「うげぇ、気味悪い色!」
洞窟の前には紫色のゴリラが立っていた。
普通のゴリラよりも遥かに大きくて威圧的だ。
ボスと呼ぶに相応しい風格を漂わせている。
「たしかに襲ってくる気配は見られないな」
手島達は離れたところからボスを見ている。
そこはボスの守備範囲から外れている為、ボスは反応しない。
ただ仁王立ちして手島達を睨みつけているだけだ。
「とりあえず此処から仕掛けてみるか。真、警戒しとけ」
「分かっている」
手島は足下の石コロを拾い、ボスに向かって投げつける。
放物線を描くように飛ぶ石コロ。
それがボスの頭部に命中――しなかった。
「ウホッ」
ボスが手で弾き落としたからだ。
それによって手島達の警戒感が一気に強まる。
手島と里桜は腰が引けた。
だが、何の問題も起きずに済む。
「……襲ってこないな」
「範囲の外だと防御しかしないよ」と重村。
重村は手島達と会う前、単独でボスに挑んだ。
といっても、範囲の外から石コロ等を投げていただけ。
どうにもならないと判断して撤退したところで手島達と出会った。
「真、アイツを倒せるか?」
手島は次の作戦に打って出る。
チーム随一の武闘派である武藤に戦わせるのだ。
「やってみよう」
武藤は一気にボスへ突っ込んだ。
「無茶だ!」
重村が叫ぶ。
それでも武藤は止まらない。
里桜は不安そうに口に手を当てながら見守っている。
「ふんっ!」
武藤の先制攻撃。
手に持っている槍をボスに向かって投げつけた。
槍は一直線に飛び、ボスの顔面を襲う。
「ウホッ!」
ボスは先程と同じ要領で槍を弾く。
しかしそれは武藤の想定していた通りの動き。
ボスが槍に気を取られている隙を突き、武藤は距離を詰めた。
ボスの懐に潜り込み――。
「うおおおおおおおお!」
怒濤のラッシュを繰り出す。
超人的な速度で繰り出される正拳突きの連打だ。
それらはボスの胸部にある一点をピンポイントで捉えた。
「ウホオオオオ!」
ボスは目に見えて痛がった。
――が、この攻撃では倒すに至らない。
「ウホォ!」
武藤の攻撃を受けながら、ボスが反撃を繰り出す。
振りかざした左手で武藤の顔面を叩こうとした。
武藤は屈んでそれを回避すると、渾身の必殺技を放つ。
後ろ回し蹴りだ。
対人戦なら一瞬で気絶へ追い込む武藤の得意技。
それがボスの胸部にヒットした。
正拳突きで蓄積させた部分を寸分の狂いもなく捉える。
「ウゴォ……!」
ボスが後ずさり、微かによろめく。
「まじかよ」
愕然とする重村。
「いっけぇ! 真!」
里桜が声援を飛ばす。
「真! トドメをさせ!」
手島も珍しく叫んだ。
しかし――。
「祐治、撤退だ」
――武藤は追い打ちを掛けなかった。
それどころか後方へステップして、ボスの範囲から出る。
「真、どうしたんだ?」
手島が慌てて駆け寄る。
「どう見ても倒せそうだったじゃん!」と里桜。
「いや、あれは演技だ」
武藤は冷静に答える。
「俺の攻撃を受けてから怯むまでの間に、妙な反応の遅れがあった。あれはわざと怯んだように見せて、俺が深入りしてくるのを誘っている動きだ」
「本当か」
「違うかもしれないがその可能性は高い。追い打ちにでてもよかったが、ここは勝負をかける場面ではないと判断した」
「どう考えても勝負をかける場面だろ」と重村。
「陰キャと同じ意見なのは嫌だけど私もそう思う」と里桜。
手島だけは「いや」と首を振った。
「真の言う通り、勝負をかける場面ではない」
「えー、どうしてさ?」
「ボクシングで喩えるなら、今回はジャブで様子見をしているところだ。真が軽々と倒せるならそのまま倒して終了だが、相手が手強いとなれば撤退して策を練るつもりでいた」
手島は常に次善の手を検討している。
それが手島家の帝王学だ。
先の先まで考えてリスクとリターンの収支を計算する。
「真の正面突破が厳しいとなれば、俺達が正攻法で倒すのは無理だな。道具を使って戦うとしよう」
「ふっ、祐治は流石だな。その口ぶりだと既に何か考えているわけか」
「戦争にスポーツマンシップなど存在しないからな」
そう言うと、手島は槍を武藤に渡した。
そして、自身はゆっくりとボスに近づいていく。
「ちょ、祐治!」
慌てて止めようとする里桜。
手島は「大丈夫」と言い切る。
「問題ないからそこで待機していろ」
それから、臆することなく進んでいく。
「ウホオオオオ!」
手島が範囲に入った瞬間、ボスが動き出した。
一目散に手島へ突っ込む。
それに合わせて、手島は後ろに跳んで範囲から出る。
すると、ボスは途端に大人しくなった。
静かに洞窟の前に戻り、定位置で仁王立ちする。
「ここが範囲の限界か」
手島はボスがどこで動き出すかを調べていた。
範囲を正確に把握しておけば、安心して戦いに臨める。
「真、あいつはその石槍で突き刺せそうか?」
「おそらく大丈夫だ」
「分かった」
手島が武藤に向かって手招きする。
「真、こっちへ来い。重村と里桜はそこで待機だ」
「おう」
武藤が手島に向かって歩きだす。
「手島さん、あんた何を企んでいる?」
重村が目をパチクリさせながら尋ねる。
「決まっているだろ。ココを使ってあいつを倒すのさ」
手島が自分の頭を指でトントンしながら言う。
そして、余裕の笑みを浮かべながらスマホを取り出した。
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