060 手島祐治 2日目③
「そこの君、待ってくれ」
手島が背後から声を掛けると、男子生徒はビクッと体を震わせた。
(声を掛けるまで気づいていなかったのか……。鈍い男だな)
この時点で手島は、男子生徒の値踏みを始めていた。
「本当に他の人がいたんだ」
それが男子生徒の第一声だった。
「その様子だと他の人間と会うのは俺達が初めてか」
「そっちは違うようだね」
「なんで分かるの!?」と驚く里桜。
「いや、分かるだろ。俺の話し方から推測できたろ」
手島は呆れたように言うと、男子生徒を見た。
「俺達は拠点が欲しくて洞窟を探しているんだ。場所を知らないか?」
「知ってるよ」
「「――!」」
里桜と武藤の眉がピクッと動く。
手島は無表情のままだ。
「よかったらその洞窟の場所、教えてくれないか」
「いいけど、いくらで?」
「いくらって、金を取るの!? 教えるだけで!?」
里桜が食ってかかる。
今にも槍で攻撃を始めそうな雰囲気だ。
そうならないよう、武藤が目を光らせている。
「情報を提供するのだから対価を求めるのは普通のことだろ。別に嫌ならいいよ、勝手に探してくれ」
むすっとする男子生徒。
手島は「まぁまぁ」と宥めてから言う。
「額はいくらが希望なんだ?」
「口頭説明なら1万pt。現地まで案内するなら5万だ」
「ちょ! ぼりすぎじゃない!? なめすぎでしょ!」
「黙ってろ、里桜」
「だって! この陰キャ――ッ!」
そこで里桜の言葉が止まる。
武藤が手で口を塞いだからだ。
「俺達は現地まで案内してもらいたいが、だからといって5万は支払えない」
「だったら3万でいいよ」
「3万か」
手島はジーッと男子生徒の顔を見た。
相手も同じように手島を見ている。
(この男、陰キャのくせに肝が据わっているな。俺や真が冷静だからいいが、大抵の人間は里桜のように怒るものだ。そうなると何をされるか分からない。なのに堂々としている)
手島は男子生徒に対する値踏みを修正していた。
ただの陰キャラから、度胸のある陰キャラに。
(ただ、交渉の仕方は下手だな。最終的な落とし所は2万5000pt辺りで見ているのが丸分かりだ。今は1万ですらほしいはずなのに、この手の人間は妥協点より下だとあっさり交渉を決裂させる。かといって、貴重な金をこんなところで浪費したくないな)
手島は少し考え込んでから言った。
「条件を変えさせてくれ」
「条件を変える?」
「そちらは俺達を現地まで案内する。この条件は変更ない。その代わり、こちらはお金より良い条件を提示しよう」
「お金より良い条件? その女を好きにさせてくれるのか?」
里桜がより険しい表情で何かを喚く。
だが、武藤に押さえられているせいで「んごぉ!」としか聞こえない。
(やはり陰キャだ。冗談ぽく言っているが、女に飢えて仕方ないってところか。この交渉、もらったな)
手島は心の中でニヤけつつ、無表情で言った。
「ふっ、面白い冗談だ。だが違う。俺が差し出すのは、俺達とフレンド登録を行う権利さ」
「フレンド登録? それが何の役に立つんだ?」
「俺達は洞窟のボスを倒して拠点をゲットする。拠点に入れるのはフレンドだけだ。つまり、俺達のフレンドになれば、君も拠点に入ることができる。もう外で怯えて過ごす必要はない」
「俺をパーティーに入れてくれるってわけか」
「そういうことだ」
「たしかに良い話だが信用できないな。拠点の獲得後にフレンドリストから削除されたらおしまいだ」
「そう言うと思ったよ。だから担保として3万を渡しておこう。もしフレンドリストから削除されたら、その3万を持ってどこかへ消えればいい。逆にこちらが約束を守って君を拠点に住まわせ続けたら、3日後に担保の金を返してくれ。これなら問題ないだろ?」
「たしかに……」
男子生徒は手島を見たまま必死に考える。
手島の話に何か落とし穴があるのではないのか、と。
だが、どれだけ考えても落とし穴らしきものは見当たらない。
「どうする? 時間が無いからさっさと決めてくれ。決裂なら俺達は自力で探すだけだ」
「……いいだろう、その条件で交渉成立だ」
「ありがとう。ならお金を渡すよ。そこらの石コロか何かを1万で3つ出品してくれ。俺達がそれぞれ買わせてもらう」
「分かった」
もはや主導権は手島にあった。
男子生徒は言われたことに従うのみ。
「祐治、なに勝手に決めてるのさ? それになんなのよ今の条件。私、こんな陰キャと一緒とか嫌なんだけど」
「そんなこと言うな。彼は別に悪気があったわけじゃない。それに提示してきた条件だって妥当性があった。ふっかけてきたわけじゃない。怒る要素はどこにもないだろう。だから俺は彼をグループに入れたいと考えたんだ。それより、彼の出品した石を買うぞ」
「むぅ。わかったよぅ」
手島達はそれぞれ、男子生徒から1万ptで石コロを購入する。
里桜は購入した石コロを召喚すると、即座にどこかへ投げ捨てた。
「これで交渉成立だ。案内してもらう前に名前を教えてくれないか。俺は手島祐治。彼女は桜井里桜。隣の巨人は武藤真。全員3年だ。よろしくな」
男子生徒は「よろしく」と返し、自分の名を名乗った。
「俺は2年の重村良文だ」
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