059 手島祐治 2日目②
手島達は、ハンモックから円を描くように移動する。
一直線に北東へ進んでいた昨日とは動き方が異なっていた。
洞窟を探す為だ。
「祐治いたよ! 角ウサギ!」
「よく見つけたぞ、里桜。三方から囲んで仕留めよう」
道中では棲息している動物を狩っていく。
昨日は見かけても無視していた。
狩るとお金が得られると知らなかったからだ。
ただ、仮に知っていても無視していただろう。
昨日の手島は、体力の消耗を最小限にしたいと考えていた。
「里桜、そっちに逃げたぞ」
「任せて!」
里桜が手に持っている槍で角ウサギを突き刺す。
角ウサギは一撃で息絶え、里桜に報酬が発生した。
討伐報酬とクエスト報酬を合わせて約21,000ptの獲得だ。
「よくやったぞ、報酬はどうだ?」
「ちゃんと入ってる。角ウサギの名前、ホーンラビットって言うらしいよ。報酬は1万1000ほど!」
「それって討伐報酬だけで1万1000ってことだよな?」
「うん。クエスト報酬は別枠で1万」
「悪くない稼ぎだな」
と言いつつ、手島の表情は冴えない。
彼は脳内で素早く計算していた。
「それにしてもこの武器いいねー!」
里桜が槍を掲げる。
朝食を終えてすぐに〈ガラパゴ〉で買った物だ。
槍は、他のユーザーが売りに出していた。
アプリ自体のストアには、一切の武器類が売っていない。
「ただの石器だが、丁寧に作られている。価格も良心的だった」
手島は自分の持っている槍を眺める。
彼らは3人共、同じような槍を所持していた。
「この槍でガンガン角ウサギを狩っていこうよ!」
と声を弾ませる里桜に対し、
「報酬は果物の20倍以上だもんな」
と武藤も同意する。
「いいや、角ウサギはクエスト分だけでいい。だから俺と真が1匹ずつ倒せば、今日のところはそれで終了だ」
手島は否定的な姿勢を示した。
「なんでさー?」
ぶぅっと頬を膨らませる里桜。
「角ウサギを倒すまでに費やす諸々の苦労を考えるなら、果物を採取するほうが楽だからさ。角ウサギがわらわら棲息している場所を見つけたら話は変わるが、今のようにしばしば見かける程度なら、あえて狙っていくのは非効率的と言える。安定性に欠けるからな」
「なら見かけたら狩る感じ?」
「そういうこと」
「はーい」
手島達は並んで森の中を歩く。
なかなか洞窟が見当たらない。
「祐治、この辺りに洞窟はないんじゃないのか」
武藤の声には苛立ちの感情がこもっていた。
代わり映えしない風景に嫌気が差している。
それは手島も同じだった。
「そうかもしれない。マップが座標の確認にしか使えないから困ったものだ」
手島が立ち止まる。
それに合わせて里桜と武藤も止まった。
「先にフレンド登録を済ませておくか。ボスを倒して洞窟を自分達の拠点にしたら、フレンド以外は見えない壁とやらで入れないそうだからな」
「そういえばそんなこと書いてあったなー!」
手島達が〈ガラパゴ〉のフレンド登録を行う。
それが終わって移動を再開しようとした時、武藤が気づいた。
「祐治、あっちに男がいるぞ」
武藤が指した方向に手島と里桜の視線が向く。
「絵に描いたような陰キャだな」
それが手島の感想だった。
その男は手島と大差ない身長で、黒髪は目元が隠れる程に伸びている。
体型はヒョロガリで、肌は色白。
初日で死んでいてもおかしくないような風貌だった。
手には手島達と同じ槍を持っている。
「どうする?」
武藤が尋ねる。
「相手は1人、こちらは3人。真もいるし恐れる要素はない。話しかけにいくぞ」
「えー、陰キャに話しかけて意味ある?」
里桜は面倒くさそうだ。
「里桜、その価値観は捨てたほうがいい。藤堂が昨日の時点で拠点を獲得していることをもう忘れたのか?」
「覚えてるけどさぁ」
「ここでは陰キャが主役になりえるのさ。だから声をかけておく。それに顔を売っておくのは悪くない。ビジネスの基本だ」
「仕方ないなぁ」
「なら行くぞ。距離があるから早足で行こう」
手島達は遠目に見える男子生徒を追った。
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