058 手島祐治 2日目①
「え、そんなことがあったの!? 全然気づかなかった!」
「そらお前は気持ちよさそうに眠っていたからな」
「警戒していたんだけどなぁー」
「嘘つけ。すごいいびきだったぞ」
翌朝、手島は昨夜の事を里桜に話した。
朝食の内容は、昨日の夕食と同じで串焼きだ。
食材も基本的には昨日と同じ物を使っている。
朝ということもあり、肉より野菜が多めになっていた。
「ラインを見る限り深夜帯に出現するようだな、謎の猛獣」
左手で串焼きを食べつつ、右手でスマホを操作する手島。
里桜の「行儀が悪い」という発言は華麗にスルーした。
「やっぱり拠点が必要だな」
ひとしきりラインを読み終えると、手島が言った。
「拠点って、洞窟のことだっけ?」と里桜。
「そうだ。門番の猛獣を倒して10万ptを払えば拠点になる。拠点の中なら安全らしい。藤堂がそう言っている」
「藤堂って……誰?」
里桜が武藤を見る。
武藤は「知らぬ」と首を振った。
「藤堂大地だよ。俺と同じクラスだ」
「そんな人いたっけ。私と真は2組だから知らないのかな」
「影の薄い奴だよ。2年から同じクラスだが、休み時間はいつも寝ている。最近は受験に向けて必死に勉強をしていたようだが」
「いつも寝てるって……陰キャじゃん」
「知らないのも無理ないな」と真。
「そう、絵に描いたような陰キャだ。俺も出席番号が1つ違いじゃなければ、同じクラスでも覚えていなかったと思う」
「で、その陰キャが洞窟をゲットしたの?」
「どうやらそのようだ」
「そんな軟弱者ですら獲得できるくらいなら、洞窟の門番とやらも大したことなさそうだな」
「それは違うぞ真。こういう陰キャこそ、いざという時に覚醒するものだ」
「そうなのか?」
「陰キャなんてのは、言うなれば社会不適合者みたいなものだろ? まともな社会性を持ち合わせていないから陰キャになるわけだ」
「うむ」
「それは言い換えると、普通の奴とは考え方が違うってことだ。現代社会に適応できていないからこそ、こういう異常な環境には妙な適応力を発揮する可能性がある。昨日会った水野も同じ類だろう」
「奴は陰キャには見えなかったが」
「見た目はな」
話が脱線してきているな、と手島は思った。
だから「そんなわけで」と強引に話を戻す。
「今日は拠点の獲得を目標に行動する。どうやら昨日だけで58人が死んだらしいからな」
「58人!? そんなに死んだの!? 嘘でしょ!?」
里桜が目玉を飛び出しそうな程に驚く。
「〈ガラパゴ〉に新しいタブが追加されていて、そこで数を把握できるよ。おそらくこの情報は間違っていない。グループラインの発言につく既読の数が明らかに減っているからな」
「じゃあ、私の友達とかも死んでるかも」
「里桜の友達ってウチの学校にいたっけ? 俺達以外に」
「いるから! 失礼な!」
「ま、気になるなら調べてみるといいさ。俺はパスするけどな」
「なんでさ? 祐治にも私達以外に友達いるじゃん」
「いないよ」
手島はきっぱり断言した。
「水野が言うところの『仲間』に当たるような存在はお前達しかいない。たしかに学校では色々な奴と親しくしているよ。ラインのフレンドリストだって、他校の人間も含めたら3000人を超えている。だが、そいつらは“知り合い”であって、友達や仲間と呼べるようなものじゃない。ぶっちゃけ、死のうが生きようがどうだっていいさ」
「そういう意味では俺も祐治と里桜だけだな。同じ学校の友達は」
「私もそうなるかも」
「だったらササッとメシを済ませて行動しよう。時は金なりだ」
「おー!」
早々に朝食を済ませ、手島達は2日目の活動を始めるのだった。
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