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056 手島祐治 1日目④

 手島達のハンモック作りは難航した。

 動画の男はすいすい作るのに、いざ真似をすると上手くいかない。

 今まで自然に触れてこなかったのが仇となった。


「まさかこんな原始的な作業をする日がくるとはな。そしてこんな原始的な作業に苦労するとは。やれやれ、全くもって災難な一日だ」


 ぼやきながらも作業を終える。

 時間はかかったものの、費用はかからなかった。


「おにぎりにして正解だったね」


 手島は「だろ」とドヤ顔で頷き、空を見上げる。

 夕暮れ時になっていた。


「とりあえず今日はハンモックの上で休もう。明日に備えて体力温存だ」


 手島達は、ネットを参考に作った梯子で木に登る。

 ハンモックに寝転ぶと、想像以上の心地よさだった。


「夜になったら祐治や真が見えなくなって不安だなぁ」


 彼らは別々の木にハンモックを作った。

 重さで枝が折れないように配慮してのことだ。

 その為、3人の間には1メートル以上の間隔がある。


「なら長い紐を購入して、それを互いに持った状態で寝よう。紐を引っ張れば存在を認識できて問題ないだろ?」


「うん!」


 里桜がニッコリと嬉しそうに頷く。

 手島は「やれやれ」と苦笑いを浮かべた。


「真、お前も紐がないと不安か?」


「そんな物は不要だ」


「だよな。ならお前はそのまま過ごしてくれ」


「うむ」


 手島は長めの紐を購入すると、頭上にある木の幹へ巻いて結んだ。

 そして、紐の反対側を里桜に向かって放り投げる。

 里桜は一発でキャッチすると、手島と同じように木の幹に紐を結ぶ。

 やや弛んだ状態の紐が両者の木を繋いだ。


「祐治、どうしてピンッと張ったら駄目なの?」


 紐が弛んでいるのは、手島がそうするよう指示したからだ。


「このほうが引っ張った時に揺れを感じやすいからさ」


 手島が紐を引っ張ってみせる。

 紐は大きく縦に揺れて、彼の言葉を裏付けた。


「そっかー! じゃあさじゃあさ」


「今度はなんだ?」


「お腹空いた!」


「またかよ……と言いたいが、俺も同感だ。流石におにぎり1個じゃきついな。ハンモック作りで体力を消耗したし」


「でしょでしょ! 何か食べようよ!」


「そうだな」


 手島は横になったばかりの体を起こした。


「今日は他にする作業もないし、適当に安い材料を買って自分達で作ろう。もしかしたら調理に関するクエストが完了されるかもしれん」


 3人は地面に降りると、それぞれの食材を購入した。

 手島は野菜、里桜は川魚、武藤は牛肉。

 野菜と牛肉はぶつ切りにし、竹串に刺した状態で召喚。


「ラインで誰かが言っていた通りだな。購入した商品は召喚する前に加工することができる。串に刺さった食材を焼くことが調理に含まれるのかは不明だが」


 手島は串焼きを行う為の火を熾すことにした。

 ハンモックのある木から少し離れた所で焚き火を行う。


 この作業はまるで苦労しなかった。

 焚き火の仕方をネットで検索したからだ。

 過去に焚き火をした経験もある。

 それになにより、ライターを購入したのが大きい。

 1分足らずで火熾しが完了した。


「まさか食材を焼くだけで調理したことになるとはな」


 焚き火に串を突っ込んだ瞬間、調理関連のクエストがクリアになった。

 報酬の1万ptがチャージされたことで、所持金がまたしても増える。

 火を熾したことによって、「火を熾そう」のクエストもクリアになっていた。


「あー全部美味しい!」


 里桜が豪快に串を平らげていく。

 自身の買った川魚の腹部を囓ると、今度は真からもらった牛肉を頬張る。


 3人は互いに全員分の串を購入して分け合っていた。

 同じ物ばかり食べていると飽きる、ということで手島が提案したのだ。


「祐治、洞窟の件はどうするつもりだ?」


 寡黙な真が口を開く。


「洞窟? ああ、色の変な猛獣が門番をしているとかいうアレか」


 点在する洞窟にはゴリラ等の動物がいる、という話だ。

 手島達はまだ遭遇したことがなかった。


「実物を見ないとなんともだな。ま、明日になったら考えるさ。どうせしばらくは救助なんて来ないからな」


「しばらくは救助が来ない?」


 武藤の眉間に皺が寄る。

 里桜も驚いた様子で食事を止めた。


「考えてみろよ。この〈ガラパゴ〉とかいう謎のアプリ。それに未知の果物の存在。起きたらこんな訳の分からない森にいるという状況もそうだ。この環境は何もかもが異常過ぎる。こんな状況で救助が来ると思っている奴のほうが間抜けさ」


 手島は最後のブロック肉を頬張ると断言した。


「賭けてもいい。持久戦になるぞ、これは」

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