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055 手島祐治 1日目③

「俺は手島。彼女は桜井里桜。で、こっちは武藤真。3人とも3年だ」


「自分は2年の水野っす!」


 手島達の声に応えたのは、2年の水野泳吉だった。

 見るからに健康そうな褐色の肌が特徴的な男子。


 水野は上半身が裸の状態で作業をしていた。

 脱いだ制服は別の木にかけてある。


「それで水野、君は何をしているのだ?」


「ハンモックを作っているっす! 樹上生活をするっす!」


「ほう」


 手島が水野の後ろにある木を見上げる。

 作業を始めたばかりのようで、ハンモックの形を成していない。

 蔦やら何やらが枝に絡まっているだけだった。

 しかし、作業途中であることはよく分かる。


(この男、既に適応しているのか。やるな)


 手島にまじまじと見つめられて、水野はむず痒い様子。

 照れるように後頭部をぽりぽりと掻いた。


「水野、俺達と一緒に行動しないか?」


「「えっ!?」」


 里桜と水野が驚く。

 武藤は無表情で手島の隣に立っている。


 手島の身長が162cmに対し、武藤の身長は194cm。

 その2人が横に並ぶと、まるで親子のようであった。


「1人だと心細いだろう。一緒に行動しよう」


「それはありがたい申し出ですが……」


 水野は難色を示した。


「自分、此処にツリーハウスを作りたいんす。だから先輩方と行動を共にすることはできないっす。申し訳ないっす!」


 深々と頭を下げる水野。


「そうか、なら仕方ないな」


 手島はあっさり引き下がった。

 説得の余地がないと判断した為だ。


「邪魔をして悪かったな」


「そんなことないっす! 嬉しかったっす! 仲間が見つかって」


「仲間か」


 手島は「ふっ」と笑った。


「嬉しいことを言ってくれるが、俺達は仲間ではない」


「そうっすか……」


 目に見えて落胆する水野。

 里桜が「そんなことを言わなくてもいいじゃない」と耳打ちする。

 手島は気にする様子もなく続けた。


「仲間というのは、俺にとってのこの2人のようなものを指す。無条件で信頼できる相手――それが仲間だ。君にもいずれ本当の仲間が見つかるだろう」


「本当の仲間……」


「俺達と君の関係は、言うなればビジネスパートナーだ。利害が一致している時は仲間のようなものだが、一致していない時は敵にもなりうる。だがまぁ、今はこの環境を生き抜こうとしているので仲間みたいなものだ。何かあったら頼ってくれてかまわない。逆に俺達も困った時は頼らせてもらう」


「分かったっす!」


「ではこれにて失礼するよ」


「ご指導ありがとうございましたっす!」


 深々と頭を下げる水野。


(指導したつもりはないのだが……)


 手島は苦笑いしつつ、里桜と武藤を率いてその場から去っていく。


 ◇


 水野との会話を終えた約一時間後のこと。


「ハンモックはアリだな」


 唐突に手島が呟いた。


「アリって? 私達も作るの?」


「そうだ。寝床は必要だからな」


 手島はスマホを操作し、ハンモックの作り方を検索する。

 元軍人のサバイバル動画が出てきた。

 自然に存在している物だけでハンモックを作っている。

 英語で作り方を紹介しているが、ご丁寧なことに字幕つきだ。


「これを参考に俺達も作ろう」


「えー、なんか難しそう」と里桜。


「大丈夫なのか? 此処の木は動画の物とは明らかに別種だが」


 武藤も難色を示している。


「足りない分は〈ガラパゴ〉で補えばいいだけさ。だがその前に食糧補給だな」


 手島と武藤はそれぞれ果物を採取してポイントを貯める。

 これで3人の所持金は1万500ptで横並びとなった。


 今度はそのポイントを使って買い物を行う。

 3人が買った初めての商品はおにぎりだった。


 コンビニで150円も出せば買えそうな代物。

 それが〈ガラパゴ〉だと2750ptもした。

 食事のお供に500mlの烏龍茶も購入する。1500ptだ。


 あっと言う間に所持金の4割が消えた。

 だが、次の瞬間には、購入前よりも所持金が増えていた。

 買い物に関するクエストの報酬がチャージされたからだ。


「こんなのじゃお腹の足しにならないよ」


 里桜が不満そうにおにぎりを食べる。


「今度から材料を買って作ることにしよう。材料を買って自分で作れば安く済む。今回と同じ出費でそこそこ満たせるはずだ」


「なんで今回はそうしなかったの?」


「時間の節約だ。今は1秒でも早くハンモックを作りたい。〈ガラパゴ〉を見る限り、果物を採り続ければ最低限の生活は持続できる。だったら今はちんたら調理せずにサクッと補給するのが良いと判断した」


「タイムイズマネーってやつね」


「それに俺はおにぎりが食べたい気分だった」


「むしろそっちが本音でしょ」


 手島はその言葉を無視する。


「さぁ作業開始だ」


 サクッと食事を終えて、手島達はハンモック作りを始めた。

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