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054 手島祐治 1日目②

「この〈ガラパゴ〉とかいう謎のアプリが鍵になりそうだ」


 再び動き出す手島。

 その頃には既に遅れを取り戻していた。

 それどころか一歩先を進んでいる。


 ラインのグループ会話はいまだ混乱状態。

 だが、手島達は冷静に行動を起こしていた。


「祐治、どこを目指しているの?」


 里桜が尋ねる。


「このコンパスが正しければ――」


 手島はスマホのコンパスアプリを見ながら答えた。


「――北東だ」


「なんで北東?」


「別に深い理由はない。あえて何かしらの理由を繕うなら『東京へ近づく為』とかだろうか。俺はとにかく海に行きたい。どこか分からぬ森の中ではなにかと都合が悪いからな」


 しばらくして、手島は立ち止まった。


「里桜、協力してくれ」


「いいけど、なにをするの?」


「アレを採取したい」


 手島は樹上に生える果物を指した。


 それは彼らが一度も見たことのない謎の果物。

 見た目はブドウに似ているが、実の色は青色で気味が悪い。

 一本の木に、この果物が大量に実っていた。


「アレを食べるの?」


「いや、採取すると〈ガラパゴ〉で使えるお金が貰えるようだ」


「そうなの?」


「ラインにはそう書いてあった。だからそれを確かめる」


「大丈夫なのかな? 手で触ってヤバくない? すごい色だけど」


「だから里桜で試すわけだ」


「ひどっ! 真もいるでしょ!」


「真は空手の達人だぞ。戦闘要員だ。手を怪我させるわけにはいかない。何者かに襲われた場合、俺達を救えるのは真だけなんだから」


「祐治、なんなら俺が木を揺らそうか? この程度の木なら正拳突きを何発か食らわせるとへし折れるだろう」


「そこまでする必要はない。今は1つだけ採取できれば十分だからな。いざという時に備えて体を大事にしていこう」


「分かった」


 手島が木に背中を向けて、両手を重ねて受け皿にする。

 そこへ里桜が足を乗せた。


「いくぞ、里桜」


 手島が手の位置を高くしていく。

 里桜は必死に腕を伸ばし、青いブドウをもぎ取る。

 次の瞬間、そのブドウが消えて、彼女のスマホから音が鳴った。


「祐治、ブドウが消えたんだけど」


「消えた? 落としたんじゃないのか?」


「違うって! 採った瞬間に消えたの」


「里桜の言っていることは間違っていない。俺も見ていた。たしかに消えた」


「そうか」


 手島はゆっくりと里桜を地面に下ろす。


「里桜、スマホを確認しろ。〈ガラパゴ〉に金が入ったか?」


 里桜は長くて青い髪を掻き上げた後、スマホを操作する。


「これのことかな?」


 手島にスマホを見せる里桜。

 彼女の指は〈ガラパゴ〉のポイントを指していた。


「それだ。1万と500ptが貯まっているな。履歴を確認しよう」


 手島が履歴ボタンをタップするが反応しない。


「フリーズ?」


 そう言って里桜が操作すると、あっさり反応した。

 手島は「妙だな」と呟きつつ、新たに開いた履歴画面を確認する。


「クエストで1万pt、採取報酬で500ptか」


「ゲームみたいだね。これで買い物とかしちゃう? コーラでも買ったげようか? いつも奢ってもらっているお礼にさ」


 里桜は冗談で言ったが、手島は真剣な表情で首を振った。


「無駄遣いはしないでおこう。それに、買い物は後でする。とりあえずポイントが貯まることは分かった。素手で触って平気そうなことも。今は先へ進もう」


 周囲を確認しながら進んでいく手島達。

 見落としがないように必死だ。


 特に武藤の眼光が鋭い。

 まさに人間センサーである。


「いないな」と呟く手島。


「いないって?」


 里桜が首を傾げる。


「他の生徒さ。おそらくではあるが、学校の全生徒がこの島にいるはずだろ? なのに誰とも出会わない。ウチの生徒数は約500人なわけだから、誰かしらと出会ってもおかしくないのに」


「それだけ広い森ってことだね」


「それもそうだが……」


 手島が耳を澄ませる。


「声も聞こえてこない。本当に他の生徒もいるのか?」


「だったら試してみる?」


「試す? どうやって?」


 手島が尋ねると、里桜は口を限界まで開いた。


「おーーーーいっ! この声が聞こえたら返事してーっ!」


 突如として叫び出す里桜。


「馬鹿か」


 手島が呆れ笑いを浮かべる。


「なんでよー」


 里桜はぶーっと頬を膨らませた。


「そんなことをやって反応があるわけ」


「聞こえたっすよー!」


 あった。

 里桜の声に対する反応があったのだ。

 森の奥から男の声が返ってくる。


「どうやら私が正しかったようだけど?」


 里桜はニヤニヤしながら手島の顔を覗き込む。


「た、たまたまだ!」


 手島は恥ずかしさを紛らわそうと首を振る。

 それから真剣な表情で言った。


「叫ぶ馬鹿に対して応える馬鹿。本来ならそんな馬鹿は無視に限るが、わざわざこちらの呼びかけに応えてくれたのだ。会いに行くとしよう。――真、何かあった時は分かっているな? 遠慮せずに戦えよ。正当防衛で片付けられる」


「分かった」


「では行こうか」


 手島達は声のする方向へ歩き出した。

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