053 手島祐治 1日目①
番外編を投稿していきます。
ここから10話分(062)まで毎日更新で頑張ります。
それ以降は週1回更新を予定しております。
手島祐治は薄暗い体育倉庫にいた。
日光を反射する鮮やかな金色の髪も、ここでは黒髪に見える。
「本当に誰も来ないの? 大丈夫?」
彼の前に立っている紺色の髪をした女が言う。
手島の同級生であり恋人の桜井里桜だ。
里桜は手島に押し倒され、跳び箱の上で仰向けになっていた。
「平気平気。外には真がいるし」
「ならいいけど……。誰かに見られたら責任とってよ」
「見られなくても責任はとるさ」
手島が里桜の制服に手を伸ばす。
だが次の瞬間、2人のスマホが同時に鳴り始めた。
体育倉庫のすぐ外からも同様の音が鳴り響く。
意識がスマホに集中した瞬間、彼らは気を失った――。
◇
「祐治、起きろ。起きるんだ」
黒の短髪が似合う大柄の男――武藤真が手島の体を激しく揺さぶる。
それによって、手島は目を覚ました。
「真……」
最初に彼の視界に映ったのは武藤の姿。
「それに里桜……」
「起きないから死んだかと思ったじゃん!」
次に里桜。
「なにがどうなって……。いや、それよりここはどこだ?」
最後に周囲の景色。
生い茂る森だ。
どこを見渡しても木々が見える。
「分からぬ。気がついたらこの場にいた」
「お前らも気を失っていたのか?」
「うん。最初に真が起きて、次に私が起きたの。祐治が起きるより1時間くらい前の話だね。祐治だけいつまで経っても起きないから、真が心配して起こしたってわけ」
「なるほど」
手島は起き上がり、自分の状態を確認した。
自分が制服を着ていることに気づく。
所持品はスマホだけだった。
「なんだかラインが賑やかだな」
スマホを眺めながら呟く手島。
「他の人達も気がついたらこの島にいたみたいだよ」と里桜。
「此処は島なのか? どうして分かる?」
「海で目覚めたって人もいるみたいだから。ラインで『おそらく此処は島だろう』って誰かが言ってたし。だから島なんじゃない? 分からないけど」
「そうか。ま、なんでもいい。とりあえず帰ろう。こんな意味不明な場所にはいたくない。俺は森が嫌いなんだ」
手島が電話を掛ける。
相手は彼の家に雇われている執事だ。
「ん? おかしいな、繋がらないぞ」
手島のスマホに返ってきたのは機械音声だった。
普段なら呼び出し音を鳴らさない勢いで応答する執事が出ない。
「何度やっても駄目だな」
手島は悟った。
自分達がとんでもない異常事態に巻き込まれているのだ、と。
執事が電話に出ないなど、今までの人生で一度もなかったことだ。
手島にとって、それだけで異常事態と判断するには十分だった。
「電話、繋がらないでしょ? 同じ学校の人以外には誰に掛けても駄目みたい。私も試したけど駄目だったし、ラインでもそう言ってた」
「どうやらそのようだな」
手島はスマホを胸ポケットにしまう。
その顔付きは、先程に比べて真剣味が増していた。
既にどうしたものかと考え始めている。
そんな彼を見てクスリと笑う里桜。
「祐治って、本当に冷静だよね」
「そうか?」
「だって起きたばっかりなのにパニクってないじゃん。私なんてすごい取り乱しようだったよ。真だって最初はそうだったんじゃないの?」
「うむ」
「やっぱりね。祐治はなんでそんなに冷静でいられるの?」
「取り乱さないように教育されたからだろう」
「帝王学というやつだな」と武藤。
「そういうこった」
手島祐治は、時価総額10兆円を超える手島重工の社長の一人息子だ。
手島重工は同族経営の大企業として知られている。
手島は生まれながらにして手島重工の次期社長が確定していた。
よって、彼は物心がついた段階から帝王学を叩き込まれている。
「無闇に歩いてはスタミナを消耗するだけだ」
手島は冷静に分析する。
「まずは立ち止まって情報収集を行おう。この場において、情報源はクラスのラインしかない。だから、まずは溜まっている未読ログを読んでいく。時間をくれ」
「「分かった」」
里桜と武藤は手島に絶対の信頼を寄せている。
この男についていけば間違いないだろう、と。
だから2人は迷わずに従った。
誰が何を言うまでもなく、リーダーが手島で決定している。
「思った通りの阿鼻叫喚だな。やれやれ、この中から有益な情報を拾うのは骨が折れそうだ」
手島は近くにあった木にもたれながら、ラインのログを読み始めた。
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