表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/13

03 初日。




 ローズと警戒しながら標的を探し、話を聞いた。


「へぇ。新人冒険者と契約するためにここまで来たんだ?」

「そうなの! すぐに助けてくれたノークスが気に入ったなの!」

「あはは、ありがとう」


 生まれたばかりのローズは、とりあえず契約者を探しにここの森に来たそうだ。


「ローズは何から生まれた精霊なの?」

「聞いて驚くなの! 火と雷なの!」

「ほんと!?」

「そうなの!」


 ローズはえっへんと威張るように胸を張った。

 木に雷が落ちて、燃えたそこから生まれたのだという。


「じゃあ、火と雷の融合魔法が使えるってこと?」


 生まれたてとはいえ、かなり強い精霊かもしれない。


「そうなの! いかずちのように素早い火の魔法をあげるなの!」


 ローズが祈るように目を瞑り、手を合わせた。

 赤い光が強くなり、手を差し出した私に灯る。

 魔力が、感じられた。ピリッとするし、熱い。


「確か、精霊の魔法ってイメージするだけでいいんだよね?」

「そうなの!」


 普通の魔法は詠唱が必要だけれど、精霊の場合はなくてもいい。


「ネークボアを見付けたら早速試してみるよ!」

「そうするなの!」


 そんな会話をして、数時間が経った。

 兎型や猪型の魔獣が交互に現れたけれど、ネークボアは中々見付けられない。ローズは飽きてしまったのか「早く試そうなの」と急かした。


「ローズも果物は食べるでしょ? ほら」


 林檎の木を見付けたから、取ってやる。ちゃんと拭いたナイフで半分に切った。それを差し出すとローズは、ぱぁっと目を輝かせて受け取る。

 私が先にかじりついて、味を確認した。


「甘いよ」

「うん! 甘いなの!」


 すぐにカプッと、ローズも林檎にかじりつく。


「初めてなの!」


 初めての林檎は、お気に召したようだ。フルフルと、一輪の薔薇のような頭を揺らした。


「そうか、生まれたばかりだもんね。じゃあ苺も見付けてあげるよ。美味しいよ?」


 指先でローズの頬をつつけば、ぷにっと鳴った。

 ぷにぷにだ。マシュマロみたい。


「ノークス、好きーなの」


 すりすりとローズから指に頬擦りをしてくれる。

 可愛いなぁ。和む。

 次は苺と標的を探しつつ、進んだ。

 遠くで爆発音が聞こえる。他の新人冒険者も頑張っているようだ。


「やっと見付けた。ネークボア」

「……」


 長い胴体と猪の顔の魔獣を見付けた。茂みから伺う。

 ローズがやけに静かなので見てみれば、苺の方じゃなくて残念そうな表情をしている。あとで見付けてあげよう。

 茂みから、手を翳して狙いを定めた。

 いかずちのように素早い火の魔法を発動した。

 ヒューと打ち上げられた花火のように、真っ直ぐにネークボアへ向かう。そしてドォンと爆ぜた。

 私が持っている火の玉を飛ばす魔法より、早くて派手で強力だ。


「あっちから来たなの!」


 音で兎型の魔獣が右方向の茂みから飛び出してきた。

 慌てることなく、ナイフを突き刺して仕留める。


「後ろからもなの!」


 次に飛び込んできた魔獣を、サッと避けた。

 方向転換して再び向かってきたところを心臓部を狙い突き刺す。

 もういないようだ。


「素早くて強力な魔法だけど、派手すぎて周りの魔獣を集めちゃうな……気をつけよう」


 そう独り言を零しつつ、足元の魔石を拾う。

 小石サイズが二つ、石サイズが一つ。ポーチに収納。


「苺、探しながら、頑張ろうっか!」

「そうなの!」


 すっかり苺に興味が持っていかれているローズのために、笑いかけた。

 林檎でランチをすませて、デザートの苺を探す。

 一時間後くらいに、やっと苺を見付けた。真っ赤な熟れた苺。

 また食べやすいように半分に切ったものを持たせれば、カプッとローズは食べた。


「美味しいなのー!」


 苺の味もお気に召したようだ。

 嬉しそうで何より。もう半分も渡してあげた。

 ローズと一緒にまた少しそのエリアで討伐をする。


「よし、そろそろ帰ろうっか。オレが属してる冒険者団体『ドムステイワズ』に紹介するよ。その前に、ギルド会館だ。行ったことある?」

「ないなの!」

「案内するよ、おいで」

「うん!」


 ぴったりと寄り添ってきたローズを連れて、街に戻った。


「ここがアルジス街だよ。いい街でしょ?」


 私が生まれ育った街。

 薄ベージュ色の壁と薄茶の煉瓦の屋根。建物がひしめくように並んでいる。中には白い塗装の壁もあるけれど、全体的に落ち着いている感じ。素朴な街並みを、私は気に入っている。

 そして、色とりどりの髪の住人が、行き交う。

 ローズには街自体が目新しいのだろう。ルビーのような目を輝かせて見ていた。


「そんで、あれがギルド南東支部だよ」


 ちょっと街から浮いている感じなのは、しょうがない。

 アーチ型が並ぶ二階建ての巨大な建物は、オレンジっぽい色。

 中に入れば、冒険者でいっぱいになっていた。


「あの掲示板から依頼を受けたりするんだよ。ネークボアは、ブロンズランクの依頼。このタグに入ってる。提出すれば報酬がもらえるんだよ」

「ほうほう!」


 私がブロンズのタグを見せる。ローズはコクコクと頷く。

 他の冒険者のように、私はローズを連れて列に並んだ。

 依頼完了を報告をする窓口は三つあって、一番空いている奥から三番目の列の後ろにつく。

 ローズが気にするから、シルバーランクの掲示板から依頼をタグで受け取る様子を一緒に見た。

 順番が来たところで、タグを提示。

 光ったブロンズのタグから、読み取った。対応をしてくれたのは、どうやら精霊のようだ。つり目で左に片眼鏡をかけた水色の肌。同じく水色の髪が頭の上ににあって、波打つように左に向いている。黒の燕尾服を着たその水色の精霊は、ローズより一回りも大きい。テディベアサイズ。ちょこんと窓口に座った姿は、二頭身だってこともあって可愛かった。

 置いてある名札には、ルーヴァと書いてある。


「ネークボアの討伐依頼完了、報告ですね。魔石を見せてください」

「はい」


 接客スマイルはなし。クールな精霊のようだ。

 ローズの存在も気に留めていない。慣れっこのようだ。

 私はポーチの中から、石サイズの魔石を取り出して渡した。


「ネークボアに間違いありませんね。依頼料は、銀貨五枚です。他に換金する魔石があるなら、換金します」

「あ、お願いします」


 ポーチを腰から外して、ジャランと中身をトレイの上に出す。

 素早く視線を走らせるとルーヴァは言う。


「金貨一枚と銀貨三枚です」

「それでお願いします」


 それが妥当だと思い、私は頷いた。


「計算が早いですね。一目で判断したなんてすごい」

「経験と慣れです。私は規則正しく雫が落ちる水の精霊ですので、きっちりしないと気が済みません」

「なるほど。安心して任せられますねー」

「……嫌がる人もいますがね」


 ボソッと呟いたルーヴァ。首を傾げたけれど、お金を差し出されたから、受け取るとルーヴァは「次」と後ろの人を呼んだ。

 私が退けば、ついてきたローズが「愛想がないなの!」と言う。

「クールで、いい精霊だと思うけど?」と私はそれだけを返した。

 接客業なので、愛想は必要だとは思うけれどね。

 金貨が一枚、銀貨が八枚。

 地球に例えると金貨が一万円、銀貨が千円、銅貨が百円ってところだ。

 一日の稼ぎとしては上々である。


「さぁ、次は『ドムステイワズ』の家だよ」

「ノークスの家族に会えるなの?」

「あー……両親は三年前に他界したんだ」

「……そうなの?」


 寂しそうな顔をするローズに、私はニッと笑ってみせる。


「うん。だから『ドムステイワズ』がオレの家族! ローズもその一員だぜ?」

「……ノークスの家族! ローズも家族なの!」


 ぱぁっと明るい顔に戻っては綻ばせるローズ。

 私の頬に寄り添ってくれたから、頬擦りをしてやった。

 街に溶け込むような、いたって普通の大きな建物だ。


「ただいま!! 聞いてよ、みんな!! オレ、精霊と契約したんだ! 名前はローズ!」


 扉を押し開けたところで、今いるメンバーに報告をした。

 私よりも先に帰ってきたり、休日にだらけているメンバーが、テーブルについていたけれど、ギョッとした顔をする。精霊と契約している『ドムステイワズ』のメンバーはいないので、私がこの中で初契約の冒険者だ。

 でもローズは、どうやら恥ずかしがっているようで、私の髪に隠れてしまう。意外と人見知りをするのかな。


「オレの新しい家族だよ! よろしく!」


 ローズを両手で包み、差し出した。

 のちに帰ってきたリーダー達にもみくちゃにされて、褒められる。ローズも手厚く歓迎されて、やっと元気に「よろしくなのー!!」と声を上げた。

 それが、私の冒険者としての初日だ。



 


20190830

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ