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ピクサー・グラント 4

謎の外国人2人組の宗教勧誘、窓から襲い掛かる怪鳥、そして不可思議な偶然が重なり合って圭祐の平穏だった日常に波紋を広げていく。

 どうやら俺がこの体に飛び込んで来て以来、この体の操作、五感の扱いは俺の意識が全てを操作している形になっている。他人と向かい合って声を出して初めてそれを実感した。

 圭祐はただ俺の意識の後ろに遠慮して下がっているようなのだ。

「そんなぁ、つれない事言わないで下さい。今、元気よくドアを開けて下さいましたよね?

お兄さん。それは私達を歓迎してくれている挨拶ですよね」

 ドアなんて開けてない。鍵が掛かってなかったことが偶然なのだ。俺は、その2人組の会話には一切取り合わずに、手を延ばして素早くドアを閉めた。そしてドアのノブを内側から強く引っ張った。

「どうしました? 同志よ、このドアを開けて下さい。神の教えを私達と一緒に学びましょう」

「開ケテェ―――――――!!」

 2人組はそれぞれドア越しに俺に喋りかけてきた。俺はガン無視した。当たり前だ。2人組は俺が一切答えなかったので、ドアを激しくノックし始めた。これはうるさい。近所迷惑でもある。

それでも俺はじっと我慢した。ヤツらにはそれ以上何も喋らないで、ドアノブを引っ張り続けた。その時俺は心の中で圭祐に言った。

(ドアのノブがいきなり壊れたんだ。それで外側に自然に鍵が開いてドアが開いてしまっただけだ。偶然の成り行きに過ぎない)

『たまたまぁ?、そのタイミングで変な宗教の勧誘がドアフォンを押したってこと?』

圭祐は俺に不思議そうに問いかけて来た。日常にレアな偶然が重なると言うのはそれだけでおかしいと思ったのだろう。

(そうみたい……)

『そんなことってあるのかなぁ?』

(普通には考えられない、6階までめったに上がって来ない宗教の勧誘、ドアキィの故障? 破損?、それによるドアの自然開閉……重なり合う不幸な偶然なんてめったに起るもんじゃない……)

 圭祐は冷静に偶然の数を数えて見せた。

『そう言えば何処かの国の濃霧の中の交通事故、100件玉つき事故とかあったよね。不幸な偶然って、ああ言うのでしょう?』

(そうだ……)

 俺はリガルディの残留魔法【KS】を思い出した。

『でも、今なんでそれが起こったの?』

(説明は後でするから、とりあえず圭祐近くに針金とかロープとか無いかい、このドアを修理が来るまで固定して縛りつけたい)

俺はそう圭祐に話しながら、必死で内側からドアノブを引っ張り続けていた。圭祐の記憶から玄関にそう遠くない引き出しの中に細いロープが締まってある事を思いだしてもらい、2人組のノック攻撃が収まったところで、すぐに俺はその引き出しに走りこんで、ロープを取り出してドアノブとキッチンの取っ手を結び付け、きつく縛りあげた。


これで、ホッと一息付けると思ったのも束の間、部屋の中にどこからか雀が1匹、迷い込んで来た。その雀は翼を少し怪我している様だ。俺の足元に力尽きたように落ちて来た。

 雀の登場が宗教の勧誘と無関係なのは自明だ。

『こんなの、どっから入って来たの?ここはマンションの6階だよ?』

 と、圭祐はとても不思議がっている。俺の心に、もしやこれもという思いが掠める。

(この雀、怪我をしているよ……もしかして……)

 俺は先ほどまで居た圭祐のベットルームにすぐに走りこんで見た。

(やっぱりだよ、窓が少し開いている。隙間があったんだ)

 俺が先ほど飛び降りようと身を乗り出した窓が、完全に締まっていなかった様なのだ。

『そんなバカな。隙間なんてなかった……と思うけど』

 と圭祐が、しきりに疑問を口にした。

(いや、ほんの少し開いていたんだろう。偶然とは恐ろしい。その隙間目掛けて傷ついた雀は飛び込んで来たんだろう)

『何で?』

 雀と窓の隙間を交互に眼で追いながら、そう圭祐が疑問を投げかけた瞬間、既に何か黒い物体が窓の隙間目掛けて突っ込んで来た。 


「ぎぃえええええぇーーー」


 そいつは羽ばたきながら窓の隙間にくちばしを突っ込んで、大きな声で叫び声をあげてこじ開けようとした。

『な、な、なんなんだぁーーー!! カラスかぁ?』

(鳶だ、こいつは今の傷ついた雀を追って来たんだ)

 俺はさすがに驚いた。黒い物体は魔道士の放った何かの使い魔の強襲かと思ったくらいだ。それほどこの世界の鳶と言う野鳥の叫びは凶暴に聞こえた。

『鳶なんて、僕はこの近辺じゃぁ今まで一度も見た事も無い。本当に生息してるのかぁ?

それが、傷ついた雀を追いまわして、6階まで飛んで来てこの窓の隙間に飛び込んで来て叫び声を挙げてるって? そんな偶然、おかしいよ。有り得ないだろう!!』

 圭祐の感じている不条理はピークに達した様だ。

(しっかし実際にそうなんだから、眼の前で鳶が狭い隙間から口を開けてるよ。雀を出せって)

『この箒で押し出して、すぐ窓を閉めよう』

俺は圭祐の言う通りに部屋の隅に設置されてた箒を急いで手に取り、すぐにそれを鳶のくち


 ばしのあたりに持って行って、上下に払って鳶のくちばしを窓の外に押し出した。鳶は押し出されると一瞬バランスを失ったかの様に失速して窓から落下して視界から消えたが、すぐにも態勢を整えて滑空し、ゆっくりと大空に羽ばたいて上空に向って飛び去って行った。

『一体何が起こったんだ』

通常では起りえない偶然が立て続いた事で圭祐は、事態に完全に面食らっていた。

(聞いてくれ圭祐。これは、前の世界から俺が飛ばされる直残に魔導士にに掛けられた厄介な呪文のせいかもしれない……)


 俺がそう言うと圭祐が驚いて問い返した。

『本当かグラン? それってどんな呪文なんだい?』

(俺自身に直接攻撃を仕掛けられなかった敵の魔法使いは、俺の周囲の空間に起る事象を俺に対して不幸な方向に展開するように、偶然を左右する呪文を掛けたんだ。「カーマナイト・スピリッツ【KS】と言う……)

『それで、グランが来てから急にこの部屋でおかしな偶然が起こり始めたのかぁ』

(済まない、圭祐。これは俺が持ちこんだ厄災だ)

『良いんだよ、グラン。魔法使いが直接キミに攻撃出来なかったってことは、それだけグランが強かったんだろう。それでそうなった……魔法のお釣りみたいなもんなんだろう』

(そうとも言えるけど……こっちの世界にまでヤツの呪文の効果が持続するとなると、かなり厄介だよ)

『仕方ないよ。今後はとりあえず十分に注意して行動していこうよ。偶然が重なる程度、直接攻撃されるよりはるかにマシだろう』

(それしか、ないようだな今のところは。何も出来ることは無いみたいだし……)

圭祐と俺が心の中で、そんな会話を交わしていたそのすこしの間に、また玄関に誰かが来ていた。

       ピンポーーーン。

『さっきの変な外国人じゃないの?』

(どうかな……?)

「村雨さん、何が起こったの。一体全体?」

「すいません。変な勧誘が来て、そいつがしつこくて」

 今度ドアベルを鳴らしているのはこのマンションの隣に住んでいるおばさんだった。今まで圭祐は一度として この隣人と話した事が無い。以前何かの折に、彼のお母親は世間話程度は交わしていたと記憶している。

「誰かが貴方のお部屋のドアのベル何回も何回もしつこく鳴らしてるし、ドアを激しくノックしてるからぁうちの赤ちゃんが起きちゃったわよ。どうしてくれるの!! 折角今さっき寝付いたのに……。あの方達は貴方のお知り合いの方ですか?」


「違います!! 僕とは全く縁も所縁もありません」

「本当に……??」

「はい、天地神明に掛けて、誓います。本当です」

「じゃぁドアを開けて私に顔を見せてはっきりそう言って頂戴」

 またこのおばさんは、余計な事を言い始めた。しかし逆らうと更に厄介な議論を吹っ掛けられそうなので俺は言われた通り仕方なくドアを開けようとした。

「分かりました……」

 そう俺は答えた後。はっとした。

(しまった、ドアとキッチンの引き出しの取手はさっききつく固定して縛りあげたばかりだ)

(もう、解くしかないよ……)

と諦めた様に圭祐が言った。

「なに、もたもたやってるの村雨さん。ドアを開けて頂戴!! 私に顔見せるの嫌なの?」

「今、今……」

「そう言えば村雨さん、学校どうしたの、なんで貴方は平日のこんな時間に家にいるの? 風邪でもひいちゃったの?」

「あっハイちょっと風邪をこじらしちゃって……。おばさんに風邪移すと悪いかなっと……」

「そうねぇそれなら顔は見せなくて良いから。早くお休みなさい。静かにね」

そういって隣のおばさんは、やっとドアの前から引き揚げてくれた。

『助かったぁ』

(なんとか……帰ってもらえたよ)

 その時頼んでいた宅配サービスがやって来たのだ。

 ピンポーーーン

「お届けに上がりましたぁ」

 俺は結局、ドアとキッチンの取手をきつく結んでいたロープを解く羽目になった。

「はい、ミックスピザとシフォンケーキ2人前ですよね」

そう言って、宅配の店員が出したピザは、お子様チーズピザで、ケーキはモンブランとショートケーキだった。

オーダーはことごとく違っていた。俺は一瞬固まったが、もう一度注文をし直すと更にややっこしい事態になりそうな気がしてそのままピザとケーキを受け取った。

(もう食べられれば、これで良いって事にしとこう。圭祐。お子様ピザのタコウインナー結構可愛いし……)

俺はそう言った。それに対して圭祐は……。

『僕はOKだよ、それにしてもその魔法って結構厄介なモンかも知れないなぁ』

(俺も改めてそう思うよ)


『ドアはもう一回紐で縛ろう。そしてさっき飛び込んで来た雀の手当てをしよう』

(うん、わかった)

 俺は床の上に寝ている雀を手に取り、テーブルの上のダンボールの小箱の中にティシュを数枚敷いてそっと寝かせてやった。テッシュを敷いたのは何となくだ。良く見ると雀の羽の怪我はそんなに酷くはないようだ。羽の先が少しやられてしまっている様だが、傷らしい箇所は無い。俺は雀に話しかけた。

「おいオマエ、ビックリしたぞ。安心しろよ 少し休んだら飛べる様になるかもしれないなぁ」

『それは、不幸中の幸いだ』

圭祐は俺が手慣れた感じで雀に話しかけながら、羽のダメージの様子を見ているのを、驚いていた。

『グラン、君は動物の気持が分かるのか?』

(分かるって程じゃないけど、多少は……小さい頃鳥も犬も飼っていた。みんな友達として一緒に育ってきたんだ……)

 ……あの魔道士の軍団に、俺の育った村が何もかもめちゃめちゃにされるまでは……俺はその事は今は考えない様にした。

 雀の方を見て圭祐が言った。

『雀もなにかキミに伝えたいみたいだけど』

 ダンボールの箱の中で首を擡げて俺の方を見ている。そして、どうだ出来るぞと言わんばかりに小さな羽をいっぱいに広げて見せてくれた。

(たぶん、空に帰りたいって言ってるんだろう。自分の羽で空を飛ぶのって最高だろうから……まだ僕は飛べるんだって)

 雀の様子を見てほっとしたのか、圭祐が俺に改まって聞いて来た。

『グラン、宗教の勧誘の外人2人組を帰して、雀を助け、鳶を追いだし、隣のおばさんには帰っていただき、注文と全く違う宅配を受け取ると言う、立て続けの騒ぎを僕達は何とか収めたのだよね』

(そうだ)

『ただ、部屋にいるだけでもこんなに立て続けて騒ぎが勃発して来たのだ。これで、僕達がもし外出でもしたら……、外にはいろいろな災難の起る可能性はこの部屋の中とはケタ違いに増えて行くと思わないかい?

 果たして外出したら、僕達はその事態に適切に対応出来るのだろうか? こんな事が起こり続けたら僕達だけでは無くて、その時に周囲にいる人達にも迷惑を掛けちゃうかも知れない?』

(確かにな……)


『これでは僕はとても気楽に外出とかする気にならないよ』

 そう圭祐はため息混じりに俺にそう告げた。


じつは、この章は一回入れて、プレビューしたら消えてました。打ち直しです。さっき何打ったのか覚えていません。ごめんなさい。本文は同じですけど…。

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