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ピクサー・グラント 3

甘酸っぱい、照れくさい圭祐の少し前の中学校の女子との記憶です。この頃って、公園行くにも、買い物行くにもあれこれ意識したもんだなぁと。

ピクサー・グラント 3


 俺は夢を見た。

圭祐は住んでいるマンションからそう遠くない石神井公園駅の改札に立っていた。


「待ったぁー?ごめ――――ん!!」

 女の子が手を振りながら、俺の立っている方に向って走ってくる。

可愛い子だ。

 待てよ、俺はこの世界に来てまだ2日と起っていない。こんな具体的な状況を夢に見られるはずはない。と言う事はこれは圭祐の夢なんだな。俺もそれを一緒に見てるって事なのか。

 夢の中の圭祐はどうやら彼女を知っている様だ。笑顔で彼女に小さく手を振り返している。

 彼女の名前は若槻揚羽。圭祐と一緒に中学から承徳高校を受験し、一緒に合格した同級生の子だ。

明日を入学式に控えて、同じ高校に合格した2人は入学記念に今日は一緒に映画に行こうって約束を交わしていた。駅前広場に午後2時の待ち合わせが、時間は既に2時10分を過ぎようとしていた。

「待ったぁ――――待ったよねぇ? はぁはぁはぁ」

「まっ……待ってない、僕も今 来たとこ……」

 圭祐は、走り込んで来た息が上がっている揚羽と言う女の子に、慌てた様に手を左右に振って答えた。

「うっそうー」

 揚羽は目を見開いてそう言った後、下を向いてもじもじしてチラッと圭祐の方を上目使いで見詰めた。

「圭祐のそういうとこ好きだなぁー」

 揚羽は顔を上げて、ニコッと笑った。圭祐は緊張しているのか、揚羽から言われた事が何の事なのか良く分からなかった。焦った感じに圭祐は

「何だい急に、突然、ビックリするだろぅ」

 と揚羽に言葉を返した。

「うふふふふっ。ごめ――――ん、だって圭祐ったらいっつも約束の時間には10分前には来てるじゃない。学校の朝礼集合時間でも、社会見学の時でもさ。遅刻するのって何時もアタシの方だし……」

「そんな事ないよ、僕だって」

 遅れる事だってある……と言おうとして圭祐は、それは揚羽に対してちょっと厭味に聞こえると思ったのか、慌てて言葉を飲み込んでしまった。

「あたしはさぁ―――――体育の着替えだって遅いしさぁ。朝だって寝坊したりもたもたしたりで学校に遅刻しちゃうのしょっちゅうだし。お弁当忘れたり、宿題忘れたり……あっあっあっあっ――――もうやんなっちゃうくらいなんだからぁ。本来トロイんだよね、アタシって」

 そう言って揚羽は自分の頭をコツンと軽くコズいて、舌を出して見せた。

 俺はその仕草がとっても可愛いく見えた。

「忘れ物は、この際関係ないんじゃない?」

 はにかみ笑いを浮かべて、圭祐はそう言った。たぶん揚羽にあれこれ気にしない方が良いと言いたいんだろう。圭祐は以前から結構はにかみ屋だったんだなと夢を見ている俺は思った。

 それにどうやら圭祐は揚羽の事を結構気に入ってるらしい事は、俺にも彼の仕草から伝わってきた。

「それも、それも、なんだってばぁ!!」

 圭祐の言葉に揚羽は自分の腰に手を当てて、右手の人差し指を立てて、激しく上下に振る仕草をした。今言った自分の反省点をここで強調したい様だ。

「気にしない方が良いよ揚羽。これから高校生活が始まるんだから。今までの習慣はここでお終い。これからは時間に厳しく決して時間に遅れない、物忘れしない揚羽の人生が始まるんだって」

 圭祐は大袈裟な言い回しをして、揚羽の欠点を庇ってやろうとしてるんだろう。

「ちょっとちょっと圭祐、あたしをお婆ちゃんにしないでよ」

「えっ?」

「物忘れ、じゃなくって忘れ物でしょ」

「あっ僕そういいましたかぁーごめん、ごめん」

「圭祐も適当なトコあるんだぁ」

「あるある、僕はほんと体全部、適当で出来てるみたいなもんで」

「またまたぁそう言ってアタシの精神的負担を減らしてくれようと優しいのう、お主はぁ」

「そんなんじゃないって」

「今アタシ難しいこと言っちゃった。あははっ行こう行こう、明日からの入学祝いに一緒に映画見に行くんでしょ。ここで無駄話してたら映画始まっちゃうよぅ」

「あっいっけねぇ――――」

 2人はそう言うと、駅前の広場から映画館のある方向の繁華街の雑踏の中に小走り飛び込んで行った。

人ごみに入った辺りで、前を走っていた圭祐が揚羽に向って後ろに右手を延ばした。人ごみの中を急ぐから、はぐれないように手を繋ごうと言う態度なんだろう。しかし、口に出して手を繋ごうと誘う事が出来ないシャイな圭祐の態度は、ちょっと彼女には分かりにくい感じだ。

 右手を宙に伸ばした圭祐は、揚羽の手を掴む事が出来ないようで、気まずく手を広げたまま歩いている。

 差し出された圭祐の手に気付いたのか、揚羽は圭祐の手と彼の後頭部を交互に見て、「くすっ」と微笑んだ。

 揚羽はもう少し、圭祐の手を空しく宙を泳がせとこうかと思ったが、それも可愛そうと思い直したようだ。

 後ろに差しだされた圭祐の右手を揚羽は自分の左手でしっかりと掴まえた。

 揚羽の手が触れた時、圭祐の背中がびくんっとなったのがわかった。圭祐も軽く揚羽の手を握り返して、2人は人ごみの中を映画館のある栄町商店街の方に足早に向って行った。


 夢はそこで終わってしまった。圭祐と揚羽はこの後どうなったんだろうか?

 映画館でキスくらいはしたのか? 圭祐に限ってそんなことはないだろう。

同じ承高校に入学したのなら、学校でも2人の関係は進行したんだろうか?

 俺は気になったが、夢なんでそれを見ている事を圭祐自身さえ覚えているのだろうか? 俺がその夢を一緒に感じていることは分かることだろうが。

 そんな事を考えているうちに、俺も眠りに着いた。


 翌日、俺は目覚めると昨日の夢を覚えているかと圭祐に聞いて見た。俺は覚えていた。彼の回答は予想通り、何も覚えていないと言うことだ。ちょっとがっかりした。

 俺は圭祐にやり方を教えてもらって近所の宅配サービスのスーパーに初めて電話を掛けた。電話口に出た店員が言うには、15分程度でピザとケーキを届けてくれると言う。

 俺の歓迎会を俺一人でやると言うのも奇妙な話だが、圭祐が俺との出会いを祝いたいと言う気持ちを持ってくれた事がとっても嬉しかった。その気持ちを大切にしたいと思ったのだ。

『あそこのシフォンケーキは生クリームが絶品なんだよ。是非グランにも食べてもらいたいよ』

 圭祐がそう言った。

(俺が食べるって事は、圭祐の口で圭祐の体が食べるって事だぜ)

『それは、そうなんだけどね……まあまあいいじゃないか』

(そうだな、はっはっはっ)

 俺が心中笑うと圭祐も釣られて一緒になって笑い始めた。彼と一緒にいると落ち着く。これから起るいろんな事が、2人でいれば何とかなるって気になってくる。

『あはっはっはっはっはっ』

 その時まで俺はすっかり忘れていた。

「セレンティウス・グランド」で魔道士ウルフガング・リガルディが俺を飛ばし際に言った呪いの言葉を……。

『可愛そうな満身創痍の勇者殿に私からのささやかなお土産をあげよう。「カーマナイト・スピリッツ【KS】と私が呼んでいる魔法の術式を進呈しよう』

 ヤツはそんなふざけた事を言っていた。それが何を意味しているのか、今まで深く考えた事が無かった。

『そろそろ、宅配が来るころじゃないかな?』

圭祐がそう言って、チラッと壁に掛けてある時計を見る様に促した。

その時、ピンポーーーンと言うドアの呼び鈴が押されて、ほとんど同時に突然ドアが廊下に向って開いたのだ。ドアの鍵が掛ってないどころか、不思議と自然に開いてしまったのだ。

「おや、御主人様、いらっしゃいましたか?

私この地域を回っておりますインコ心理教の勧誘員です。ドアベルを押すと同時に、我々の呼び出しに応じてくれるとは、なんて積極的な若者なんでしょうか、貴方は」

「……」

 俺はその問い掛けに答えなかった。

圭祐のマンションのドアの前には、身長が190を超える程のデカイ髭を蓄えたアラブ系の黒服を着た30歳前後の男性が2人立ってこちらに微笑みかけていた。どう見てもメチャ怪しい宗教勧誘の2人組だ。

『誰だ、こいつは?』

圭祐にとっても、無論俺にとっても見た事も聞いた事も無い招かれざる客だ。

(圭祐、ドアの鍵を閉め忘れたのか?)

俺は彼にそう聞いた。

『そんな事は無い。必ず閉めている。習慣だ』

圭祐は明かに混乱していた。

(それじゃぁ何で?)

「ナニヲ驚イタ顔ヲシテイマスカァ? 入ッテオ話ヲサセテモラッテ宜シイデスカ? オ兄サンノオ名前ハァ?」

 2人組の一人は片言の日本語で話した。

「いや……、あの困ります、帰って下さい。興味が全くありませんから!!」

俺は圭祐の体でそう答えた。


「KS」という魔法の名称、なんかまだぴんと来ていません。何度も呼び変えてみたけど、今一つな感じです。もっとそれらしくてかっこいい、すべての森羅万象の分子運動まで支配する超絶的、偶発的魔法の呼称を付けたいです。希望。

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