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ピクサーグラント 2

「小説家になろう」サイトに投稿する第一作です。

そこで、サイトの機能は活用して、ひとつづつ覚えていこうと思います。前書きもその一つ。章ごとの前書きに何を書いたらいいのか適切な言葉が浮かばないのですが、思いつくまま書いてみることにします。

第二章 ピクサーグラント 2


 彼の話から俺が考えた推論はこうだ。

 俺の体は無の空間、亜空間の何処かにあるのだろう。その時さえ静止した無の空間の中で、体の中の『意識体』は何とかならないかと出口を探してもがいていた。


 そんな時この世界の圭祐の意識は、彼が生活している地球の社会の中で精神的に追い詰められていた。自分一人ではどうしようもない大きな精神的問題の壁にぶつかりもがき苦しんでいた。その壁を乗り超えて行く為には、圭祐にはそれまでにない強い勇気と力を欲した様だ。

 圭祐は自分の部屋に閉じこもって自分にない勇気が欲しいと心の中で叫び続けた。精神体に次元の壁は無いのだろう。その叫びが次元を超えて俺の意識に通じた。俺の意識は時空の壁を越え、この世界に引き寄せられ、彼の体に入り込んだということなんだろう。

 俺は改めて圭祐の体型を窓ガラスに写して見た。彼はこの世界の教育施設では高校2年生と言う成長過程の就学児童だ。俺が前の肉体に意識があった時の年齢は21歳だった。それで彼は弟の様な年齢に思えた。

 この世界にも俺達の世界と同様に人類が住んでいて、一定レベルの文明社会を形成している。彼から聞いている範囲では魔族の様な種族は伝説の中にしかいないようだ。今まで俺が圭祐の知識から吸収した範囲では、魔族以外のエルフ、ドワーフ、フェアリーの様な他種族の2足歩行の知的生命体は存在しない世界のようだ。

 もっとも存在はしていても、人属が認知していないだけかも知れない。圭祐の知識からはそう言った存在の片鱗は見当たらない。もし存在しているならUMA(未確認生命体)と呼ばれているモノの中にあるだろうと彼は教えてくれた。

 俺の身長がこの世界の尺度で2メートル10だったのに、地球の日本という島国に住む民族の平均身長は男女合わせて1メートル65程度だ。そこで高校2年生の男子の身長から考えても、圭祐の身長160センチは小さい方だ。

 彼は俺達の世界の種族の体型と比較すると、年齢もまだ成人していない幼少期の体型に見える。「セレンティウス・グランド」では8歳で成人の儀式を行っている8歳でも体格はしっかりしているからだ。

圭祐の記憶から彼が17歳の男子のほぼ平均的な肉体である事は知らされてはいたが……この体格は頼りない。平均的と言う実感はなかなか湧きづらい。身長はともかく圭祐の身体つきは以前の俺の肉体、鍛えて絞り込んだ筋肉質のそれとはまるで別人のぜい弱で頼りないものだった。

 それだから彼は精神、肉体共に強い存在になりたいと望んだのだろう。俺は精神だけしか此処には来ることが出来なかったのだが、このままの圭祐の肉体で彼の不足している部分を補い切ることが出来るのだろうか?

 彼が突き当たっていると言う問題の壁を突破する力は俺にあるのだろうか?

 この肉体で自然界に自生している樹の幹など固いモノを手で突くと、すぐにも手の皮が裂けて骨が折れてしまうそうだ。

 オマケに力を込めて樹を殴ったりしたら、肩まで脱臼するかもしれない。俺の感じている不安感に圭祐はその通りだと答えた。その代わり俺にとってはこの体で多少救われた点はある。全身の骨折、打撲、大小の傷は全て消えている事だった。どこかの無の空間に置き去りにされている俺の肉体の事は気になるが、今はどうすることも出来ない。俺は勇者であって、魔導士ではないからだ。

 その空間に「時」がなければ、俺の肉体はずっとそのままの姿で置き去りにされているのだろう。。

どんな形であれ、ピクサー・グラントとしての記憶が霧散せず、体に入って動ける状態に移行できた事を、ここで改めて神と、俺をこの体に導いてくれた圭祐に感謝したい。

そうなんだ。こうして「セレンティウス・グランド」から何処かの遠い異世界に飛ばされて、別の肉体に精神が宿ったとしても、俺は意識がある限り、確実に生きている。生きてさえいればまだ俺は望みを捨てることなどない。

 必ずや何時か、何かの方法で、俺自身の肉体を亜空間で探しだし取り戻し、「セレンティウス・グランド」に帰還する方法を見つけ出せる時も来るだろう。その暁には、あの憎っくき魔導士『ウルフガング・リガルディ』に再戦を挑み、必ずや叩きのめしてやる。俺の本来住んでいた世界から魔族を一掃して見せる。

 俺は改めてそう誓った。今の厳しい状態からは、すぐには可能とは到底思えないのだが。そう望む信念だけは決して忘れてはいけないと心に堅く誓った。

 圭祐は俺の登場に何か望んでいる事が在るようなのだが、俺は俺であって圭祐ではない。他人の力を当てにしても所詮心を強くすることは出来ない。俺は圭祐にそう伝えた。

『わかってる、わかってるからグランが僕の体にいる間は、好きに体を使って!!』

(おい、このまま俺が元の体に戻れなかったら一生このままだぞ。それでもいいのか?)

『……それでも良い。僕が一人で解決できなかった現状を変えてくれるなら』

(圭祐の抱えてる問題って?)

『グランにはなんでもない事かも知れないけど、僕は学校に行けなくって。引きこもりってヤツ』

(何が圭祐の問題か分からん。困っているのは良く伝わってくるが……)

『それで、わかってよ』

(現状を突破する方法は俺が考える。最も勇者流になるが)

『頼むよ。その勇者流がやってほしい事なんだ。グランが考えるほど人間の肉体が強くないので、手加減してね』

(わかった。考えておく)

『よろしくお願いします』

 俺は自分の意識をこの体に引っ張り込んで貰った恩を彼に強く感じていた。その恩に俺から出来る事なら何とか報いたいと思った。圭祐は続けた。

『僕の気持を読んで貰うと分かると思うけど、今の自分でどうしたらいいのか分からないんだよ!!』

(そうか……それでも……、どう言えばいいのか……、俺も一緒に解決策を考えさせてくれ。一人より2人の方が何か気が付く事もあるかも知れないしさ)

『ありがとう、ありがとうグラン、僕もきっとこれで何かが変わって来ると思うよ』

(そこでなんだけど……恐縮なんだが、圭祐の障害を突破した後で構わないんだが……俺はこの肉体の動ける状態でなんとか俺自身の世界へ帰還する方法を探し出し、何処かの空間に置き去りにして来元の肉体の所在を突き止めそれを取り戻したいと思う)

と改めて圭祐に伝えた。

 俺と圭祐は一つの体を共有している。2人の間には隠し事なんて何もない。

俺は元々隠し事が出来る性分でないし、この体に間借りしている以上は2人は完全に一蓮托生になっている。

【セレンティウス・グランド】から飛ばされた時、俺の体は結界結晶の中にあった。結界結晶とは魔法力で、時さえも切り離してしまう特殊空間なのだ。俺の肉体を保護しているその空間を何処かの亜空間で見つける事さえ出来れば、俺は元の俺の体に還る事も夢ではなくなるはずなのだが……。

『グラン、僕に出来る事なら何でも協力させてくれ』

 彼はそう答えてくれた。

 俺は再度圭祐に考えを整理してもらい、さっきと同じ質問をしてみた。

(圭祐、学校にはどうしたら行ける?)

 彼は考えながらゆっくりと答えた。

『僕は自分が弱いから、意気地がなかったからずっと学校で苛められていたんだ。辛かった……毎日』

それで……? 俺は圭祐に聞いた。

『だから、もしも僕の心と体がもっともっと強かったらもう、誰からも苛められる事は無くなると思ったから……』

 この勇者のグラン様が、圭祐の通学している学校とやらに行って、その苛めっ子をやっつけて……楽にしてあげようか……。あれ、体は圭祐なんだから、一度にそいつら全員をやっつけるのはちょっとパワー的に難しいか……?

 俺は戦いの方法に頭を向けた。ちょっと考えれば分かったのだが、この世界の教育施設「学校」で同種の人類の殺人はもちろん、格闘だって禁止されている。

『そうじゃないんだ、そうじゃないんだよ、グラン!!僕はむしろ強い【心】が欲しかったんだ。だから今の僕はこうしてグランに来てもらって、遂に望みが叶ったって思うんだ』

(圭祐……)

 俺は圭祐の心の叫びを聞いた。圭祐は続けた。

『誤解しないで聞いてほしい。僕の言いたい事は、学校で僕を苛めたヤツらを苛め返したいんじゃないんだ。それじゃあタダの復讐になっちゃう。仕返しだ。

 そんな事したら僕は一生自分がやったことに後悔するだろう。でも僕、今の学校で過ごす毎日がとっても辛くて……、僕の心が弱くって、あいつらに復讐しそうになったから、いつの間にか憎しみが抑えられなくなってきて、そんな事を考えた自分が怖くなって……人を傷つけたくなかったから……』

俺は圭祐の散漫な意識を読み取った。彼の心が悲しみで震えているのを感じた。

『僕は……、僕は強い憎しみを感じた日、その日学校から家に帰った時もう2度と学校に行かないと決めたんだ』

それって、引き籠りっていうヤツになったのかい? 俺は聞いた。

『そう、村雨圭祐は引き籠りさ……これ以上のことは、グランが僕の心を読んでくれたらよく分かってもらえると思うよ)

(……圭祐)

 俺は読むとかじゃなくて彼の辛い気持が一気に流れ混んで来たんで、その時の学校での情景が手に取る様に伝わってきた。同時に、何か違う感情の流れも感じた。複雑な感情だったのでその時の俺には理解不能な感じだった。。

『グランだったら、どうする? どうしたら良い?』

(そんなぁ……まだこの世界のルールとか未経験なんだよ、俺はぁ。それでも俺だったら攻められた時、圭祐の様に怒りの気持ちを抑え切れるかどうかはわからないよ)

『僕はグランに、今の僕の体がどう行動したら良いかの判断を委ねたい』

(全て俺が決めて良いのかよ?)

『良いよ!! むしろ決めてくれ』

俺は躊躇した。

 学校とかに載りこんで圭祐を苛めていたグループを叩き潰すと言うならやって見せよう。果たしてそいつらをやっつけ終わるまでこの圭祐の柔らかい体は持つのだろうか?

 しかしそれはさっき聞いた様に、圭祐は学校での戦いを望んではいないようだから……この方法では彼を救えない。

 俺は物心付いた時からずっと勇者稼業をやってた。そんな事もあって心体は強靭だが、残念なことに交渉事は苦手だ。そういう風に頭使った経験が無い。情けない事に、不器用な解決策しか思い浮かばない。

 圭祐の望んでいた強い心が俺の精神体をこの世界に引き寄せて、圭祐の体にそれが加わったのに……。それだけじゃ解決出来ない問題って……人の心の問題はこの世界では力ずくで解決は出来ないと思った。俺にとって、地球という社会は平和だが、なんとも複雑な文明社会なんだと初めて実感した。

『良いよ。これはすぐ回答の出る問題じゃないのはわかってる』

(……わるいなぁ圭祐)

『それより明日、宅配屋さんに配達でケーキとか持ってきてもらおうか』

(え……何の記念?)

俺は圭祐に聞いた。

『決まってるだろう、グランが僕の所に来てくれた記念さ。偉大な奇跡が起こったんだ。しっかり祝っておきたいのさ』


そう言って心の中の圭祐は笑顔を見せた。


一人の肉体の中の二人の魂。この章では小説の一人称はグランの視点で書いてありますが、二つの心が語り合う、対立する部分では( )「」二重かっこの形で二人のセリフを分けるように書いてみました。わかりにくい部分があるかと思いますが、流れでどちらが言っているかわかるように書き進んでいったつもりです。読み取ってください。

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