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村雨千夏 2  エンディング

圭祐の母の前で、みんなの見せる顔はグラン、圭祐から見て、とても興味深かったりもした。ただ、奇妙なことにこのテーブルに座ったことで、彼女たちはお互いの存在を最小限肯定するようになっていた。それって千夏母さん効果なの?

村雨千夏 2


「ありがとうございます」

「御馳走様です」

「これからも宜しくでございます」

3人が立ちあがって、それぞれ彼女にお礼を言った。さすが年の甲だ。こんなにまとめようがない場を見事にまとめあげたのだ。圭祐のお母さんって凄い人だなあ。

「そうだ、圭君まだお母さんご紹介してもらっていない娘さんがいるみたいなの。今日はいらっしゃらないの?」

(……帰り際に何を言い出すんですかぁこの人はぁ……)

 俺は顔面がこわばって行くのを感じた。誰の事を言っているのか、おおよそ見当は着いたのだが……。

テーブルに座りなおした3人からはとても冷たい視線が稲妻のように俺にビシビシ突き刺さってくる。さっきまでの和んでいた場の雰囲気に一気に緊張感が走った。

千夏さんの言葉で俺が誰かを隠している事になってしまった様なのだ。

「だっ誰のことかなぁ?」

仕方ないので俺はここはとにかくバッくれることにした。バッくれる他何も思い付かない。この状況でピッコロはともかく、揚羽と莉奈先輩に実宝の存在は到底切り出せない。いくら俺でも話せない……そう思ったのだ。

「ご挨拶遅れて申し訳ありません。私実宝ウディア・ルメル・実宝ンシャール、異世界【ミルージア】の 女王の長女、国は滅ぼされてしまい、体さえ何処かに消えてしまいましたが、その生れに偽りはありません」

「実宝……」

 俺は茫然と自分のすぐ後ろを振り返った。そこには半実体化した実宝が立っていた。

「貴方だったのね、もう一人の漂流者は」

 莉奈先輩の眼に少しキツイ光が宿って来た。

「そう、実宝さんって言うのね。圭君がお部屋に入ってきた時に何か圭君一人じゃない気配を感じたの……。でもね、圭君何時までもご紹介してくれないでしょう。貴方だったのね」

 全く圭祐のお母さんは隅に置けない……。て言うか、俺達完全に頭が上がらない。

「隠れていて御免なさい。お部屋の中の状況が分からなくて、突然現れたら圭祐さんにご迷惑がかかってしまうかもと勝手な判断をしてしまいました。自己紹介が遅れてすみません」

「そう、ちょっと自己紹介が遅かったけど、圭君の影に隠れたりしないで自分から名乗り出たから母さん許してあげる。貴方も圭君の事気に入ってくれているの?」

「私、肉体がありません。ですから圭祐さんを見守ってあげる事しか出来ないのです」

「その割りには、自信ありそうに見えるけど」

「私と圭祐さんは世界を超えた縁で結ばれてる気がしているんです。ですからお母様、私に体が戻ってきた暁には是非、是非圭祐さんと添い遂げることを認めて下さい」

「おおおおおおっ」

「えええええっ」

「ぴきゃぁああああ?」

 この実宝の求婚宣言には、皆驚いたようだ。

「自分からはっきり言う娘ね……とっても自信があるみたいね」

「はい、圭祐さんを好きな気持ちは誰にも負けません」

「そう、貴方が1番骨があるみたい。良く分かったわ。でも皆さんお母さん帰る前に一言だけ言っておきたい事があります」

「はい」

「なんでしょう」

「承ります」

「ぴきぃ?」

「私も皆のライバルだってこと忘れないでね!!じゃあねーーーー!!」

(ダメだぁこりゃぁせっかくの母としての威厳が今の一言で台無しだよぉ)

 こうして嵐の様に圭祐のお母さん千夏さんは去って行ったのだ。


  エンディング


 圭祐のお母さんが部屋から出て行くと、残された皆の間に微妙な空気が流れ始めた。

ピッコロはTVのスイッチを入れて、何かバラエティーを見始めている。周りの雰囲気意に介さずと言ったところだ。実宝はいつの間にか姿を消してしまった。揚羽はまだお腹が減っているのかお湯を沸かして、カップ麺をどれにしようか物色し始めた。

「食べて良い?」

 俺の方を見て、一応揚羽は許可みたいなモノを求めた。

「ああっ」

 俺は簡単に答えた。揚羽は嬉しそうにカップ焼きそばを開け始めた。

「それ、何杯目?」

「2つめ」

「オマエ、そんなに食べるほうだったっけ?」

「ずっと何にも食べて無かったの。お腹空いてたの……圭祐の持ってるカップ麺美味しい」

(誰のカップ麺でも同じだろうが……)

 俺はすこし気になっている事を莉奈先輩に聞いて見た。

「物事は一見無関係に見えても……て先輩の口癖みたいじゃないですか。あれって誰かの教えとかですか?」


「一昨年の教訓カレンダーの表紙……耳に付いて……」

「そうなんだ」

 なんでもいいや……少し先輩との会話が弾んだとこで、気になっている大事な事を切り出した。

「先輩、俺がこの部屋から出て行って何か心境に変化があったんですか?さっきまでは圭祐の中の異世界の勇者を封印する使命感に凄く燃えてたじゃないですか?」

「そう、さっきまではネ。でも部屋から飛び出してった後のキミを見ていて、なんか今のままでもう少し様子をみたいなって私、考えが変わったのよ」

「変った?」

「そう、TVにもチラッと写ってたよ君の姿……以前の村雨君だと人前で発言する事だって控え気味だったでしょう。それが、突っ込んで来る飛行機に「掛って来い!!」みたいに立ち塞がって見せてたんだよ、君は。

 そんな事する悪霊なんていないよね。

 君の中に入っているのは正真正銘勇者の魂なんだよね」

「あっはい、そうです!!」

「勇士って、無鉄砲で大ばかで不器用で……だから、だからさぁ今までの村雨君を変えてくれるんじゃないかって思っちゃったんだ」

「……」

「君の中の勇者を祓うのは少し様子を見ることにします」

「あっハイ、そうして貰えるとありがたいです」

「だ・か・らぁ、」

「だから?」

「だから、私はこの部屋に時々監視に入らせてもらいます。そうしないと無鉄砲で大バカな勇者が何かを仕出かしても押さえる人がいないから、いいでしょう?」

「はい、それならご自由に、何時でも見に来て下さい。頑張って筋トレしてますから」

「それにお母さん心配してるぞう、そろそろ学校にも行かないと」

「そっそれはちっと考えさせて下さい。もう少し……」

「良いわよ、それから求婚宣言とかしてる何処かの王女様?あの漂流者も変な事しないか私が監視させて貰いますから、そのつもりで」

 莉奈先輩の言葉が終わらないうちに、天井の方から実宝の声が聞こえてきた。

「そんな持って回った言い方しなくたって実宝分かりますからぁ。貴方になにか来ていただかなくて平気ですからぁ。ホントは貴方だって圭祐に会いたいだけなんでしょう。実宝わかるもん」


「なんですってぇ!!姿を現せ、このお化けがぁーーー今直ぐ鼻かんだティシュか特売のチラシに封印してあげるから、覚悟しなさい!!」

「べーーーー」

「こら、実宝先輩の事刺激しないで」

 実宝のヤツ、せっかく上手くまとまりかけているところをお願いだから混っ返さないで欲しい。

「村雨圭祐、君にはこの言葉を送ろう」

「いや、先輩もう言葉は……」

白雲抱幽石はくうんゆうせきをだく

「あ、ありがとうございます」

「意味を聞けよ、意味を!!」

「あっはいっ……聞きます。それってどう言う意味なんですか?」

「良いだろう。教えてやろう。世間の栄華は移ろいやすく、空虚だ。それに比べて人里離れた深山は精神的に豊かなものだ。人はたまにはそう言ったところで暮らしてみるのも良いのでは、と言う言葉だ。 

キミにとってこの部屋は人里離れた深山なんだろう。もう少し心を磨いて見てはどう?」

「莉奈先輩、ありがとうございます」

「今日はもう帰らせていただくわ。失礼」

 そう言って莉奈先輩も帰って行った。


 残ったのはテーブルで何時までも焼きそばを食べている揚羽だ。俺はTVを点けたまま寝てしまったピッコロを放っといて、テーブルで焼きそばを食べている揚羽の座っている向いに座った。

「やれやれ、やっと帰ってくれたよ。母さんも莉奈先輩もさ。それ美味いか?」

「美味しい、圭祐も食べる?」

 揚羽はめちゃめちゃ美味そうにカップ麺をほうばっていた。

 こんな表情をするんだ揚羽は……と思った。

「俺は良いや。毎日大体そこいらのインスタント食べてるから……食べたんだからその辺の片付けやっといて」

「やる……」

 揚羽は素直にそう答えた。

 俺はテーブルの上のティーカップなど食器類の洗いモノを始めた揚羽の背中を見て、ふっと前からずっと気になっていた事を聞いてみた。

「揚羽さぁ、俺の事【雄奴隷】にしたいかぁ?」

「なに? なに言ってんの圭祐?」

「なにって以前学校にいた時、俺の事を【雄奴隷】とか呼んでただろう、不良連中のいる前で」

「言ってないよ、ワタシが圭祐にそんな事言う訳無いじゃんかぁ。だってだってワタシ、圭祐の事ゴニョ、ゴニョ……」

 なにか言おうとして、揚羽は下を向いてもじもじしている。

「言ってない?」

『それについては、多少解説をしておかないと……』

 俺と揚羽の会話に圭祐が、心の中で口を挟んで来た。

(解説ってどう言うこと?)

『あああっだから、グランは僕の夢の中で、キョウちゃんが僕を苛めるのを見たんだよね?』

(ああ、それで俺は学校で揚羽が圭祐を奴隷扱いしてる事が分かったんだ)

『それは……だから、僕の単なる夢だったんだよね』

(はぁ?)

『だから、夢ってあるじゃない。現実とは違って願望が形になったりするとか……』

(なに、なに、なに? それじゃぁ圭祐の願望世界を俺は見たのかい?)

『願望って言うか、恐怖ものの好きな読者っているじゃない? そんな感じの夢』

(それって単なるマゾ夢かい?)

『あちょあちょちょ……そんな言い方しなくても……夢は現実半分、妄想半分って言うじゃない』

(知らねえよ!!)

「どうしたの?」

 俺が茫然と呆けている顔をしているのをじっと見て、揚羽が問いかけてきた。

「あっ……何でもない。今の質問なし」

「分かんない事言うなぁ圭祐は。やっぱりワタシと一緒に病院行こうかぁ」

そう言って俺の顔をしげしげと覗きこんだ。

 俺は、説明するのも疲れたんで揚羽の向いの椅子から立ち上がった。

 体もそうだが、今のでめちゃめちゃ気持ちが疲れたんで、もう揚羽には構わず寝ることにした。

 その後どうするかは、寝てから考えよう。

 今日は、今までよりもう少しマシな夢が見られそうな気がした。



                        Fin


グラン・圭祐の引きこもりはまだ続くのか?グランは自分の肉体を回収して、魔法攻撃を止めることが出来るのか?数々の伏線をまき散らしたまま、そのお話は次の機会に!!

ここで、一旦第一部完とさせていただきます。読者の皆さまお付き合いいただき、ありがとうございます。

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