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 村雨・グラン・圭祐 2

今日も雨でしたぁ。濡れた。

第6章  村雨・グラン・圭祐 2


 先輩はバラモン教だかサンスクリット語だかの良く分からない言葉を口の中で唱えながら、九字を切る様な仕草をして、その力をキッチンの部屋の隅に置いてあるダンボール箱に向けてぶつけた。

 先輩の手には、魔女っ子ならぬ陰陽ステッキがいつの間にか握られている。

「きええええええっーーーー!!」

 先輩の全身から放電のような光が放たれ、部屋の中に実宝ッシュでも焚かれたような状態になった。

「それは、ヒヨコのピーちゃん」

 俺は驚くと同時に悲しい叫び声をあげた。俺の驚きはそれだけでは終わらなかった。

「ぴぎゅあああああああっ」

 ダンボールで作った狭い巣箱からいきなり天井まで達する怪物が出現したのだ。

「えっピーちゃんが、異世界からの漂流者?

 そんなことって……。そう言えば、無性卵から孵化するなんておかしいと以前から思ってはいたけど……そうだったの」

 ピーちゃんは莉奈先輩の陰陽道風の気の攻撃で苦しみもがいている。それで堪らず封印を解かれて実体を現わしたって感じなんだろうか?

 ピーちゃんの実体って何なんだろう?

「この小動物、ヒヨコに成り済ましていたのは、私の大嫌いなぁーーーーー」

 俺は先輩の放つ気のオーラの様な放電の先でもがき苦しむピーちゃんを茫然と見ていた。

気になって周りを探したんだけど、俺の感じる範囲に実宝はいない。

 ピーちゃんは頭を押さえて苦しんでいたが、声にならない苦悶の叫び声をあげ続け、狭いキッチンで、テーブルとかを壊さない程度に、器用にのたうちまわった末、体が又しても変化していった。

「ふぅ、今こいつに掛けられていたおかしな変異魔法を解除したわ」

「そうなんだ……」

「そう、この雛に宿っていたのは、私の大嫌いな魔法少女ってヤツよ」

 眼鏡に左手を掛けて、莉奈先輩は床に蹲って変形していくピーちゃんだったモノを見つめていた。異様な煙を吐き出してベビーモスの様な角を生やした巨体は完全に消失した。そしてさっき異様な怪物がいた空間にはキッチンの床にちょこんと腰を据えた、頬っぺたがリンゴの様に赤い瞳の大きい少女が出現していた。

「はっ始めましてぇ僕の名前はポーチカ・ピッコロです。まだ見習いの魔法少女なんです。自分で掛けた獣身変化の魔法が解けなくってそんな時に通りすがりの白魔道士に浄化されちゃいましたぁーてへぇ」

「ほらっほらっ言った!!てへぇて!!」

 莉奈先輩はここぞとばかりにピッコロの事を指差して俺にそう訴え掛けた。

「はい、確かに言いましたね」

「ピッコロ、貴方ねどうせ自分の力じゃ、元の世界に戻れないんでしょう」

「たぶんーまったくーそのとうりでーす。ご明察ぅ」

「それじゃぁ私が密教陰陽道の法力で貴方を元の世界に送り返してあげるわ」

「はい、そうしていただけると助かります」

「……」

 莉奈先輩はまたしても、意識を集中し別の呪文を唱え始めた。俺はある事に気が付いて、先輩とピッコロの間に割って入った。

「あのう、先輩、失礼ですけどその呪文使う前に一つ聞かせてもらって良いですか?」

「なによ?」

 今、良いとこなのにと言わんばかりの顔だ。

「その法力、先輩は完全に使いこなせるんですかぁ?」

「でっ出来るわよ!!失敬な」

「でもですよ、もし!!そんな事が出来るなら、今までだって異世界からの漂流者が多数流れ着いたとかでこの世界は困った事には……にはならなかったはずですよね?」

「うっ」

「正直、言って下さい」

 俺は先輩の方に一歩近づいて、そう聞いた。

「飛ばしたい……正確には、ええーーと過去には上手く飛ばせた事は無いけど……やれると思うわ。

これって要は気合いの問題でしょう。

ちょっと一か八か感はあるけどさぁ……何事にも初めてはあるのよ」

「ああああっーーーやめ、やめ、止めましょうよ、そう言うの!!」

 俺はこれは絶対やらせちゃあいけないと確信した。

「どうしてぇ?」

「その前に一つ聞いておきたいんですけど今やろうとした法力がもし失敗したら、どんな事が起こる可能性があるんですか?」

「ああっそれは時空が歪んだり、空間に穴が開いたりしてぇ……不可解などこかと繋がるかも知れないわ。それがどうしたって言うのよ.

世界の摂理を正すために侵さないといけないリスクだわ」

「それが、いけないんでしょう!!さっき先輩が自分で言ってたじゃないですか!!」

「何を?」

「おっちょこちょいな魔法少女が世界を破滅させるって。それじゃあ同じですよ。おっちょちょいな陰陽少女になっちゃいますから」

「そ、そうかもね……てへぇ」

そう言って莉奈先輩は自分の頭をこつんとコズいてペロッと舌を出した。

 俺はその顔を見て、さっきから漠然と感じていた不安が確信に変わっていった。

「先輩、先輩に一つ質問して良いですか?」

「なによ?今、大事なトコでしょう」

「ハイ、だからその前に質問が在ります。先輩はもしかしたら自分がドジっ子の自覚無いんじ

ゃないかと?」

「失礼な、この私がドジっ子のわけないでしょ!!」

 それを聞いて、俺は深いため息を吐いた。

 その後気を取り直してこう聞いて見た。

「やっぱり……それじゃぁ一つ聞いて良いですか?」

「良いわよぉ何でも。かかって来なさい」

「先輩、これはドジっ子テストの問題です。それじゃぁ富士五湖って言えますか?」

「なに、バッカじゃないの。良く聞いてなさい、言うわよ。

『ふ、じ、ご、こ』

どう完璧よ。咬んだりしないでしょう?この程度の早口言葉簡単よ、フン」

 莉奈先輩は俺に向ってどうだとばかりに両手を腰に当てて胸を張ってみせた。たいへん得意そ

うだ。

「あっあのう先輩、富士五湖は、本栖湖、精進湖、河口湖、山中湖、西湖の5つです」

 先輩は呆気に取られた様な顔でこっちを見た。

「ズルーイ。そんなの引っ掛け問題じゃんか!!」

「いや、いや、いや、富士五湖って言って咬むと思う人いませんよね?」

「……そっそうね」

「だから、先輩ドジっ子臭がするんですよ」

「うるさいわね!!

それでも、このひよこの中に潜んでいた魔法少女の実体は分かったんだから私の力は認めなさ

いよ」

とりあえず、今やろうとした法力は破壊の呪文になる可能性を分かってもらい止めにしてく

れたようだ。それでも先輩はここまでの成果は胸を張って自慢しても良いレベルみたいだ。

「はっはい……」

「あともう一人いたわよね」

 実宝のことか……俺は思った。


「そこいらへんに浮いてたやつ……」

そう言えば実宝の姿が見えない。時々見えなくなるんだが、どこに消えてるんだろう。

「それから,村雨君の中に入っているやつ、そいつの正体も暴かないといけないわ」

「それは……先輩、そこは今のところ不自由はしてませんから、このままでお構いなく……」

「そうはいかなくてよ、この世に巣食う悪鬼を放置しておくことは「異世界管理局【SOO】」

としては出来ません」

「そんなぁ」

「君の場合、人間の内面にいるので徐霊の方法がさっきのひよことちょっと違うのよね……」

 そう言っている先輩の顔は、何故か俯いてちょっと恥ずかしそうに頬を染めている。

(何でいきなりそんな表情を?)

 そう言った後先輩は俺の背中にさっと回って来て、自分の体を俺の背中にぴったり寄せ謎の体勢を取った。

 その体勢で先輩は自分の両手を俺の前面に回して、ゆっくりと俺の腹筋から胸筋に至る辺りに手の平を這わせ始めた。

(なななっなんなんだぁー?)

 背中に先輩の胸の辺りが密着されて、それが当たっている感触が洋服越しに俺の背中に伝わってくる。2つのそれは柔らかくて暖かいとても心地よい感触だ。

 俺はかつて背中で感じた事のない心地よさを味わっていた。その体勢から先輩はさらに自分の体を俺の背中にぐっと押しつけて、そのままの体勢でゆっくりと上下させ始めた。

「せせせっ先輩!!っどうしたんですか?何してるんですかぁ?」

「これは異世界からの霊魂を体外に導き出す道を造る霊的な儀式なの……黙って」

 そう言っている先輩の口からは、呪文の様な言葉が呟かれている。

「それがぁ本当にぃー?」

「だって、管理局【SOO】から支給されてる徐霊マニュアルにはっきりそう書いてあるのよぉ」

「信じらんねぇーそのマニュアル!!……っていうか、「SOO」の話全般」

「う……動かないでぇ」

 何故か、先輩の声が妙に上ずって艶っぽくなってきた様に聞こえる。

(どうしたんだよぉー!!)

 先輩の両手の動きが妙に艶めかしい。

 その時俺は気持ちを静め様と天井を見つめた。

 そして何の気なしにTVの方を見た。TVのスイッチが入っている?

 さっきピーちゃんから魔法少女ピッコロが解放された時、彼女が床でバタバタもがいて暴れ

てたから、その時、体のどこかが当たってTVのスイッチが入ったのだろうか……。

 俺はその時見るともなくTVの画面を見てしまった。


TVでは、割と良くあるニュースを放映していた。成田を1時間程前に飛び立った韓国製旅客機1090便の通信が途絶えたとかのニュースをだ。

(何のことは無い。たまには聞く飛行機整備不良や大事故やを予感させる不安なニュースだ)

 しかし俺の心に何か引っ掛かる不安が、このニュースを見た事で次第に警鐘を鳴らし始めて

いた。

そう感じた理由は極めて些細な偶然の積み重ねからだ。

まず俺はめったにTVを付けない。

その理由は常に外界と自分の接点は、遮断しておきたいと思っているからだ。

次にたまたま、今付けたTVの放送がニュース番組だった事だ。

さらに航空機の行くえ不明と言う、その後の「もしかしたら」の大事故を予感させる内容…

…。

 そういった重なり合いが俺の心に「カーマナイト・スピリッツ【KS】」を発動させかねないキィワードが薄っすらと感じられた……。

 それに俺は今朝ゴミ捨てに行った。

 俺にしては、普段より多少余計に部屋の外まで空間座標を移動した事になる。

 これも「カーマナイト・スピリッツ【KS】」発生の原因ポイントの一つじゃないだろうか。

 莉奈先輩は俺の感じている漠然とした嫌な予感など、全くお構いなしみたいだ。

 興奮して息が上がってきている。俺の背中に押しつけられた先輩の胸の突起の部分は固く熱

くなっている様だ。

「村雨君、すぐに貴方を解放してあげるから、痛くないからじっとしててね」

「ちっ……ちょっと待って……」

 俺は莉奈先輩の体に回した両手を離そうと掴んだ。そして彼女の体を俺の背中から衝き離して

 兎に角落ち着かせて彼女との距離を取ろうとした。

 そうして彼女の法力の発動を制止してもらおうと、両手を左右に激しく振った。

 その時だった。またしても何時もの様に、部屋のドアを猛烈に叩く音が響き渡ったのだ。


ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン


 それは明かに朝の登校前の揚羽の襲来だった。こんなに朝早く揚羽が現れるのは珍しい。

「誰、誰が来たっていうのぉ?」

 怪しい動きから法力を使おうとしていた莉奈先輩は集中が途切れたようで慌ててそう言った。

 彼女は突然の激しい雑音に耳を押さえて頭を振り、玄関の方を見た。

 おかげで気が殺がれた様だ。俺は助かったと思った。


「圭祐、御願い、部屋に入れてえぇ。今日こそ私を部屋に入れて欲しいのぅ」

 俺は耳を疑った……今日の揚羽は一体何を言っているんだ。

(この部屋に入りたいんだって?)

 それが揚羽の目的だったのか……。でも、なグランだ、部屋に入る理由は今日までの彼女の行動から思い浮かばない。どうしてそうなったんだ?

 そんなこと言うなら彼女が不良グループの手先になって、俺をこの部屋から誘い出そうとしていると言うストーリーの方が遥かに納得が出来る話だ。揚羽の発言は今までの彼女とかなり質が違う気がする。俺は混乱し始めた。

(何故そんな事を今になって言いだすんだ!!)

「だって、今さっきうちの高校の女子が圭祐のお部屋に入ってくの見たんだもん。私も入れてくれたっていいじゃん」

 揚羽の言い分が変化したことは気になるが、今はそれどころじゃない。俺の実体に迫った眼の前の徐霊の危機の方が先決だ。莉奈先輩はまたしても揚羽が騒いでいる音に両耳を塞ぎながら、何とか自分の法力の発動に気を集中しようとしていた。

「うるさい、うるさい、うるさいーーー、誰だか知らないけど今は、眼の前にいる圭祐君の肉体を悪鬼から解放してあげる大切な時なのよ。

 静かにしていて欲しいわ、気が散って集中できないの」

 そう言ってドアの外にいる揚羽に向って叫んでいる莉奈先輩に、俺はおずおずと聞いてみた。

「先輩、俺の体の中に誰か別の意識が入っていたとしてですね、それを出したらその後はどうするんですかぁ?そこのところを聞きたいんですが」

「聞きたい、そこ聞きたいのね?」

「はい」

「それはネ、異世界からの邪気を肉体から解放して、そいつは元の世界に戻したいんとこなんだけど、それはまだ私には出来ないみたいなの。未経験の領域ね。さっきも思い留まったでしょう。そこでここにある式神に邪気を封印してあげるわ」

 そういって、莉奈先輩はポケットからくしゃくしゃに丸めたテッシュを切り抜いたような人型をした紙を取りだした。

 なんか即席に手で千切って作ったみたいなメチャ雑なお人形だ。

(先輩、切り絵下手!!)

 こんなのに俺入れようとしてんのかい?

 これじゃあ、ちょっとくしゃみでもしたらゴミに混じって捨てられそうじゃないか……。


 村雨・グラン・圭祐 3  に続きます。

莉奈先輩がおこなおうとしている御呪いとは??

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