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鞍馬莉奈 5

揚羽と莉奈先輩の襲来は日増しに頻度を増やし、穏やかだった引き籠りの日々はどこかに去って行ってしまったようだ。それはまさに引き籠りというより立て籠もり。籠城戦といっても過言ではなかった。どうしてこうなってしまったのだろう…。

鞍馬莉奈 5


「……って言う訳でもう、その心配は無くなった。白澤先生から聞いてないの?俺は自宅学習の生徒になったんだ。通信教育生みたいな感じ。

 もう自由なの。だから、揚羽は来てくれなくて良いんです。今まで心配してくれていてありがとうございました」

「なによ、せっかく本気で心配してあげてるのにドアくらい開けたらどうなの?」

「あっああ、風邪引いてて……移ると悪いから……お休みなさい」

 俺は適当に嘘を言った。こいつに嘘の一つを言うことくらいは何の良心の呵責もない。

すると、すかさず……

「嘘付くな!!」

と揚羽の怒りの叫びが返って来た。

「鬱病になったり、妄想が見えてるなら、病院に行こうよ。

自分に向き合ってさぁ。私 一緒に行ってあげるからぁ」

 この言い方も、揚羽にしては不思議にまともなアドバイスだ……普通の友達に言う様な内容じゃないか?

「圭祐が何か食べてないんじゃないかと思って、お弁当……作ってきた……」

(うっそうー!!)

 俺は自分の耳を疑った。揚羽がそんな事を言うなんて到底有り得ない事だ。そんなセリフを一生の内に聞くことになるなんて……。

「聞いてる?」

「聞いてるよ」

 俺はどう答えたら良いか、困惑していた。

「私の事が怖いの?、怖いの?圭祐をそこまで追い詰めたのは私なの?教えて!!」

(急に話の矛先を変えやがった。どうやら圭祐に対して多少は罪の意識を感じてるみたいだ……それなら余計に今の俺達の生活の邪魔はしないで欲しい……)

「ごめんな……揚羽はちょっと苦手かも……御免。さようなら」

 俺ははっきり言った。伝えるしかないだろう。

 しかし、一向に揚羽は引いてくれそうにない。

「バカぁ何時までそんなとこにこそこそ隠れてんのよ。出てこいやぁドアぶっ壊したるぞぅ」

 この言い方はやっと何時もの揚羽に戻ったようだ……。

 俺は、それ以上彼女の話に答えないようにした。

 少ししたら外は静かになった。俺はそっとドアを開けてみた。俺の家のドアの前にちょこんとランチボックスを包んだピンク色の物体が置かれていた。

(此処にそのまま置いとく訳にはいかないよな……)

 俺はそのお弁当を引き取った。中身はスパイシーな香りの漂うパエリアだった。揚羽が自分で調理したのかと俺は更に驚いた。

 腹が減っていたので、一気に口に入れて見た。……が、味は今一だった。

(もらったんだから文句は言えない)

と思った。

 先日は辛くも追い返したのだが、ある程度の時間が経過すると、彼女はまた現れる。

 俺がシカトしていると散々ドアベルを押して、気が済むのか大人しく帰って行くのだ。彼女の襲撃の真意は謎に包まれている。俺を掴まえて学校でやった様に雄奴隷の女王様として甚振る事が目的なら、ここまで根気よく説得の苦労を続けるだろうか?

 それほど以前 圭祐は彼女のお気に入りの奴隷だったのか……?他にも奴隷2号とか3号とか前向きに作りゃ良いのに……。

 彼女の行動が謎に包まれていると言っても、俺からすると完全に煩わしいだけだ。

 俺は、最小限しか玄関口で彼女と会話していないので真意は何時まで経っても謎のままだろう。今日は彼女が去ってから30分ほどしてから、恐る恐るドアを開けてそっと外を見回して見た。廊下には誰もいないようだ。

 俺は顔を出して、ドアの状態を調べて見る。明かに蹴られ続けている靴の跡や叩かれ続けている手の形にドアが凹んでしまっている。このまま揚羽の襲撃に晒され続けて行くとこのドアもそう遠くない将来、木端微塵にされてしまうだろう……それまでに何か策を考え付かないといけないのだが……。


圭祐のお母さんが訪問して来るタイミングはそれまでとは変わらないのだが、実宝の出現に始まって、何かの勧誘、揚羽の襲来、莉奈の訪問、宅急便とそれまで誰も訪れなかった圭祐の部屋に望んでもいないのに、度々人が訪れて来る様になってにわかに騒がしくなってきたのだ。

 今日は換気扇の修理に電気屋が来ていた。

「どうですかぁ、換気扇は?」

「こりゃあダメだよ、お兄さん。珍しいケースだねぇ」

「俺の周りは大体珍しいケースばっかりなんですよ、何事も……」

「だってね、換気扇のモーターがイカれて火を吹くなんてケースは、日本全国、全家電品メーカーの事例で20年に5件くらいしか起ってないんだよね。その前に配線がイカレたり、動かなくなっちまうのが換気扇の寿命なんだ」

「珍しいんですね、それって。分かります」

むしろ俺は取り替えて貰った新しい換気扇がすぐに火を吹くケースの方を恐れていたのだ。何故かといえばそのケースの方がもっと珍しいからだ。

 もし新品が火を吹けば、交換になるだけで家の出費は嵩まないだろうが、それでもその度に電気屋さんに来てもらうのはとても恐縮してしまう。2回3回と続けて電気屋さんを呼べば、なんかやって壊しているとも疑われたって仕方なく成るだろう。

 とりあえず、換気扇の修理は完了して電気屋さんにはお引き取りを願う運びになった。

「ご苦労様です。こう言った事の無いように大切に使いますから」

「そうだねぇ。大切に使うって言っても気を付けることは、点けっぱなしにしないというくらいかなぁ」

「はい、そこ気を付けます」

 俺は極力好印象に振る舞う様に心がけた。またもし次に頼んでも来てくれないと困るからだ。

「それじゃあ……」

「はい、御苦労さまです。ありがとうございます」

 俺は玄関口まで電気屋さんを見送りに出た。

 するとドアの外に鞍馬莉奈が立っていた。2人の電気屋さんは無言で佇んでいた彼女に戸惑ったがとりあえず無難に彼女を除けて表廊下を帰って行った。

「物事は一見無関係に見えても、全て必然に依って繋がって在る……」

 前回と同様に良く分からない言葉を口の中で、呪文の様に呟いていた。

「また、貴方ですか……」

 俺は僅かに溜息を吐いた。この莉奈と言う3年生がかなり苦手なんだと思った。

「あら?村雨君また少し感じが変わったようね?どうしたのかしら……ほんと、やつれたみたい……取り付かれたせい?」

「やつれたんじゃなく、シェイプアップです。最近俺、頑張って結果が出してますから」

「そうなの、まあ良いわ……。

 今日もキミが創りだしたこの部屋を取り囲んでいる閉鎖結界に僅かな綻びが出来た……そこに私が入り込んだのよ」

「あっいやっ、俺はその特に結界とか引いたりしてないし、引けないし……」

「結界は引くれはなく、張るものよ。覚えて」

 そう言いながら、彼女は眼鏡を得意そうに持ちあげてみせた。相変わらず会話が全くかみ合わない人だ。

「そうですか……すいません。

 それで、今日はただ単に電気屋さんが来たと言うわけで、それ以上でもそれ以下でもなく……だから、ちょっとだけドアを開けたので……すぐ閉めます。はい」

「それを結界の綻びとぉ!!」

 彼女は、またしてもドアの隙間に足を挟んで、両手でドアを押さえたのだ。なんなんだぁこの人はぁ……。

「貴方、俺のスト―カーなんですかぁ?俺は女性に付きまとわれるほどイケ面でもセクシーでもないですから。俺とかに付きまとっても面白くないですよ。他当たって下さい」

「何を失敬な、私は監視者、君を観察、監視している者なのよ。オブザーバーと呼んで」

「観察とか監視とか、そっちこそ何を言ってるんです。俺は虫でも犯罪者でも無いんですよ。。せいグランい登校拒否の学生レベルでしょう。でしたらお構いなく、安全ですから、自分のことは自分でなんとかしようと頑張ってますから。風紀委員様」

「いや、任せられない、既に本人の自覚に任せるレベルは既に越えてしまった……私から見たらイエローカードではなくもはやレッドカードなの。もうホント悲しい事だわ……村雨君、君自身もグレーゾーンなんだけど、このお部屋の中にいるモノ達は……。


うううっ酷い気配……。


いいから私を部屋の中に入れなさいってばぁ徐霊よ徐霊!!」

「えっえっえっーーーーダメですよ、ダメ」

「なにか疾しい事があるのね」

「そうじゃなくって、そうじゃなく俺が家に人を挙げたくないんです。汚くしてるし、莉奈さんとは知りあって間も無いし……」

「私は構わないぞ、それなら部屋に上がって良いでしょうーーー【喫茶去】よ!!」

「俺は構うんですって。良く知らない女性は上げられません。母にもそう言われていますから!!」

遂に圭祐のお母さんまで、莉奈先輩の退去の言いわけに登場させてしまった。それほどこの先輩は理屈でなく押しが強い人なのだ。

 とうとう、部屋の奥に隠れていた実宝も玄関に飛び出してきた。

(圭祐、押し負けちゃダメ!!この人家の中まで入れちゃダメだってばぁ)

 そう言って俺の後ろから俺の背中を押すような仕草をした。最もこの場合、実宝は物理的な力は出せていないみたいなのだが……。

 莉奈は首を左右に振って俺の背後を覗き見る様な仕草をした。

「やっと出てきたな!悪鬼の気配!!」

「えっ!!」

 俺は実宝と眼と眼を見合せた。

(この人には実宝は見えるんだぁ

でも、なんだぁ実宝を悪鬼だってぇーーー?)

「あのぉ……莉奈さん、つかぬ事を聞きますけど莉奈さんは僕の後ろにいる何かが見えるんですかぁ?」

 俺は彼女にそう問いかけた。

「ふふふっ私の神通力を舐めないでよぉ見えるわよ、そこにいるお化けくらい、お見通しよ!!」

(そうなんだ、実宝は俺一人にしか見えなかったわけじゃなさそうだ……精神体かもしれないけど、俺自身の意識とは別に存在するんだ!!

 莉奈先輩が実宝の存在を証明する初めての証人だ)

「村雨君、何を嬉しそうな顔をしてるの?

 君は追い詰められているんだから!!そういう顔をしなさい!!

とにかくここを通しなさい。生活指導補佐、風紀安全委員としての命令です」

「そんな理不尽な命令は聞けませんって、それに俺がどういう顔しようと自由でしょう!!」

「ああっもう、邪魔っ!!キミ邪魔っ!!

そこの幽霊、居るのは分かってるんだぁ覚悟しなさい」

「覚悟って莉奈さんは生活指導委員なんですよね、ここにいる何かをお祓いするとか、どうとかするとかは、生活指導とかの役割と全然関係ないでしょう」

「生活指導委員とは表向きの役職、その実体はぁ【SOO】のぉ!!」

「知りませんって!!もういいです。御苦労さま!!」

 そう言って俺は何とかドアを閉めた。それでも莉奈さんの両手の指をドアに挟まないよう細心の注意を払いつつだ。

「こら、村雨、その悪霊に執り付かれたのかぁ!!今のままだと君も大変なことになる、このドアを開けなさいぃってば!!

【SOO】って何ですかっ?とか聞きなさいよ。私に興味持ちなさいよ」

 莉奈さんは、ドアの外でそんな事を大声で叫んでいた様なのだが、一切俺は聞く耳持たなかったのだ。

「実宝、あの人何とか追いだしたよ。強引な人だったけど……。

 そうだ、今の聞いたかい?

 実宝はどうやら俺の妄想なんかじゃなかったみたいだね。実宝は存在してるんだ」

「そうなんですかねぇ?実宝良く分かんないです。今までは存在してたとしても幽霊みたいに言われてましたから私、圭祐が前言っていた呪縛霊とかなんでしょうか?

実宝の体は消滅して、もう死んじゃってるのでしょうか?」

「それは、分からないけど……」

「それにしても莉奈という人やっぱり実宝の敵でしたね。あの人実宝の事を悪鬼とか追い払うとか言ってましたし……」

「そうだね……そう言ってた。追い払うじゃなくてお祓い」

「実宝、あの人が言っていたみたいに幽霊なんでしょうかぁ?」

「まあ、気にする事無いんじゃない、今までだって実宝は物質的な体とかは無かったわけだから。普通にお化けだったんでしょう。それでも自分で同人誌手に持って読んだり出来るんだから、お化けの中でも自由度の高い方なんじゃない」

「そうなんですかね?圭祐、私の事怖くなっちゃったりしません?」

「そんなことないよ。圭祐は最近までずっと1人で勝手に落ち込んでた。それを立ち直るきっかけの一つになってくれたのは実宝だから。俺にとっては恩人さ。感謝してるよ。取り付いてくれるならむしろ大歓迎って感じかな」

「うわぁ圭祐、大好きです。実宝ずっと圭祐から離れません!!」

「そ、そうっ」

「はいっ」

 とりあえず、莉奈さんという生活指導委員は、絶対この部屋には入れたくない。

 第一、彼女が学校の生活指導委員補佐なら俺を学校に行かせようとするとこまでは分かるけど、俺に何か憑いてるとか、この部屋に怪しい気配があるとか、それは全く余計なお世話でしょう。

 そんなことなら放っておいてほしいよ、ほんとに。

 それにしても驚いた。莉奈さんには実宝が見えてるみたいだ。

 莉奈さんからは、実宝はどう見えているんだろうか?俺が見ているのと同じにゲームのキャラとそっくりの外見の女の子に見えているのか?、それともぼうっとした気配のイメージなんだろうか?もしかしたら俺とは全然違って骸骨みたいな怨霊のお化けに見えていたりするのかも知れない。

 日本の怪談話ではそういう展開が多いもんな。琵琶法師の耳なし芳一とか……。これは圭祐の知識の断片だ。


トレーニングに疲れて、ベットの上に転げてそのままうたた寝をしてしまったようだ……。

いきなり玄関の呼び鈴が押されて、目が覚めた。


ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン


 この激しい鳴らし方は誰がどう見たってまたしても若槻揚羽の襲来だ。

 俺がベットの上に寝ていても聞こえるくらいの大きな声でドアの外から叫んでいる。近所迷惑だよ。

「俺が今、まだここに引き籠っている訳はこの前ちゃんと揚羽には説明したよな」

 俺がベットの上で浮いている実宝にそう言うと

「説明してましたけど、そんな説明信じる人ですかねぇ?」

 と、実宝は突っ込んだ。

「確かに……ただ正直に話すだけでは、相手が揚羽だしなぁ」

 そんな事を呟きながら、ゆっくりとベットから降り、頭を掻いた。

「いい加減にあたしをお部屋に入れてよ。圭祐の事苛めるヤツがいたら私が守ってあげるから」

 揚羽のヤツ、何を言っているんだ?

 以前は学校で圭祐を雄奴隷にしたがっていたSMの女王が……。俺を守ってくれるだってぇ……?言ってる事が、全然前と違うじゃないか!!

(これは、絶対、罠に違いない!誘いだ!!)

 どう考えても彼女は圭祐をおびき出そうと思って、デタラメを言っているとしか思えない。

 俺はドア一枚挟んだ部屋の中で彼女の言葉を無視すべきか……混乱を起こした。

 こんなに俺は揚羽に対しては一切部屋からは出ないで、何時もシカトな対応を続けているのに、彼女は何時まで経っても俺の事を諦めようとして来ない。それどころか行動に一層しつこさを増してこの部屋に何とか入ろうとしてくる。

 どうしてそこまで執着してくるんだぁ?誰か教えて欲しい。

 そう言えば、ここのところ彼女がドア越しに話す内容が、完全に変化して来ていることにおかしいと思っていた。

 加藤隼人や隣のクラスの不良グループは、圭祐の事を苛め過ぎて彼が登校拒否になってしまったことで、もしかして学校の教師に責任を取れとか酷く責められたりしているんじゃあないのか?

(ざまぁ見ろだ)

 だから、揚羽を使って俺を学校に引っ張り戻そうとしているのかも知れない。それだとなんとなく揚羽の行動の理由も辻褄が在って来るし……、彼女は最近本音を言い始めただけなのかも知れない。

(しかし……佐藤達がそんな回りくどい事するかなぁ……)


 第6章  村雨・グラン・圭祐 に続く


事態は新たな展開を迎える。しかしこの状況で新展開って良い方向ではないよね。どう考えても。最悪の方向しか思い浮かばない。(圭祐)次回の更新は2時までにやります!!

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