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鞍馬莉奈 4

グランは何度か圭祐の夢の世界に立ち会ううちに、その夢の世界で圭祐の過去を追体験していると思っていた。夢にたびたび現れてくる過去、揚羽との出来事は圭祐の記憶の中のトラウマだと。それがもしかしたら現実ではなかったら、違っているのではと気が付いてきた。

 夢って必ずしも起こった現実の通りに話が展開していない。初恋の女性はいつも綺麗で幼いまま、自分に微笑みかけている夢だってあるのだから。それじゃあ圭祐の願望の一部に…。

揚羽に対しての感情が作り上げた…。グランは心理学者ではなく勇者なのでそれ以上は考えなかった。

鞍馬莉奈 4


 圭祐を学校に通わせる生活に戻そうと言う試みは、初日にして燦々たる結果に終わってしまった。

(圭祐、残念だが千夏さんに学校に戻った圭祐の姿を、すぐに見せてあげられそうもない)

『グラン、もうそんなの気にする事ないよ。僕達は堂々と登校して、正門から学校に入ったじゃない。

 その上で白澤先生から自宅学習、つまり通信教育高校生講座みたいな許可をもらえたんだから、後は堂々と家で高校生活を送っていても、放校とか除籍、退学にされる事はもう無いと思いう』

(それで圭祐が納得するなら、とりあえずは良いんだが……)

『勉強なら、此処でだって十分やれるよ』

(学校に通うってことはただ勉強するだけでなくて、集団生活とかもあるだろう?)

『それは追々ってことで。それより、周囲に迷惑をかけずに僕らが外出が出来る様になるには、次にグランに掛けられた【KS】を解く方を考えるのが先だと思うが、いかが?』

(そうかもしれない、そうかも知れないけど……この世界に魔法のエキスパートがいるなら、そいつに頼みたいところだ。俺には魔法を解く方法なんて思い付かないし)

『さぁ、この世界に居るかどうか○○グル先生に聞いてみようか?』

(ダメみたいだな……)

『他の方法を考えて行かないと……』

 俺達は、【KS】解除については、何の手掛かりもなくお互いやれる事が思い着かない状態だった。


 ピンポーン

「白ヤギ運送です」

 チャイムの音が、部屋の中に響いた。

「お届け物でーす」

 ドアの外にいる人物が宅急便とはっきり名乗っているからおかしな客じゃない事は明かだ。最近思うのだが、せっかく世間に迷惑が及ばない様にひっそりとこの部屋に引き籠っているのに何で周りはそっとしておいてくれないのだろうか。なんだかんだと俺一人しか住んでいない部屋にいろんな人が訪ねて来るようになっている気がするのだ。

 宅急便で気になる事は通販の届け物なぞ一切注文した記憶が自分に無い事なのだ。俺は面倒くさそうにベッドから起き上がり、頭をポリポリとかきながらと玄関の方まで歩いて行った。

 そしてドアノブを握り、ゆっくりとドアを押し開けた。

「……はい」

「あ、どうも。お届け物でーす。サインお願いしまーす」

 いつも俺に郵便物を届けてくれる笑顔が眩しい中年男性、白ヤギ運送の岩谷さんだった。手に大きめのダンボールを抱えている。

「お届け物……ですか?俺は最近 何も頼んだ覚えは無いんですけど……」

「あれ? おかしいなぁ。送り先には『グランットゲームズ』って書いてあるんですけど……」

 ピクっ

 俺は『グランットゲームズ』という響きを聞いた瞬間、テンションが切り替わった。

「グラン……グランットゲームズ!? 今、グランットゲームズって言いましたか!?」

「え? ええ……」

「はっ、箱! 箱見せて!!」

 俺は岩谷さんからダンボールを受け取り、焦って伝票を見る。すると、そこには「株式会社グランットゲームズ」と確かに書いてあり、内容物には「小物」と書かれてあった。

 『グランットゲームズ』とは、大規模なネットゲームを運営しているゲーム会社である。1000万人のユーザーを抱えており、ネットゲーマーから非常に高い指示を集めている、所謂(いわゆる)『神』会社だ。

 俺も圭祐の生活を引き継ぎ、引き籠もり生活を始めてからというもの彼の知識を参考にして、このグランットゲームズが運営している【ラスト・ダンジョン・ヒーロー】というMMORPGには随分お世話になり続けていた。気が付くといつの間にかプレイ時間は2000時間を超えている。そんな俺がグランットゲームズに何かを注文した覚えは無いが、グランットゲームズから荷物が届くという事態には、少し覚えがあった。

 数週間前に、【ラスト・ダンジョン・ヒーロー】のホームページで「グランットゲームズからラスト・ダンジョン・ヒーローのプレイヤー諸君に特大プレグランント! なんとアカウント登録者に、抽選1名様限定で『囚われの姫実宝ウニール』のフィギュアをプレグランントだ!! しかもオマケでポストカードとポスターも付いて来る!!」というバナーがデカデカと貼られていたのを思い出す。

『囚われの姫実宝ウニール』とは【ラスト・ダンジョン・ヒーロー】に出て来るヒロインの1人で、彼女を魔王の城から助け出す事がプレイヤー達にとって大きな目標の1つとなっている。しかもキャラクターデザインが秀逸で、【ラスト・ダンジョン・ヒーロー】に登場するヒロインの中でも1、2を争う人気ぶりなのだ。勿論、圭祐も大好きなキャラクターだ。

 で、こうして『グランットゲームズ』から、俺の下に『小物』が届いている。

毎日が淡々と過ぎて行くこの1LDKの中でたまにはこういう偶然のハプニング、サプライズが合っても良いと思った。それにしてもマイナス方向のサプライズにはもはや慣れっこになっている俺なのだが、プレグランントが当たるなんて幸運が本当にあって良いモノだろうか?

「キタ――――――――――ッ!!!」

 そう叫んだのは圭祐だ。とても嬉しそうだ。俺は圭祐の言葉に押される様に箱を開けた。岩谷さんは俺のハイテンションなんて見た事が無かったのだろう。完全にヒイてる。

「う、受け取ります! サイン書きます!」

「は……はあ……どうぞ……」

 岩谷さんは俺に手際よく受領書を渡す。俺はそれに素早くサインし、その荷物を受け取った。

「ありがとうございましたー……」

 岩谷さんはやや引きつった笑顔で別れを告げ、玄関のドアを閉めた。

 1人になった俺は、玄関先でダンボールを抱え、少し幸せな気分になっていた。

「ク……クク……実宝ウニール姫のフィギュア……フフフ…………」

 他人が見れば明らかにヤバい人に見えるんだろうが、圭祐はオタクだ。それを引っ張る俺もオタクの素質は徐徐に受け継がれて来ている様なのだ。2人合わさるとこんな大きな非売品が当たった喜びは相当なモノになる。

 俺はふと、ある事を思った。

「……ハッ! 待てよ……「カーマナイト・スピリッツ【KS】」を掛けられてる俺に、こんなに幸運(ラッキー)な事が起こるなんておかしい……もしかすると、これもウルフガング・リガルディ(奴)の仕掛けた罠なんじゃないのか……?」

 喜びから一転、俺の心の中に疑惑が芽生え始める。そうは言ったものの異世界から罠なんか仕掛けられるか?普通の人からすれば考えすぎだと思われるかもしれないが、俺からすればそういう風に考えてしまう癖が付くくらい、今まで幾度となく立て続いて不幸な目に合い続けてきた記憶はとても生々しい。

 疑いを持った俺は、とりあえずダンボールを色々な角度から見てみる。少なくともダンボールにおかしな部分や大きな凹みは見当たらない。それを確認した俺は、カッターでダンボールの封を切り、中身を確認しようとする。

「ごくり……」

 ダンボールのフタを掴んだ俺は、一瞬唾を飲む。そして、フタを広げ、ダンボールの中を見る。中にはスペーサーとして大量の細い紙きれが詰まっており、それを丁寧に退かす。

 紙きれの奥には、パッケージ(箱)に入った『囚われの姫実宝ウディア』がしっかりと納められていた。パッケージにも傷や凹みは無し。実に綺麗なパッケージだ。それに前後左右どの角度からも中のフィギュアが見えるように、大きくクリア部分が設けられている。

 ダンボールとは比べ物にならないほど丁寧にパッケージを開ける。ちなみに、フィギュアは箱から出して飾る派だ。そして『囚われの姫実宝ウニール』が、姿を現した。

「おお……おおおッ!!!」

 素晴らしいクオリティだ。美しい、それ以上の言葉が思い付かない。

 『囚われの姫実宝ウニール』は金髪ツインテールでエルフ耳をしており、露出度が高い格好で可愛らしいポーズを取ってくれている。天使だ。女神だ。見ているだけで幸せな気持ちになれる。

(ああ……セレンティウス・グランドの皆……俺は今だけは、幸せです……)

 俺は天井を見上げながら恍惚とした表情で涙を流し続け、そっとフィギュアの頭部に触れた。

 ポキン

 という音がした。

「…………………………え?」


 そして、床の上に何かが転がる音。俺は急速に涙を引っ込めて、恐る恐るフィギュアを見る。

 すると目に映ったのは、『首から上が無くなっても可愛らしくポーズをとり続ける囚われの姫実宝ウニールの身体』と、『床の上で微笑んでくれている可愛らしい囚われの姫実宝ウニールの頭』だった。

 絶句。

 ここまで来てから「カーマナイト・スピリッツ【KS】」がはたらくのかぁ……。正にぬか喜びだ……。こんな結末って俺は許せない。そう思ったが俺はなんとか、メンタルを持ち直し踏み留まった。

「ハア……まだ、ダンボールの中には限定ポストカードも限定ポスターも残っておる……彼女等ならきっと……成し得るだろう……僕の幸せの再来を……」

 クワトロとクリフの台詞を足して2で割ったような言葉を口にしながら僕は四つん這いになり、なんとかダンボールに辿り着く。そして詰まりに詰まった細い紙きれをかき分け、他の限定品を探す。

「…………ん?」

 ある程度ダンボールの中を(まさぐ)っていると、僕は再び違和感を感じる。僕はダンボールを持ち上げ、逆さまにして中身を全部ぶちまけた。

 そして出て来た物は、……紙以外の物は、何も出て来ない。

「……入れ忘れてる…………」

 俺は玄関で、あらぬ何かを口走っていた。そんな呆けた姿を見つけて実宝が飛んできた。

「どうしたの、圭祐、何かお届け物?」

 そう言って実宝はダンボールの中を覗きこんだ来た。

「ああっ俺にめったにもらえないプレグランントが来たんだけど……「カーマナイト・スピリッツ【KS】」のせいでなのか……せっかくの喜びが奈落の底……って感じで。はっはっはっはっ」

「そう、そう言う割には、圭祐とっても悲しそうだぞ」

 そう言っている実宝の横顔を見た時俺は言葉を失った。

 その横顔は今首が取れてた実宝ウニール姫とそっくりだとその時になって気が付いたんだ。名前だってそうだ。実宝は実宝ウニールの短縮形に思える。

 俺はそのまま考え込んでしまった。

 床に転がっているこのフィギュアの服装と言い、顔の造形と言いこのキャラは実宝その物だからだ。俺は引き籠っている心の寂しさから自分が好きなゲームキャラを元にして妄想でエア彼女を作り出してしまったんじゃぁないのだろうか……と。

 何度か否定した疑問がまた頭を擡げ様としていた。

「実宝……」

「なにぃ?圭祐、分かるよ圭祐の考えてることは、それならそれで良いじゃない」

実宝はニッコリ微笑みかけてくれた。

「実宝が自分で異世界から来たプリンセスって言ってるんだから、それを信じてくれてれば、実宝はとっても嬉しい」

 そう言われて俺はもう、実宝が俺が造り出した妄想だろうとゲームキャラとそっくりなお化けだろうと気にするのは止めようと思った。

「わかった、もう気にしないよ、俺の心の中の実宝姫……」

 俺はその後は無言で玄関に散らばったプレグランントのフィギュアの部品を丁寧に集めて箱に

戻して行った。俺と話してくれる実宝が近くにいてくれるなら、このフィギュアはいらない。

 処分してしまおう、そう思ったのだ。


 その日の夜、俺はまた夢を見た……

 俺はまた圭祐になっていた。それもとても幼い頃の圭祐に……。

 辺りの風景は、あまりはっきりとはしていない。何処かの夕暮れの公園のようだ。

 僕はその日、キョウちゃんにお誕生日のプレグランントをあげようと思っていた。

 何日か前に僕は、何時も仲良くしていて遊んでくれるからとキョウちゃんプレグランントをあげたいとお母さんにお願いした。

 お母さんは近所のショッピングモールに僕と一緒にプレグランントを選びに行ってくれたんだ。僕がキョウちゃんに選んだのは絵本だった。

 キョウちゃんはお花が好きだったからお花の絵本をお母さんと探して買ったんだ。それを本屋さんにプレグランント用に包装してもらったんだ。

 2人で約束した公園で待ってたらキョウちゃんはすぐに来た。

 僕が絵本をプレグランントしたらキョウちゃんはとっても喜んでくれた。その後でキョウちゃんのお家はお父さんのお仕事の都合でお引越しをすることになった事を知らされたんだ。

 僕はキョウちゃんとお別れだと知って大声で泣き出した。僕に吊られてキョウちゃんも大声で泣き出したんだ。

 夕方になって、そのうちお母さんとかが探しに迎えに来たんだと思うけど、その辺りの事は良く覚えていない。

 キョウちゃんは何処へ引越しちゃったんだろう。


 短い夢はそこで終わっていた。


 夢に出てきた圭祐の幼馴染の子って、今の高校の同じクラスの若槻揚羽なんだろうか?

そうだとしたら、学校に毎日通学していた頃の圭祐は、揚羽とキョウちゃんは同一人物だと覚えていたんだろうか?

 それに揚羽の方は、小さかった頃、圭祐から渡された絵本の事は覚えていたんだろうか?

幼い頃は、きっと揚羽は圭祐の事を好きだったんだと思う。

 そんな事を思っているうちに、俺はまた深い眠りに落ちて行った。


 学校に行ってから数日が経過したそんなある日……。

 いきなり玄関の呼び鈴が激しく押された。

ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン

ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピン

 この激しい鳴らし方、叩き方は誰がどう見たって若槻揚羽だ。

 俺が物凄い努力して、先日学校まで行った事は彼女も見ていなかったかも知れないが、それでも誰かから話程度は聞いているんじゃないか?それだったら、もはや彼女から学校に来いと言うしつこい誘いはしなくなるんじゃないかと思いたかった。

 それなのに何でまた揚羽は俺のマンションに押しかけて来るんだろう?分からない。俺は圭祐の記憶から、揚羽なる人物の印象を再検討してみた。

 以前からヤツは、スカートは校外にでるとほとんど太股を露わにしているくらい託し上げたギャルお決まりの超ミニを履いていた。バックは教科書とかが入っているとはとても思えない薄っぺらで、それを肩にだらしなく無造作に掛けていたように思う。そこにはバックと全くバランスのそぐわない不機嫌そうな顔の大きな猫のぬいぐるみが吊るされていた。携帯にもそれの3倍程度はありそうないろんなキャラクターのストラップの束がくっついている。関心は無かったが皆の話だと胸は大きいらしい。圭祐の記憶では高校入学当時既にEカップ程度だったらしい。

 圭祐を苛めてたグループのリーダー格 佐藤隼人は揚羽に絡んでたから、こいつら2人は付き合ってるんじゃないのか?

 学校では揚羽が俺を玩具にしようとちょっかいを出して来るから、隼人はそれが気に喰わなくて俺を苛めると思った事もある。揚羽も隼人と付き合うんならリア充な恋愛でもしてれば良いんだ。だれだってそう思うだろう。

 だとしたら、何で繰り返し俺の部屋に来るんだ。お前達の迷惑にはならないだろうが。

「学校に出て来なさいよ。来ないと放校処分にされちゃうんだからね」

(まだ、こんなこと言ってるのか)

 俺はそう思った。でも考えてみたらそれも当然に思えた。

(先生は俺の事クラスで説明してくれなかったんだな。それもそうか……一人の生徒だけ正当に休ませますとか、皆に言えるわけないもんなぁ)


 俺は揚羽が信じないと思ったが、一応自宅学習の許可が出た事を伝えてみた。


 鞍馬莉奈 5  に続く


そっけない態度で揚羽に答えた佳祐だが…。


慌てて上げているので、誤字とか記載ミスとか多いと思います。気づいたら教えてください。よろしくお願いします。

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