若槻揚羽 3
2時までに、続きを上げると言ったのに、タモリの10時間の録画とかつい見てしまった!!ええと、圭祐のお母さんがあれこれ世話を焼いてくれます。母親は良いですね。圭祐の根が優しい性格は、小さい頃に愛情を注がれてたからかな。
若槻揚羽 3
もしかしたら実宝は俺でも、見える時と見えない時が在るのかも知れない。
「圭祐ちゃん、そこにいるんでしょ?」
「いるよ、大体何時もいる。俺が部屋の中にいなかった事、ないだろ。母さん今寝てたんだ、ちょっと昼寝してたんだ。別に病気とかじゃないよ心配しないで、それで母さん何か用なの?」
俺は圭祐に成り代って、俺の存在には気付かれない様に巧みに振る舞おうとした。
「何?じゃないわよ。何回電話掛けても圭祐ったら電話口に出ないし母さん心配したのよ。用なんかなくっても母さん来ちゃうんだから」
「俺はどおってことないよ。この通り元気さ」
俺は、ゲームや同人誌の製作に夢中な時は集中しているせいか、めったに電話が鳴らないせいか、ほとんど電話の音は聞こえていない。何しろこの世界ではネットゲーは廃人育成ゲーとも呼ばれているし……。前の世界では比較的生活ペースが安定してた俺が、いつの間にか午後のこんな時間に昼寝してるのが良い証拠だ。
「圭君、最近は自分の事「俺」って言うのね。以前は僕って言ってたのに……それに痩せた?」
(はっ!!……)
この人はやっぱり圭祐の母親だ。鋭い!!
俺の喋り方が、以前の圭祐の口調とほんの少し異なるのに何か違和感を感じた様子だ……。俺はさりげなく答えようとした。
「ああっああっ少し気分を変えて、男らしくして見ようかなって思ってさ」
「そおぅ母さん、それなら良いんだけど。ちょっと心配でぇ……。もしかして、もしかしてよ、女の子でも連れ込んだりしてるんじゃないの? 何時も言ってるけどこの部屋は女子は出入り禁止なのよ」
そう言って、ため息を漏らした。
「圭君……男の子は童貞捨てちゃうと「俺」って言い始めるって聞いたのよぉ」
「どこでぇ?」
「TVでよ。都市伝説みたいだけど……」
そう言って彼女はとっととスリッパを履いてキッチンに上がり込み、そのまま居間に来て、じっと僕のベットを覗きこんだ。
「……」
俺は眼が覚めたばかりでまだボーっとして上半身だけ起こしてベットにいた。その体勢でぱっと彼女と眼が合った。
2人の間を気まずい沈黙が支配した。
「ベットの中に誰かいるの?」
唐突に彼女は俺におかしな事を聞いた。
「誰も……?」
急に彼女が何でそんな事を聞いて来るのか、意味が分からなかったが。
「膨らんでるのは?」
さらに彼女がそう聞いてきた。
「俺のお腹、何か?」
「ほんとにぃ――――?」
「あっこれは、膝を立てていただけ……ほら、ほら!」
「なーんだ、母さんほっとしちゃった。圭君お布団の中に女の子でも隠してるんじゃないのかなって思ってさ。ビックリ、ビックリ。それにその体勢で女の子が入ってるって事はあれでしょう?」
「母さん、あれって何?」
「あれはあれよ。フェラよ。それかぁフェラからの69かしら。圭君も年頃だからすぐそうなっちゃうと思うの。彼女出来たら」
「相変わらずだな、母さんの想像力は……」
「それはそれで彼女が出来るって良い事だと思うの、応援するわ。その時にはまず第一に母さんにも紹介してね。約束よ!! それにしても圭君、ちょっと見ない間に成長したのね。男の子って高校生になってもまだまだ大きく成るのね」
「もう成長するって言ってもその時は横にだけどね……見ない間って母さん言うけど2日前にも母さん来て似た様な事を事、言ってたよ」
俺はめんどくさそうにそう答えた。
「そうだっけぇ? 圭君ーーーー」
彼女は俺の寝ているベットに、いきなり外出着のまま飛び乗って来た。布団の中の俺を布団越しに抱きしめ、豊満な胸に僕の顔を押し付けてガッチリとホールドする。
「もぉ~! 圭君たらメールも返さないで、ママ心配したんだからね!? ママの大事な圭君に、何かあったんじゃないかって!」
彼女は涙目になりながら俺の頭に頬をすり寄せ、これでもかという程、胸を押し付けて来る。俺は息をするのも苦しい状況で、なんとかモゴモゴと話す。
「……悪かった、悪かったよ、母さん。謝るからさ、とりあえず……俺から離れてくれないかなぁ」
彼女の名前は村雨千夏。
圭祐の実の母親だ。彼女はセミロングの茶髪を三つ編みで纏めており、俺より少し高い身長にロングスカートとリブ生地の縦セーターを着込んでいる。年齢は40手前という所だが、全くそうは見えないほど顔は若々しい。
出る所は出てくびれる所はくびれている。プロポーションも崩れていない。なんでも本人が言うには、若い頃からほとんど顔と体型が変わっていないらしく、近所では評判の美人奥様らしい。
そんな外見の奥様なので異世界から来た赤の他人の俺は全く血が繋がっていないのだからスキンシップされるとまったく戸惑ってしまう。他人なんだから。
俺は彼女をベットの上からそっと降ろして立ちあがってキッチンに向かった。彼女は今の俺との触れ合いだけでは全然スキンシップが足りないようだった。俺の背中にあれこれと話し掛けて来たり、指で背中に字を書いたりして触って来る。
「今、今、何て書いた? 圭君?」
「愛してる、でしょう」
「そう、よっく分かったねぇ」
「分かるよ、母さんの書きそうな言葉くらい」
「そうなんだ、つまんない」
「そんな、ラブラブの新婚家庭みたいな真似しないでいいから、息子に対して」
「も~そんな事言ってぇ、圭君ってばどうしてメール返してくれないの? ママ、圭君がなんて返してくるか楽しみにしてたのにぃ――――」
「そりゃあ『足の爪は小指から斬る? 親指から切る?』なんてメールがいきなり来たら、もうどうでもよすぎて返す気も失せるよ」
「どうでもよくないわよぉ! 足の爪を小指から切るか親指から切るかで、その人が将来結婚出来るかどうかが分かるってテレビでやってたもん!」
「足の爪次第で結婚出来るか決められるって、凄く嫌じゃない? っていうか、母さんいい年してまだそんなの信じてるの?」
「勿論信じてるわ!TVで高名な心理学の先生が言ってるのよぉ。 それで、圭君はどっちなの!?」
彼女はズイっと顔を近づけてくる。相変わらずTVバラエティーや女性週刊誌の世界に生きてるなぁ……。俺は仕方なく、彼女に呟くように答えた。
「……………………親指」
そう答えた瞬間、彼女は床に崩れ落ちた。
「やっぱり、いやああああああああああっ!!! 圭ちゃんが結婚しちゃうううううううううううっ!!!」
「しないから!! 結婚する相手なんていないから!! 母さん落ち着いて!?」
彼女は両手で顔を覆い、絶望しながら泣き叫ぶ。
……そう、彼女はいつもこんな感じなのだ。引き籠もってる俺が言うのもなんだが、圭祐に対してとにかく過保護なのである。そのあまりの過保護っぷりに、俺は彼女に心中密かに『ムスコン』という称号を与えている。圭祐の記憶では彼の家庭は3人家族で父親も健在なのだが、なんでも父親は随分と長い間海外勤務が続いているようなのだ。
3人の家族仲はとても良いらしく、故に父と会えない寂しさから彼女は圭祐に対して過剰なスキンシップを取りたがるようなのだが……。何度も言う様だが俺は赤の他人だ。
「そうそうこれ、圭君が一人住まいで栄養失調にでもなったら大変だと思って、食糧沢山買い込んで来たからキッチンにみんな置いて行くからね。どんどん食べてね」
そう言って彼女はインスタント食品、レトルト食品満載のダンボール3箱、栄養ドリンクやら飲み物の入ったケース1箱キッチンに運び込んだ。
無論、僕も手伝った。
「これじゃあ、そう何日も持たないわよねぇ又来るから、沢山食べてね」
息子の引籠りより、女の子連れ込んでいるかどうかの方が心配って言うのは、いかにも彼女らしいけど……。それにしても、もうちょっと別の心配の方向もあるんじゃないのかなぁ。
俺はダルそうに立ち上がって、彼女が玄関に置いて行った食糧のダンボール箱を開けて見た。そこにはカップラーメンやピザなどがぎっしり詰め込まれていた。
「いくら俺が調理をめんどくさがると言うのを知っていたとしても、これは無いんじゃない……」
(彼女から見たら何故か肥満する事は気にならないのだろうか?この食材を食べ続けたら俺は更に確実にブタ化する……それとも今が肥ってないなら大丈夫と思っているのか?)
俺はテーブルに向い彼女の入れてくれたお茶をすすりながら、さらっと聞いて見た。
「俺がここんとこずっと部屋に引き籠っているだろう。母さんはやっぱり少しでも早く俺が学校に復帰して欲しいんだよね……?」
少しの沈黙の後、彼女は答えた。
「……どっちでもいいわ」
その答えは意外にあっさりとした感じだったので、俺はビックリした。
「えっ?」
「どっちでも良いって言ったのよ。だって圭君、お部屋に引き籠っているのにはわけがあるんでしょ。圭君なりの」
「うっ、うん……」
俺は、何とも言えずに曖昧な相槌を打った。
「それだったら、母さん圭君の事応援する。
圭君が学校に通いたいと思うまで何時までだって引き籠ってて構わないから」
「母さん……ホントにそれで良いの?」
俺は思わず聞き返した。
「圭君は母さんの子だもん。どんな状況になったって最後の最後まで母さんだけは圭君の味方だから」
彼女はそう言って真っ直ぐに俺を見た。
「母さん」
今の千夏さんの言葉はストレートに俺の胸に突き刺さった。俺は眼の前の圭祐の母親千夏さんが本当の自分の母親に思えてきた。
さっきまで俺は彼女の事を「ムスコン」だとか、ベタベタしてきてウザいとか思っていたのにだ。
すいません!! 貴方の気持がなんにも分かっていなかった。
母親って言うのは、自分が大人になっても、例え酷い境遇に陥ってたとしても変わらず自分を愛してくれる存在なんだ。千夏さんは圭祐にとってたった一人の母親なんだ……。
そう思うと小さい頃に失った俺の母の事を思い出してしまい、思わず涙が頬を伝わって流れ落ちてきた。
「母さん、母さん……」
俺は、そう言って湯呑を両手で握りしめて俯いてしまった。この時が来るまで俺は随分長い間、涙を流す事を忘れていた様に思う。それが圭祐の母親にたった今、話をされただけでもう何がなんだか涙が止まらなくなってしまったのだ。
「母さん、少しでも早く、少しでも……早く俺、学校に復帰して見せる。頑張るから……」
俺は込み上げてくるものを押さえ、やっとそれだけを彼女に伝える事が出来た
「圭君……良いのよ無理しなくたって。そのうちに行く時には学校行くでしょう」
そう言って千夏さんはテーブルの俺の向いに座って、ゆったりとお茶をすすって微笑んでいる。
ひょっとしたら彼女は圭祐の事は、何でもお見通しなんじゃないのか?
俺の意識が圭祐一人だけでないことだって実は分かってるんじゃない。女子禁制の部屋に十宝がいることだって……。..俺は一瞬そんな思いに駆られてしまった。
この人は圭祐が、どうして引き籠っていると思っているのだろう。
俺の意識が覚醒する少し以前から圭祐はこの部屋で引き籠りを始めていたのだから。その原因はおそらく学校で彼が遭った酷い苛めが原因だと気づいているのだろう……。
記憶を共有している俺と圭祐だが、彼が引き籠った直接の決定的動機がなんなのか? 今もって俺は不可解な部分がある。そこの部分は圭祐が思い出したくないみたいでまるで雲が掛ったようで未だに見えて来ない。
しかしいずれそれも分かる日が来るだろう。
今 圭祐には俺 ピクサー・グラントが入り込んではいるが、肉体全てと意識の半分は圭祐なんだから、ほとんど4分の3は彼とも言える。
今のままだと圭祐の精神状況の抜本的解決には程遠いのかもしれない。彼女の気持ちに報いる為には、圭祐を健全に学校に復帰させるところまで持って行かなければ。今入れてもらったお茶のお礼が出来ない。これから俺は改めて頑張っていかないといけないんだと思った。は険しく遠いけどやるしかない、俺の魂は勇者なんだ!!!
俺はこの時、心中改めてそう誓ったのだ。
それまで、この体お借りします、圭祐のお母さん!!!
俺が一人で感傷に浸っていると、彼女がキッチンに立ち手早くギョーザを2人前焼いて、米を炊いてチャーハン山盛り作ってくれた。
「沢山食べて、ね!! 圭君」
そのテーブルに置かれた常軌を逸した食物の量を見て俺は改めて思った。相撲取りの食事だ……。
やはり、この人は俺をブタに戻すつもりだ。カロリー計算無視の愛情なんだぁーーーー!!
第5章 鞍馬莉奈 に続く
予告 鞍馬莉奈という生活指導の先輩ははっきり言って事をややこしくするめんどい方です。少なくても今の圭祐、グランにとって。せっかく陰陽道を極めようとしているのに。次回のアップは、20日の20時くらいです。