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若槻揚羽 2

圭祐は揚羽の襲来で精神的に大きなダメージを受けたようだ。何故彼女が来るのか?それがなぜ今日なのか?揚羽に関しては、その理由も筋道もまるで想像がつかない。そんな彼女を帰した後、圭祐は眠りに就いた。

 若槻揚羽 2


「もしかしたら、今日は見られるかもですよ。

 圭祐は実宝の姿見る事が出来たし……実宝容姿には割と自信ありです」

「そりゃ楽しみです。お休みなさい実宝姫」

 そう言って俺は布団にもぐりこんだ。今度こそ安らかな昼寝が出来そうだ。


 実宝の言葉が暗示になったのか俺は何時もと少し違う夢を見た。

 しかし残念ながら実宝は出て来ない。

 これは圭祐の夢だ。

 俺が転生して来る以前の圭祐の記憶の夢なんだろう。


 場所は承徳高校の2階の廊下のようだ。

隣のクラスの不良グループが、僕の方をじっと見ている。その雰囲気からすると、どうやら廊下を向こうの方に歩いて行かない方が良さそうだ。

 けど、困ったなぁ。このチラシを2階の教務室に届けろって担任教師に言われている。他に道はないかなぁ……。

 僕は明かに困ったような顔をしていたんだろう。俺と眼が合った途端にニャついた厭らしい笑みを口元に浮かべながら4、5人の男子が僕の方にゆっくりと歩き始めた。

 まずいよマズイよ、この展開は……。

うちのクラスの誰か、出来ればうちのクラスの担任教師とかタイミング良くこの廊下を通り掛ってくれないかなぁ。このまま彼らとぶつかると確実に僕は酷い目に会わされる。

 大人しくしていても、全身打撲とか、手足の骨にひびが入る程度は覚悟しておかないといけない。

 僕はチラシの束を抱えたままでその場から1歩2歩と退いた。すると階段を上がってくる生徒達の一人と眼があった。

 ヤバい……最悪だ。そいつは佐藤隼人、僕のクラスの札付きの不良だ。同種の男女には人気があるようだが、そのグループは何時も休み時間は同じメンバーで固まっている。そいつらなりに気の合う仲間ってところだろう。その気の合う部分が僕にはメチャイタイんだが。困った事に僕を苛める事を彼らは共通の趣味と考えているらしいのだ。

 隼人ってヤツの容姿は一見爽やかな感じの金髪イケメンで背丈も高く、制服を着崩してネックレスやブレスレットとかを身に着けている。所謂内面は陰湿なDQN(ヤンキー)なんだが……。

「なんだよ~、ケー坊、最近俺らと遊んでくんないじゃん。眼が合うとさっとどっかに行っちゃってさぁ。逃げ足はええよなぁ。この後ちょっと授業サボって俺らと遊びにいこうグラン」

 隼人がケー坊と呼んでいるのは、僕の事だ。そう呼ばれるだけでも酷く不愉快なんだが、こいつに妙な猫撫で声で下手に出られて、摺り寄って来られると碌な目に遭わされないと恐ろしくなってしまう。隼人が僕に近寄ってきた。

 逃げ道を塞がれたぁ。

 もうだめだぁ。

 前門の虎後門の狼ってヤツだ。

 逃げられない。 

 しかもこのチラシを教務室に届けないと教師に怒られるのは僕だ。

 そんな時だ。僕に第3の厄災が降り掛かってきた。


「お・お・や・ま・け・い・す・けええええええええええッ!!!」

 ズドドドドドッ!!! 

という猛烈な効果音をまくし立てながら、隣のクラスの不良グループを押しのけて、僕目掛け1人の女子生徒が突撃してきた。

 僕はその女子を見た瞬間、今にも増して顔面蒼白になった。

この女子生徒こそ僕が絶対に休み時間には会いたくないと念じている人物、鷹乃(たかの)(じま)揚羽(きょうこ)

「おい、雄奴隷、御主人様が呼んでいるのにどこ行ってるんだ」

 そう言って僕から5メートル程の距離から、僕を指差したのだ。

「えっえっーーーー!!僕の事呼んでましたか?」

 彼女は何時の頃からか僕の事をそう呼ぶようになった。なんて周りが聞いたら恥ずかしい呼び名なんだ。

「休み時間になったら、御主人に土下座して、お仕事をいただきに来るんだろぅーーー。そう躾けてますよね、雄奴隷 圭祐のことは!!」

 話し方自体かなりキレてる……。

「そんな事、前に言われたかも知れないけど……幾らなんでも……無理……無理だよ」

 僕は明かに動揺していたが、彼女の高圧的な態度には反抗的にそう答えてしまった。

 その僕を睨みつけて彼女は……

「圭祐ぇぇ、首輪はどうしました?今日から学校では何時も付けると約束したよね?」

 そう言って揚羽は自分の首の周りを右手で探るような手付きをして見せた。僕にはそれが何を指しているのか分かった。

「昨日帰りしなに渡されたあの赤いヤツ……ですよね?」

「そう、服従の赤い首輪よ」

 周りでその会話を聞いていた隼人や他の不良達は揚羽のテンションの高さに呆気に取られたようだ。しばし呆然と僕達の成り行きを見ている感じになっている。

「あれは、幾らなんでも学校じゃ付けられな……でしょ……」

 僕は両手を前に出して無理と言う仕草をした。必死に説明している顔が真っ赤になって額に汗がにじんで来ていた。

「学校で付けるから、校内での主従の関係がはっきりするんでしょう」

「ええっーーーーー!!」


「今直ぐ付けなさい!!」

 揚羽は絶対に逆らえない高みから僕に命令を下した。

「はっ……はい」

 僕の口から自然にその言葉がこぼれ出した。

 僕は彼女から与えられたそれを首に巻きつけるのがとても屈辱的に感じたが、もはやこの場で言う事を聞かないと、どうなるか分からない雰囲気だと感じられ、言われるままにその首輪を自分から首に巻いた。

 そうして、校舎の廊下の窓に映った自分の姿を見ると、それはまるでSMプレイに出て来る奴隷そのものに見えた。こんな玩具の首輪一つで人の人格ってこんなにも貶められるのか……僕は驚いていた。これでペニスを切り取られたら、もう「家畜人ヤプー」だ。

 僕はM体質ではないんだろう。そんな想像をしても、この先自分に起こる悲劇には不安と恐怖しか湧いてこなかったからだ。快感なんて何一つ感じない……。

「どう、圭祐。これではっきり分ったでしょう。お前は御主人様の奴隷だってことが」

 そう言って高笑いする揚羽に周りの不良達は明かにドン引きしていた。

「だから、圭祐は私の言う事に絶対従わないといけないのよ、皆わかった!!」

 周囲に沈黙が走った。

「さぁ圭祐、御主人の靴舐めろ!!絶対服従の証よ!!」

 揚羽が僕を怒鳴りつけた。

(僕は言う通りにしたのに、この上まだ命令する。何が気にくわないって言うんだ)

「げっ!!そ……それはさすがに無理……」

 僕は声に出して、拒絶の意思を示した。

「やれよ、それが奴隷の生甲斐でしょう。首輪だって嵌められたんだからさぁやれば出来るよ、慣れ、慣れ!!」

「おい、おい、おい、揚羽、そこのケー坊には俺らがちょっと用があるんだけどさぁ。そう言った奴隷ごっこはケー坊が手隙の時にやってくんない」

 隣のクラスの不良のリーダーが口を挟んで来た。

それには、隼人がすぐに言い返す。

「ちょ、ちょっと待てよ。2年B組、今そいつに眼付けたのは俺らが先じゃんか」

 隣のクラスの不良グループにそう言っている隼人に、揚羽が更に割り込む。

「なに言ってんの、こいつはB組の玩具なんだから、あんた達は自分のクラスで玩具探したらぁそれとも、人のクラスに来ないと遊び相手もいないのかしら?ふふん」

揚羽は腕を組んで顎をしゃくりあげ、相手を見下すような細い目線で睨みつけながら、そいつらのリーダーの胸板をグイグイ押して行く。

「なぁんだとぉーーーーこうなりゃぁ女だって容赦しねぇ」

 

 揚羽が女生徒と言え、彼女の男を舐め切った威圧的な態度に不良のリーダー格が切れ始めた。今にも手を挙げそうだ。

「おい、お前らほんとカンけーねぇー」

 隼人が揚羽の肩を持つ。

 3者が一触即発の空気に包まれた。

「おい、雄奴隷、私がさっき教務室に持ってけっつーたチラシまだ持ってんのかぁ!!」

 そこで揚羽はいきなり話題を僕の方に振ってきた。

「ははははっ、いいいいーーー」

 僕はどうやら自分が原因でたいへんな揉め事が勃発しそうな勢いに、手足の震えが止まらなくなり始めていた。

「もたもたしてんじゃねぇよ、雄奴隷、教務室に行け」

 揚羽にそう言われて僕は正直助かったと思った。

「はははいいーーー!!」

 僕はがくがく震える足を何とか動かして、廊下を教務室に向って進もうとした。

「待てよ、こらぁお前がいなくなったら、話が始まんねえだろ」

 僕の脱出を不良が押し留めようとして来る。

「あたしが頼んだ用事なんだけどさぁーーー服従の首輪を付けた雄奴隷にぃーーーー」

 揚羽が不良に言い返す。

「関係ねえ」

「こらぁ」

 隣のクラスの1人が遂に隼人の一派の一人に手を挙げた。

「ちょっちょっこれ止めない。こんなくだらねえ玩具皆で取り合って、短い休み時間に廊下で騒ぎ起こすのバカでしょう。カスの為に俺らが教師に処分されっグラン」

急に冷静になってそう言って、その場から1歩引く姿勢を示したのは隼人だ。陰湿だがクールな面もあるようだ。隣のクラス連中ほどバカじゃないみたいだ。

「あっああっそうだな、こんなやつの為に俺達が争うのはバカバカしいな」

 隣のクラスの不良リーダーも、ちょっと冷静さを取り戻したようだ。

(初めっから、そうだよ、バカじゃないの)

 僕は思ったけど、じっと下を向いて誰にも眼を合わせない様にしていた。こいつらはコンプレックスが異常に強い。だから視線が交わると反抗的だと感じる様だ。

「揚羽、そういう事、そういう事、大人しく次の授業に行きましょう」

(そうか……隼人のヤツは揚羽に好意を持ってるのか。それで揚羽が傷つきそうなので喧嘩を避けたのか)

 僕はそう思った。この際僕にとって隼人が誰を好きかなんてどうでも良い事なんだけど……。

「おらあ、逃げんのかぁ、掛ってこいやぁ」

 揚羽だけはまだ血の気が収まりきらないようだった。

 俺は震えの止まらない足を何とか前に動かして、素早く不良達の間を抜け2階の職員室に向って急いだ。僕の後ろで隼人と揚羽が何やら言い争っている声が聞こえてくる。

 今日は何とか、苛められずに済んだ。


 これも2組の不良グループの間に後から割り込んで来て、事態を余計ややっこしくしてくれた揚羽のおかげかも知れない。そう言えば揚羽はおかしなこと言ったな。チラシを「私が運べって頼んだ」のような言い方したよな。

 ……でもそれは、僕の勘違いかも知れないな。

 それにしても隼人や、隣のクラスの不良も怖いけど揚羽は僕にとって最大の天敵に違いない。最上段の視点から精神をボロボロになるまでメッタ撃ちに来るヤツだから……。

 神じゃない、正真正銘の悪魔だ。

 僕がマゾ気質ならともかく、僕はそんなんじゃないと思う。

 自分では分からないけど揚羽に命令されるのだけは、他の不良連中とは違う様に感じるんだ。

 俺、グランはぼんやりと夢の中で感じていた。これって、揚羽は圭祐に対してすこしMっぽいのかなぁ?

 学校に来て毎日がこんな緊張の連続じゃぁ、学校行くのホントに嫌になっちゃうよ。

 そんな事を考えながら教務室の扉を開ける辺りで、夢は終わってしまった。

 今のは、圭祐の夢、俺と圭祐が同時に見た夢…。

 起きたら、多分半分も覚えていない…。二人とも…。


 さっき寝込む直前に、俺は揚羽から突然の激しい強襲を受けた。だからこんな夢を見てしまうんだろう……それにしても今の夢の中の揚羽……朝の彼女とまたちょっと雰囲気違ってたなぁ、何でなのかなぁ……俺、グランは、再度深い眠りに向う薄れゆく意識で、そんな事を考えていた。


 午後になってベットの上で眼を覚ますと、近くに人の気配がした。実宝じゃない。彼女は今の僕の視界からは姿が見えていない。圭祐の母さんが鍵を開けて部屋に入り、玄関でブーツを脱ぎながら居間のベットで寝ている俺をチラチラ見て微笑んでいた。

 良かった。

 また鍵が壊れてたとかで揚羽に部屋に入られたりしたら、圭祐をなだめるだけでも一苦労だ。

 まったくいつも圭祐の母親は突然の訪問だ。最も固定電話を鳴らされても一向に出ようとしない圭祐がいけないのだが。

 いくら俺がシカトを決め込んでも、彼女は圭祐の母親なのだからこの部屋の鍵を持っている。何時でも出入り自由ってわけだ。

 何時もの事なのだがこの人の突然の訪問には驚かされる。俺はベットの上で上半身を起こして再度実宝の姿を眼で探した。視界の範囲には彼女は見当たらない。圭祐の母の登場に気を使っているのか……。俺には見えるが圭祐の母さんに実宝が見えるとは思えないのだが……。

 

若槻揚羽 3に続く

圭祐の母が部屋にやってきた。それは普通のことなんだろうがグランから見ると十分若くてセクシィーな女性に見えた。続きは20時2時までにはアップします。

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