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ジッポー(十宝) 4

ジッポーと圭祐、グランは話し合ううちに相互の立場をおおよそ理解し始めていた。ジッポーの話は以前から彼女は部屋の中に居たようで、それが圭祐の居心地の悪さにつながっていた。圭祐は私生活を見られていたのを知るのは、相手が女の子だったら気になって当たり前だと思った。

  ジッポー(十宝) 4  


 俺の住んでいた【セレンティウス・グランド】は荒廃していた。村にも女の子って少なかったから……。

 自分の姿を女性に見られる事すらほとんど経験がなかった。圭祐が恥ずかしがっている女の子にどこからか見られて観察されその感想を克明に喋られる事など、無論俺にとっても初めての経験だ。ただ、漫画を読まれても何も感じないのは、漫画を描いている作者が俺が来る前の圭祐だからだろう。

「ああああああっーその辺り全部見てたんだ。そ、そうなんだ。なんて恥ずかし事するあぁー実宝はぁ。しかも、そこで僕の顔が【良い味出してる】とか感想言うなぁ!面白いのは僕の顔かぁー漫画だって言って欲しいかったぁ!!そうだろう?」

 圭祐がまた、実宝にしゃべり出した。

 そうか……、漫画をこっそり読まれた事より、描いている姿を見られたのが恥ずかしいのか。   

 俺は作者の立場の圭祐の感情の高ぶりの原因が少し分かった気がした。その圭祐の気持は実宝にはまるで伝わっていないようだ。

「まず顔、です」

「はぁはぁはぁ……どうも、喜んでいただけた様で、ありがとうございます」

「こちらこそ、楽しませていただいております。だから漫画もちゃんと読んだらきっと面白いんだなぁって思ってるの。」

 実宝は嬉しそうにそう言った。

「面白いよ、僕の描く漫画は。圭祐、割とこの道じゃあ才能あると密かに自負してるみたいだし、他にはゲームくらいしかやる事ない人生だし……圭祐はこれに掛けてたと言っても過言っではない。うおっほん」

 俺は実宝に対して、圭祐を弁護しようとそう言った。自分の事を弁護するにはなんか変な言い方になっちゃったけど。

「漫画きっと面白いと思うなあ。実宝、ストーリーは大体は分かってるから……」

「何で?」

 今度は俺の顔は、ちょっと不安で青くなった。

「だって圭祐が描きながらセリフは全部、口に出して喋ってましたから」

「ああああああーー」

 圭祐が叫び出した。彼は完全に表面に出て、僕はもうお終いだと言わんばかりに頭を掻き毟った。

 俺は過剰反応に思えるのだが……オナニーを何時も覗かれてとかじゃないのに……。

 

「聞いてると面白いんだよ。お芝居みたいに迫力あったり、泣き声になったりして」

 実宝は面白そうにそう言った。

「僕は面白くねーよ。ただ恥ずかしいだけじゃん、ああああー実宝はみんな見てたのね」

「特にHシーンの辺りの圭祐の迫力ある演技は……良いではないか。止めて下さいお代官様ぁ……」

 実宝は覚えている僕の同人のセリフを僕の表情を真似て再現し始めた。

「やめてぇー僕が悪かったです!!御免なさーーーい。ホント、ホント勘弁して下さい」

 圭祐は又しても頭を掻きむしり、耳を塞いで床を転げ回った。居ても立ってもいられないとはこの事だ。

 彼にして見ると、自分では初めて知り合ったと思っていた女の子が、それまで彼の恥ずかしい姿をずっと見ていた事が明かになったと感じている様なのだ。

 可哀そうだけど、俺は

(既に見られてたんだから仕方ないと思った。圭祐……何事も強く成らないとね)

圭祐が頭を床に擦りつけて、実宝に誤り続けている。謝ること無いだろう。

 それに対して、実宝は……

「そんなぁ謝られても……」

「もぅやめよう、その話題、ぐったりだよぉ……」

「ええー漫画読ませて欲しいです。」

「だめ。読まなくても大体分かるって今、言ったでしょう」

「そんなあーくしゅん……

 私このお部屋に来て住み着いてから随分経つの……。以前圭祐が描いていたお話も覚えてるんだよ。宇宙旅行を続けていた主人公が無重力のストレスと偏った宇宙食のせいで、なんと超デブになってしまうんだよね。栄養の偏った宇宙食って可笑しいよね。なんだかありえないーーー」

「良く覚えてるじャないの、そんな古い作品」

「はい、実宝は圭祐先生の大ファンですからぁ」

 そう言って実宝は微笑んだ。

「嬉しい事言ってくれちゃって」

 それは俺が来る前に圭祐が描いていた漫画なのだが、過去の作品を覚えていてもらえると嫌な気はしないようだ。

「その前の作品は、地底探検に出た主人公が地底人に拉致されて、食用にされかかるのよね。沢山ジャンクフード食べさせられて……どんどん肥らされて……歩けなくなっちゃうの」

「そうだったかなぁー?」

「それで、主人公が地底の牢獄から這いずって脱出して地上に生還し、ダイエットを始めると言うお話だった。わくわくしましたよ、私」

「……僕って誰かにデブにされていく話しか描いてないみたいじゃん。実宝、暗にその辺りの作風批判してないか?」

「そう言えば、その前のお話は痩せっぽちの相撲取りが、横綱優勝目指して食べて、食べて、又食べて……」

「もう良い!!言わなくて」

「すみません……」

「そんな昔から俺はデブに拘った作品創りを続けてたんだ。気が付かなかった、実宝に言われて初めて分かったよ」

(言われなくても、気が付くだろうが……俺だってそんな事圭祐の同人誌読めば既に分かってたよ)

『そうか……そうだよな。僕はコンプレックスを持っていたんだ。気付かなかった……』

 何か、ホントに圭祐は気が付いて無かった様だ。読者が読めば、てっきり自虐ネタ好きな作者だと思うだろうに。

(でも、もう実宝から見たって痩せたんだから気にする事ないって)

 俺は圭祐を励ました。

『う、うん、そうだよね』

 圭祐は納得してくれたようで、錯乱していた気持ちも少し落ち着いてきた様だ。

(良かった……)

 俺は素直にそう言った。

(圭祐、一歩大人になったみたい。素敵だよ)

 実宝もニッコリ圭祐に微笑みかけた。

『もう、良いよ。ありがとうグラン、気を使ってくれて』

圭祐は頭を掻いている様な言い方をした。

「最近、実宝が気にしてるのは、圭祐が一人お芝居を始めた事よ」

「えっ?」

「実宝が上から見てると、口の中で何か独り言みたいなのを呟いていたかと思うと、その後でまた違うことを、言い直したり……なんかおかしくなっちゃったの?」

(実宝はずっと部屋に居たって言うから、俺と圭祐のやりとりをずっと見ていたのか……)

 圭祐も言った。

『そりゃあ、頭がおかしくなったと思われても仕方ないかも……』

(ありのままを説明して、分かってもらうしかないだろう)

 と俺は言った。圭祐もそれには同意してくれた。俺は異世界からこの体に飛び込んで来た一部始終を実宝に説明を始めた。

 その説明を聞いたジッポーは、

「にゃあ?」

 実宝の反応は予想どうりだった。

「もう一度言う。俺は異世界で魔道士に掛けられた【KS】という魔法でこの世界に飛ばされて圭祐の体に飛び込んだ。

 以前は筋骨隆々の選ばれし騎士で勇者だったが、圭祐の意識と話し合いながら彼の障害を取り除く準備をやってるところなんだ。その為の筋トレなんだ!」

「圭祐……言ってて超空しくない?それってお部屋に引き籠っているうちに、2重人格が生まれちゃいましたと説明してるようにしか見えないんですけど」

「実宝が言うな。実宝だって体無いのは一緒でしょう、しかも俺と同じ異世界から飛ばされて来た口だろう」

「そこは、そうだよねぇ」

「そう、だからグランと圭祐は2人で一人なのさ」

「分かった。そういうことに受け止めます。物分かりの良い実宝は」

 そこで突然圭祐が表面に出てきた。

「ところでさぁ気になってるんだけど、実宝、実宝が愛してるって言ってくれたのは、圭祐?、グランどっちなの?」

(おい、圭祐……以前からこの部屋で見てたって実宝は言ってるから、聞かなくても分かる。実宝が気に入ってるのはお前の方だよ)

 と俺は心の中で言った。

「実宝は……実宝は……2人の区別がまだ出来ないのね」

「あっそう……」

 実宝の答えにがっかりした様で、そう言って圭祐は心の奥に引き下がった。

「ところでぇ、圭祐が筋トレ繰り返してこんなにシェイプアップしてまで、外出に備えるって、なんでなの?」

 実宝が聞いて来た。

「……それが、それが魔法使いがジーハットに掛けた恐ろしい力【KS】に対抗する為なんだ!!あっあっあっ―――ホントに恐ろしい魔法だよ……!

 俺の周辺に突発的な事故や不幸な偶然を起こさせる魔法【KS】。

 俺はたぶん実宝は既に知っているだろうと思えるこの部屋の中で起こった細かい事件の数々を【KS】を理由に説明した。

「そうだにゃぁーもしそんなすっごい偶然が相手だと筋トレなんて効果あるのぉ?」

 必死な俺の説明を実宝は少しは理解したのか、そう聞いて来た。

「やらなければ変わらないんだ。て言うか、その顔信じてねえだろ、俺の言ってる事―」

「引き籠りが長いと病気も重たくなって来ちゃうんだなぁって……圭祐かぁいそうだにゃあーごろっ

実宝の理解だと、ゲームプログラマーが納期に仕上がって無い時、企画のせいにするとか、そういうお話でしょ?」

「違う!! なんだか突然かなり業界よりな喩だけど。もう良いよ、俺を一人にしておいてくれ。消えろ俺の幻影よ」

 俺はこれ以上彼女に説明を繰り返すのがだんだんめんどうくさくなって来てしまった。

 実宝の言う「それって圭祐の妄想でしょ」みたいな表情も、見てると何かイラッとさせる。

「でも実宝は存在しますって。しっかりとぉー。いやマジで」

「そんな言葉何処で覚えた」

「あの辺りに山積みになっているコミケのエロ同人」

「読んでんじゃないかよ、俺の」

「だってあの辺りは捨てようって圭祐言ってたし」

「言ってた……確かに。それも聞いてんじゃねえかよ」

「へっへっへっ興奮しましたグラン、旦那」

「その言葉づかいヤ・メ・ナ・サ・イ!!」

「実宝」

 俺がちょっと眼を離した隙に実宝のヤツは俺の近くからフラッと離れて以前即売会で購入し、さっと眼を通して、内容が出来が悪いと仕訳して捨てようと部屋の隅に積み上げていたエロ同人誌を読み耽っている。

 その姿をじっと見つめている俺の冷たい視線に気が付いたようで実宝が聞いて来た。

「なーにかにゃ」

「エロ本面白いか?」

「面白いー特にこの擬人化したHがカッ飛んでて、分けわかんなくてすっごいー」

「どうーれ、見してみ」

「東北新幹線に激しく後ろから挑みかかる上越新幹線と踊り子3号」

「確かに、このショトは衝撃的かも……かつて見た事のない……て言うか、完全な列車脱線事故だろう、この絵は」

「そう言われるとそうかも……

 いや、いや、いや、そんなんはどうでも良いから。

 俺が聞きたいのは、実宝はどうして今日になって姿が見える様になって来たのかってことよ。今までは同じ部屋に居ても俺からは、声も聞こえなかったし、一切見えなかったんだから」

「分かんないよ、実宝には……急に実宝の声も聞こえる様になっちゃってさぁ……」

「そうなのか……」

 俺は実宝の出現で今日は普段と違ってメチャ興奮したみたいで、かなり腹が減っていた事に気が付いた。何しろここ数日トレーニング以外は部屋から動かず、休む時はベットの中からなるべく出ないで、ゲーム程度しか頭もほとんど使っていない。

 さすがにそこまで動かないと「カーマナイト・スピリッツ【KS】」は働き難く成るようで大した不幸の偶然には見舞われなかったんだ。

 此処は気分を替えてキッチンにでも行って母さんの差し入れてくれた「――ジャンボピザ」とコーラでもガッツリ頂こうかと思ったんだ。

 実宝に背を向けたその時、僕は意外な発見をした。

 実宝はエロ同人誌を普通に読んでいる。普通にと言うのは、興奮してないとかそう言う意味じゃあなくて、意識体やら、呪縛霊やらが本を手に持てるはずはないのだから。実宝の実体化は物理的干渉が出来るレベルなのだ。

『すげええ、そう言えば少しの間だけだったけどバスルームでも背中擦るのにタオル持ててたし』

(コリゃあ上手くすると、料理とかを作ってもらえるかも知れない。揚羽だって作れたし)

 俺の空想は俄かに現実的な方向に向って突っ走っていった。

(想像力貧困といわば言え。この部屋の中だけで生活を続けていると食事は最大の関心事になって来るのだ。他にもあんな事や、こんな事や色々頼める可能性が出て来たと言えるだろう。

 いい加減この生活にも飽きて来た所だ。

 もしかしたらこの実宝の出現がこの部屋の生活の転換のきっかけになって行くのではないだろうか……)

 それに物理的干渉が出来るって事は、実宝は唯の霊体じゃあ無いことの証明にもなる。

 いや、いや、零体の中にもポルターガイストみたいに物体を動かすヤツだっているにはいるのだ。実宝が物を持つ事が出来たとしてもそれが肉体を持つ証明にまではなってないだろう。

『おいグラン、実宝に何をして欲しいんだ』

(揚羽じゃないけど、女の子にまた食事を作ってもらいたいんだ)

『そう都合よく、いくもんか』

(圭祐、やるだけやってみたいんだ)

『気持ちは分かる。でもまだ実宝の存在が単なる空想の産物って仮説がまだ完全に消えたわけじゃない』

(そうだけど、料理……)

『さっきの事だって、同人誌の中身は俺は良く知っている物だから実宝の話している内容は俺自身が想像の中で創ることだって可能だと思うのだ。それだと実宝が想像の産物って仮説もまだ一向に捨てきれない事になってしまう』

 圭祐は何度言っても実宝が空想の産物だと言う疑いを消し去れないでいるようだ。

穿った言い方をすると、実宝が圭祐の作りだした想像物なら、見ている前で彼女が何かを持ちあげていたとしてもその全ての出来事が俺の心象形成映像である可能性もあると……。

 圭祐は言う。

『自分で言い出すのも何なんだが、俺は此処に引き籠って結構長い。だから今となってはそこそこ頭も変になってる可能性だって正直ちょっと、否定できない。無論そんなこと認めたくもないが……。グラン』

 圭祐の言いたい事は分かった。

 それはそれとして俺は

「おい実宝、料理作ったり出来るかなあー?」

 エロ同人誌を夢中に読み耽っている実宝にダメもとで、そう聞いて見た。

(作ってくれると今までのインスタント生活からの脱却だ。実宝も女の子ならきっと可能性はある)

「やんないよ」

「何でぇ?」

「だって実宝はお腹空かないんだものぉー」

(残念……異次元のお化けに過大な期待を持ってしまった俺がバカでした……)

 大人しくピザをチンする事にしよう。

 朝早くからこんな大騒ぎをして、やっとありつける朝食だ。インスタントであってもピザは大変美味である。

 本日は【KS】には見舞われずにレンジは正常にその使命を果たしてくれた。

 感謝、感謝。

 俺はお腹一杯になったのでそのまま幸せな状態でまたベットの上に転がり込んだ。気が付くと時間は9時50分、そろそろ昼寝でもようかと思った。

 なんだ、実宝が出現したといってもこれじゃぁ部屋の中の生活は、以前と全く変化が無いじゃないかと思ったりした。


   第4章  若槻揚羽 に続く

以前、突然キッチンに現れた 若槻揚羽がまた出現する。ゴジラの第二形態じゃないけど、それはまるで別人のようだった。続きは23時くらいまでに投稿します。

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