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ジッポー(十宝) 3

ジッポーの過去が少しづつ明らかになってきた。そんな事より圭祐の関心事は今まで、何時ごろから彼女に私生活を見られていたかという……。

ジッポー(十宝) 3


 私の名前はアルトリア・エフ・ジッポー。長いから、日本語みたいに『実宝』さんでいいよ。歳は16歳、星座は乙女座、スリーサイズは上からB88、W58、H84ブラのサイズはGカップで、好きな物は気持ちいい(・・・・・)事全般(・・・)でぇす☆」

 実宝と名乗った少女は、明るい声で元気よく、さらっと意味深な事を言い放った。

 それにこの場での自己紹介でまずスリーサイズを言う必要性があるのだろうか……などという俺の思いなど微塵も意に介していないかのように、彼女は話を続ける。

「それから生理は順調で規則正しくてぇ、えーと、えーと至って健康体です♪ だから……もう赤ちゃんも作れるよ…………ひ、1人じゃ無理だけど……❤」

 実宝は顔を赤らめながら、聞いてもいない事を唐突にカミングアウトする。頬に両手を当てて腰をくねくね動かしている。

「…………」

 もうどこから突っ込んでいいのかわからない僕は、茫然としたまま彼女の話を聞き終えた。圭祐はそこで一つの不安に思い当たったようだ。それを彼女に聞かないといけないとひしひしと感じている。。

『聞いてくれ、グラン、僕は気になっているんだ』

 圭祐にとっては一大事のようだ。

「実宝は、話何処から聞いていた」

 俺は圭祐の不安を聞いた。

「何を?」

『僕の一人言をだぁ! 今日までの寂しい勇者の日常回顧録をだよぉー』

「ずっとだよ。何で?」

 実宝はさらっとそう言った。

『あっあっあっあっあっーひでええええぇ個人情報だ、プライバシーの侵害だぁー』

圭祐は今の一言で完全にパニックを起こしてしまった。

 この部屋の中の生活全般を女の子にずっと見られ続けていたと言う事実は、思春期の青年圭祐が受け止めるにはあまりに重すぎたのだ。風呂も着替えもトイレもだ。十宝もトイレまでは付いてこないか。

「そんな事言ったって、圭祐ったら考えてる事何でも口に出して喋り続けるんだもの。部屋に一人でいる時の圭祐の癖だよね、それって」

『誰もいないと思っているから自由に独り言喋ってるの!!

僕の部屋の中なんだから、僕の勝手にさせてくれて構わないでしょう、その辺りは!』

 今の言葉は圭祐の心の叫びだ。

 なんと圭祐は感情が高ぶってしまったせいか俺のコントロールを外れて自分の言葉で、実宝に喋りかけ始めている。ていると急にぞくっと寒気がし始めた。

『あっあっあっあっ払いたまえー、清めたまえー』「……だからみんな聞こえちゃったの……」

 実宝は上目使いでそう言う。

「御免なさいね、僕が元デブで、独白癖が酷くて、引籠りで。悪かったから、もういいから僕の部屋から出て行ってくれ。あっ僕の喋ってた事、外で誰にも言わないでね。個人情報だから。念押すけど」

 圭祐の言葉は止め処がない。俺は黙らせようとしているのだが全然抑えられないんだ。

 それに対して実宝の言葉は優しかった。

「うん、言わないよって言うか……、言えないけどね実宝は……圭祐以外とは話せないと思うし……」

実宝の言葉は後半何故だか声が小さくなって聞き取りずらかった。また姿も薄く成り始めている。

「あっあっあっーちょっと待った、また、見えなくなっちゃいそうなんでその前に教えて。実宝はどうやって僕の部屋に入り込んで来れたの?」

 俺はやっと口のコントロールを圭祐から取り戻せたので実宝にそう問いかけた。

「……だからぁ……実宝はずーと圭祐の傍に居たんだよ。ただ圭祐に話しかけたりしても声が届かなかっただけ。圭祐、実宝の事今まで何で気が付かなかったんだろう……?」

「ここに居たぁー? ずっとぉー?」

彼女の出現は俺の登場以前と言うことになる。と言うことは彼女の登場は俺にまとわりつく残留魔法【KS】のせいではないことになる。俺の混乱とは関係なく圭祐は十宝に生活を見られ続けたショックで心の奥に飛び込んでしまった。天岩戸の奥深くディープゾーンに突入だ。

「いたよ……それがなにかぁ?」

実宝はニコニコ笑って俺を見ている。

いろいろ考えると混乱が酷くなる一方だ……。勇者には割り切りが必要だ。俺は混乱した疑惑を押し殺して実宝に言った。

「……ウン、たいしたことじゃない……」

あれこれと考えは飛躍したが、ここはとりあえず実宝の言葉に頷いて見せた。そして先ほどまで圭祐が抱えていた不安を直接聞いてみた。

「実宝ってひょっとしたら……お化け?」

「なによそれ? 実宝をただの幽霊だと思ってるのぉ。バッカにしないでよぉーーー!!」

「だって、ずーとこの部屋に居て僕は実宝の存在に気が付いていない……ってことは、君は実体のない呪縛霊とかじゃないのぉ?」

 自分で口に出してみたものの、エア彼女よりそちらの方こそ現実味がありそうだ。俺はそう言った後、実宝を見つめ返した。彼女の瞳を見つめまた圭祐だ。ディープゾーンから這い出して来て、勝手に喋り始めている。

 そう言えば、俺だって前の世界にいたころから実体のあるモンスターは得意としたが、幽霊とかお化けとかは大の苦手だった。お化けは怪物と違って魂が生きていて、それぞれが生前の恨みとか動いている、人とは別の目的を持ってずっと見えない姿のまま空間に佇んでいる存在だから……、それ自体にぞっとしてしまうのは俺も圭祐と一緒だ。

「だから違うって。実宝はねえ……とある王国のプリンセスなの……それが悪い魔法使いに掴まってしまって地下牢に閉じ込められて、手足を拘束されて手足の先まで全身隈なく凌辱されてしまったのです。」

「えっこの世界には俺が知る限り魔法使いとか存在しないと思っていたが……」

 俺は圭祐の知識を元にそう言った。

「実宝はこの世界の住人じゃないもん。別の世界から飛ばされて来たのぉーーーー!!」

「それは俺がいた【セレンティウス・グランド】とはまた別の世界?」

「【ミルーシア】って言います。

 そこで、そこで……

 あああーん。

 実宝はその狒狒爺のような魔法使いに動けない様に縛られていいように弄ばれてしまい……、あんなことやこんな事や、ああしてこうして……」

「ちょっと待って、実宝の話、今の部分、具体性が全然見えて来ない。」

「あああーん。自分のお口ではとてもとても言えません」

 実宝は悲しそうな顔をして、俯き加減で涙を流した。

「御免、聞いて悪かった。思いだしたくない話を無理にさせようとして」

「そうじゃなくって、実宝のボキャブラリーでは、適切な言葉がまるで見つからなくって」

「そっちなのね」

「とにかくその魔法使いは酷いんです。自分のはもう年であっちの方は全然役に立たなくなっている癖に、ケルベロスとか言う猟奇的なおぞましい怪物を私にけし掛けて」

「ケルベロスって言うと犬属性……獣姦プレーですかぁー」

圭祐は不謹慎とは思うが、実宝の話すシチュエーションに思わず言葉に出してそう言った。

「それで、それで……」

 実宝は口に手を当てて、話を続けるのを恥ずかしそうにもじもじしている。

「うん、うん」

「良く分からないんです」

 俺はガクッと膝をずり落とした。

「ボキャブラリー不足かい!」

「いえ…私がとっても嫌だと強く思ったら私、私、この世界に来ちゃいました。っぽぽぽーんと」

「えええー???」

「多分……私……」

 実宝はこっちの世界に飛ばされた理由が分かってないんじゃないかと思う。

 話が一向に先に進まないと思ったので、彼女に代わって俺が説明して見た。

「たぶん実宝は、耐えられない精神的苦痛の中で、周りにある現実を全否定したんだろう。それによって君の心は時空を超えてこっちの世界まで飛んで来たんだ」

「そうそう、実宝はそんな感じの事をお話したかったんです」

「説明する相手に言わせてりゃあ世話ないけど……」

「だからお化けでは無いのです」

「立派なお化けじゃん。それって次元は越えてるけどお化けには違いない」

「あああーん。実宝は此処にちゃんと居るのです」

「わかった、分かった。もうお化けとかは言わないようにするから」

「はい」

「言ってみりゃあ俺も似たようなもんよ。この世界に飛ばされた時、圭祐の体と融合出来たからこうして実体が持てたんだけど、実宝は実体との融合はせずに意識体のままこの世界に存在している訳だからね」

「実宝はそうなんですか……でも圭祐は実宝の見立てだと、ずーと以前からのこの世界の住人の様に見えるのですけど。実宝は結構前からこのお部屋に住んでましたから。だってここから動けないんですもん」

「だからそれが呪縛……何でもない」

「圭祐は前からずっと同じ圭祐ですようぅ」

「はぁ僕が何でぇ?、以前から?、見た眼は生まれた時から変わらずの村雨圭祐なんだけど今はこの体の中に2人の人格がいるんだ。そのもう一人が勇者ピクサー・グラントなのさ。」

 俺は手を左右に振って彼女の解釈を否定した。

「俺は肉体は村雨圭祐でも、それを動かしている心は勇者ピクサー・グラントなのだ。もっともさっきみたいに圭祐が表面に現れる事もあるが……」

「そうですかぁーまあ、まあ、実宝にとってはそこのところは、実はどっちでも良い事なんですけど」

「それじゃあ急に変な事言い出すなよ」

「すみません……」

 そう言っている実宝の視線の先には、俺のベットの脇の平テーブルに置かれていた僕の同人誌の未完成漫画原稿があった。その漫画を彼女は何故か気にしていた様だ。

 俺は知っている。

 その製作途中の漫画のストーリーは、異世界で悪魔と魔道士達の反乱が起こり、世界が闇に覆われて行き、神に選ばれた世界を統べる王は殺害されてしまうと言う始まりだ。

 そしてプリンセスのフィアンセであった騎士の称号を持つ主人公は捕らわれた王妃と姫君を救出に魔王の城に向うのだが、ふっとした油断から魔道士しょうもない策略に嵌り、異世界に飛ばされてしまうと言う話だった。その漫画原稿がどうしたと言うのだ。

「実宝、僕の漫画がどうかしたのかい?」

俺は口に出して実宝にそう聞いて見た。

「あっあっ……何か圭祐が独り言で喋っていたお話と良く似ているかなぁなんて……」

なんだ、そういうことか、と思った。

 確かに!!

「似ていて当然さ。僕が今まで辿ってきた事を漫画に書き留めて、○○社の大賞にでも応募して見ようかなあなんて、思ってさ。コツコツ描き進めていたんだから」

「そ、そ、そうですよね、似てて当たり前ですよね。圭祐、その漫画何時から描き始めてますか……」

「初めての長編なんでかなり時間が掛っちゃってさぁ半年くらい前からかなぁ」

自分でそう言って俺はその後の言葉を失っていた。半年前には俺はこの世界に来ていない……。

(それじゃあ、俺の過去の記憶って一体……異世界で起こった過去の事件は、自分の中でただ創りだした引き籠り高校生の妄想に過ぎないって事なのか……)

「グラン、実宝が言っている事は、勇士グランはこの村雨圭祐が漫画のお話の中で造り出した人物だってこと……。つまり圭祐の別人格、それってつまりは人格分裂ってこと……」

「そう」

「そんなバカな。圭祐、俺ははっきり覚えてるグラン。俺の生れた村、育った場所、幼い頃の記憶だってはっきりある。その漫画は単に少し似てるだけさ」

「十宝はそれでも良いかも」

「いいかもじゃなくて。そうかも知れない……でもそうでないかも知れない。現に僕が以前描いた漫画のストーリーと圭祐の話してくれた異世界はとても似ている。眼の前に居る実宝の存在も不確かな部分がある……実宝もグランさえも部屋に一人でいる圭祐の作りだした妄想……。

圭祐、大丈夫だ疑うな。そんな事あれこれ考えてると、どうして良いかわかんなくなっちまうよな。

『そう……だよな……でも漫画のストーリーとの一致は何か理由がないと納得出来ない』

 圭祐が言った。

(俺も……わからん)

 今の言葉に、2人して一瞬茫然としている俺達を実宝は何も言わないでただじっと見つめていた。

 俺は実宝に描いていた漫画のストーリーを指摘されて瞬間、圭祐と2人して混乱したが徐々に気を落ち着けた。

 たかが漫画のストーリーじゃないか。この事一つで何か分かる訳じゃない……。

同人誌に描いた話はファンタジーアクションだ。そんなの幾らでもある月並みなストーリーさ。どうってことは無い。俺が転生する以前の圭祐がこのくらいの事を考えていたって、それは単なる偶然の一致に過ぎないさ。

「あのさぁ実宝、この漫画原稿も圭祐の創作物であり、個人情報なわけ……」

「はい」

「分かるよねぇ」

「はい、分かります。」

「それじゃあ、勝手に読んじゃあいけませんよ。俺としてもちょっと恥ずかしいって言うかさぁ、はっきり言うと無断で読まれたくないし……特に女子には」

「直接、圭祐の漫画読んだりとか、してないよう実宝はぁ」

「あ、そうなの、今の僕の勘違いか。でも、その【直接】って言うあたりが気になるんだけ……」

「圭祐が漫画描いてる時、私ずーと上の方から見てたんだよ。天井の辺り……一生懸命白い紙に向い、圭祐が一心不乱に集中して考えてたり、描いてる姿に実宝は胸がキューンとなったんです。スンゴクカッコ良かった。魅かれましたぁ実宝」

「そ、そうか……い」

 俺をじっと見つめる実宝の瞳がとても健気で可愛い。

「ちょっとエッチなシーンとかにさしかかると、圭祐さんの顔が厭らしくなったり、綻んだり、それがとっても面白いだ。エッチじゃないシーンでもヒロインの女の子描いてる時の顔とかも、に口元にやけたり、興奮するとよだれを垂らしたりして、圭祐それも気がつかなかったりして、豊かな表情になって、ホント良い味出してると思うのぉーーーむぎゅってしてあげたいほど可愛いです」

『何を言ってるんだ、どこを褒めてるんだキミは……』

 また圭祐が心の表に出てきた。

『僕の漫画の原稿読んだんだぁ』

(気にするな、圭祐。実宝は褒めてくれてるぞ。決して痛い批判とか、悪口なんか言ってないから大丈夫だ)

『そうかぁ、そうかぁ……』

 圭祐は今まで自分の描いた漫画を女の子に見せた事は無かったらしい。

 女の子に漫画読まれる行為には、全くの無菌状態だったようだ。

 圭祐の感情の高ぶりで、彼女の方を見ている俺の顔がどんどん真っ赤に成るのを感じた。


グランはジッポーを見て、好感を持った。彼女に魅力に引き寄せられる自分を感じるのだが。

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