出血届
昔々のお話である。被害者の血を舐める変な刑事が居た。
「浦戸刑事。また殺人事件が発生しました。実地検証に向かいましょう。」
「ちっ。面倒臭えな。お前、車運転してくれるよな?それなら行ってやる。」
「勿論ですよ。浦戸刑事の凄腕を見たくてこの県警、いやこの署を希望したんすから。」
「杉井。お前って奴はとても変だな。」
「先輩ほどじゃないっすよ。素直に喜べば良いじゃないですか。」
浦戸新…刑事としては手柄を立てたことはなかったが、三年前、連続殺人犯を特殊能力によって捕まえることによって出世することが出来た。それからというもの、新は非常に冷めて生意気で上司や同期、そして部下などには疎まれる存在となったのだ。
「別段、能力も無いくせに権力争いとか滑稽な事よ。有りもしない犯人をでっち上げて不幸を生むだけだ。」彼はそう平素より口に出していた。手柄をあげることに必死になっている警官に反省させたり、逆に怒らせてしまったりと賛否両論を巻き起こしていた。
その日も、某高層マンションの一室で起こった殺人事件の現場検証に向かっていた。
「浦戸刑事。血痕を採取しました。残りの血液をご自由にお使い下さい。」先に到着していた大野に言われた。
「ああ。遠慮無く頂くとしよう。」浦戸はジャケットから銀のスプーンを取り出すと、死体近くの血液を採取して口の中に入れた。他県警や警視庁には野蛮な刑事だと思われているが、この県警では普通になってしまっているのだ。
「ガイシャのソウルを感じるぞ。許せねえ。強姦した挙げ句、膣を引き裂いてやがる。犯人は黒のパーカー。そして、”I don't like girls”と書かれたTシャツ、そしてベージュの靴下を履いている。」
「そんな事まで読み取れるのか。お前、何なんだ一体。」新任の村重巡査は言った。
「俺は確か、女系でワラキア公ヴラド・ツェペシュとつながっている。隔世遺伝だ。どんな思いで死んでいったか、血を飲むことで残留思念を感じ取る事が出来る。」
「ふざけるな!お前みたいなオカルト刑事、俺は信用しねえ。」村重は急に怒り始めた。
「才能も勘も冴えないのにたいそうな言いぐさだ。村重、この一件お前に任せる。」
「望むところだ。お前の手なんて患わせることなく解決してやる。」
村重巡査は荒々しくマンションを飛び出す。
二日後だ。女子大生を人質に取る立てこもりが発生した。
「行くか。ヤツの匂いがしてきた。村重が行っておるが不安だ。」
車を走らせる。吸血鬼の力を見せつけてやる。
「お前ら!この俺に近づいたらどうなると思う?この女の首がぶっ飛ぶぜ。引きこもりの恨みは怖いんだぜ!おらぁ!」殺気を出した男だ。
「やめなさい!この子には何の罪もないんだ。」村重は怯えながら怒鳴りつける。
「はあ?そんな理屈が通じるかよ。こいつは金持ちの娘だから!許せねえんだよ!」
「そんな事言ったって頑張ってるんだよ!どんなに貧しくても。」
「お前みたいな公務員に言われても何の説得力も無いんだよ!はい論破、ポリは帰って下さい。」
一気に緊張感が高まるその時だ。
「木内隆史…職業は無職。両親は公務員だったな!公務員嫌いの嘘をつきやがって。許せん!」
黒の十字架を持ったドラキュラが反対側の建物の屋上に居た。
「お前。例の高層マンションでの殺し、その犯人だな。」
「何を言う!俺は何も関わっていない。なんだその格好!黒くてよく見えねえぜ。」
「お前に地獄を見せてやる!拒否権はない!」浦戸の目が赤眼となり木内の精神世界に入り込みガイシャの霊を現わす。
木内の精神世界
「やべえよ。アイツ。俺が殺したって分かってるのか。」
木内は森を彷徨っていた。
「アナタ、なんで私のこと殺したの?私、もっと生きていたかったの。それなの…」殺された女が木内に話し掛ける。
「うるせえヤツだ。あっちに戻ろう。」内心怖いと思いながら彼は立ち去った。
「答えてよ。なんで殺したの?私、信じてたんだよ。隆史の事。」すぐに彼女は彼の前に現われる。
「うるせえ。腹が立ったからだよ!」内心怖がりながら怒鳴る。
これで終わりだと安心した木内だったが、次の一言で耐えきれなくなる。
「私、アナタのこと絶対に許さないから。一生呪い続けてやる!」
四方八方、彼女に囲まれ悪魔の八重奏によって言われ、彼は失神気絶した。
「連行だ。署で追求してやる!…浦戸刑事。」
「何ですか?村重巡査。」
「犯人確保、協力有り難うございました。しかし、ワシはやはり貴公のやり方は好かん。」
「村重巡査。方法は二の次、勝ちゃ良いんですよ。これからも宜しくお願いします。」
徐々にであるが、その優位性が認められて来つつある。浦戸の天下は近いぞ。