005 フリージア・パニック②
私こと、フリージア・セイクリッドの懊悩は続く。
シルファード王国、第二王女、ダリア・グローリアスが消えたのである。
妙な喋り方をする村人から村近辺の山道に不審者がいるとの報告を聞くや否や、己の正義に従ったのだろう、脇目も振らずに山中に姿を消したのである。
ただ、非常に心配な事柄がある。
ダリアほどの技量の持ち主であるならば、並みの武人では太刀打ちできないであろうから、身の危険に関してはさほど心配していない。
だが、真の問題はこの辺りは道がほぼ開拓されておらず、土地勘がある人間でないときっと遭難するであろうということ。
きっと彼女のことだ。
間違いなく今にも迷っているだろう。
そう間違いなく私は確信していた。
であればこそ、私は部下に村周辺の警戒を促し、私自身はダリアを探すために山の中へ向かうことにした。
「……迷った」
村の住民に山の中の案内を頼みこんだが、当然ながら危険を承知で案内役を買って出るような人物はいなかった。
申し訳なさそうに村長から全く見方がわからない謎の地図を渡され、山中に入っていった私であるが、ものの見事に迷っていた。
「ミイラ取りがミイラに。ダリア探しがダリアに。……私は疲れているようだ」
なんとなく、迷わないような自信は持っていたのであるが、結局はそんな感じがしていただけであって、今となってはどこから来たのかさっぱりわからない。
……ダリアも無事であるといいんだが。
「……」
どこともしれない道を歩く。
「…………」
ただ呆然と道なき道を歩く。
「…………」
止まる。
「……寂しいな」
座り込む。
「こんな時は羊を数えるといいとダリアには教わったな」
頭の中で羊を考える。
「……羊とは?」
考えることをやめることにした。
考えていても埒はあかない。
座っていても問題は解決しない。
ならば私にできることは動くことだけだ。
立ちあがり、再び私はどことも知れぬ道を歩くのだった。
「はぁ……、ダリアはいったいどこに」
歩き始めてもう数時間は経過したのだろうか。
体力的にはタフであることを自負しているが、心労のせいか非常に身体が気怠く感じた。
こういう時は大抵嫌なことが起きる。
ある時は、ダリアに池に突き落とされた。
ある時は、ダリアのいたずらのせいでとばっちりを喰らった。
ある時は、ダリアが――やめよう。
「……ううぅ、ダリアにもっと優しくしてあげればよかったな」
縄で縛りあげたのはやはりやりすぎだったかな?
今更だけどダリア、怒ってないかな?
「ごめんよぉ、ダリア……」
…………。
……。
「ふっふふふふダリア」
「ふふダリアふふふ」
…………。
……。
「ダリアぁ……どこいったんだよぉ」
「私を見捨てないでくれぇ」
…………。
……。
「ふっふふふふうっううううっ」
「うっうううっふふふふふっ」
…………。
……シニサラセ-。
「!? ……ダリアの声がする!」
山のどこからかダリアの声が聞こえた。
間違いない、あいつは近くにいる。
躁鬱になっていた精神は引き締められ、まっすぐと私はダリアのいるであろう場所へ駆け出す。
「――っ!」
「~~っ」
何者かと争っている!?
いけない、すぐにでも駆けつけなければ――!?
そこで私は信じられない光景を見た。
ダリアが倒れ、討たれる姿を。
そして、黒い外套を来た――女?
「……ダリア!? 貴様、ダリアに何を――」
「え? あ、あ?」
私の存在に気づく不審者。
しかし、そんなことは今はどうでもいい!
私はなりふり構わずにダリアに駆け寄った。
「ダリア!!!!!」
「(スピー)」
「貴様、よくもダリアを――!!!!」
「え、あの……」
「(スヤスヤ)」
――そして、なんだかんだあって和解。