004 フリージア・パニック①
私こと、フリージア・セイクリッドは懊悩していた……。
ことの初めは、私が国からある命令を受けたことから始まった。
騎士の中でも少しばかり変わった立場にいる私は基本的に厄介者扱いされているが、だからと言って厄介事を厄介者にやらせないでもらいたい。
ともかく、ある任務を受けた私は数名の部下を引き連れ、王都より出立した。
目的地はとある村。
一応、アルファルドとかいう大層な名前があるらしいが、まあ、どうでもいい。
私が率いる小隊は、この村でレヴィア帝国に対しての警戒を行うことが主立っての任務内容であった。
一応、騒ぎになっても困るので、村人にはレヴィア帝国への警戒をしていることは告げてはいない。
地方を定期巡回していろいろ調査をしているという全く的を射ない説明で村長が納得してしまったので、理由はそれで通している。
村には物置代わりに使っていたという空き家があり、しばらくの間我々は拠点としてそこを借り受けることになり、村内で表立った行動をすることができるようになった。
ここまでは至極順当に事が運んだのだが、この後に予想もしなかった事件が発生したのだった。
――いや、正確には問題は王都を出発した時点で問題は発生していたのだ。
シルファード王国、第二王女、ダリア・グローリアス。
王国きっての問題娘。
女でありながらその性格は男勝りであり、実は男ではないのかとまことしやかに噂されることもあったという。
そして、そんな彼女と私はかなりの深い間柄で、結構な長い付き合いがある。
――その件の彼女が、なぜか村の中にいたのだった。
「「あ……」」
互いに目が合う。
互いに沈黙する。
互いが現実を認識する。
「……撤退!」
私からすぐさま視線を逸らし、ピューっとどっかへ逃げ去るダリア。
いったいどうしてここにダリアがいるんだ!?
……謎だ。
理由など皆目見当がつかず、頭は非常に混乱していたが、逃げるダリアを身体は勝手に追いかけていた。
――そう。
逃げるダリアを追うのは慣れている。
理由など考えるまでもなく、捕まえて吐かせればいいのである。
「ちょっと待て! 馬鹿ダリア!」
さて、大物獲りの時間だな!
「観念しろ、ダリア」
一瞬で捕まった。
逃げるダリアを私が追いかけようとすると、すぐそこにいた村人に衝突するダリア。
終わり。
さすがの私も唖然とした。
さて。
事はともかく、ダリアは縄でぐるぐる巻きにした。
王女にさすがにこれはまずいのでは、と進言する部下たちであったが、彼らはこのじゃじゃ馬がどれだけの危険性を秘めているのかきっと理解していない。
ダリアに甘い顔を見せたらどんどんつけ上がるし、足元を掬われるのである。
……一瞬たりとも気を抜くことはできない。
「さて、いろいろと話してもらおうか」
「ふんっ」
鼻を鳴らすダリア。
王女らしからぬ言動に思わず注意をしたくなるが、ここでダリアのペースに乗ってはいけない。
あくまで平静を保つ。
「……まず、一つ目だ。どうして此処にお前が居るんだ?」
「黙秘権を行使する」
――そんな権利はどこにもない。
だが、そんなことはどうでもいい。
ダリアがだんまりを決め込むというのならば、こちらにも考えがある。
「貴様の秘密をばらすぞ」
「ああ。貴様の秘密をばらすぞ?」
「……くっ」
一蹴。
完全敗北であった。
相手が悪かった。
こうして私はダリアを捕まえることはできたものの、なぜダリアが此処にいるのか聞き出すことは叶わなかったのだった。
「ま、それはそうとしてだ。お前には十分に反省してもらわないと困る」
「うげ……」
あからさまに嫌そうな顔をするダリア。
だが、今回ばかりは強めに言い含めておかないと、いつかこいつは本当に大変なことに巻き込まれかねない。
殊更、その対象が他でもないダリアであるからこそ、私はより心配を覚える。
であればこそ、私は心を鬼にして、彼女を性根を叩き直し、教育しなければならないのである!
「そもそも、お前は――」
「うげー…………」
――問題はまだ始まったばかりであった。
受難に次ぐ更なる受難。
ダリアと共に行動をすると大抵の場合、予想外の状況に陥る場合が多い。
それも悪い状態で。
ダリアを叱り付けている間に、仏心に目覚めてしまい、縄を途中で外してしまったのが悪かったのか。
もしかすると、人生の中でダリアと関わり合いになってしまったこと自体が悪かったのかもしれない。
だが、ダリアがトラブルメーカーではあるが、決してそれだけで完結する人間ではない、むしろ人に誇れるような人間であることを私は誰よりも理解している。
だからこそ、私はやれやれ、と心の中で大きく溜め息を吐くのであった。